Khap

2.0
Khap
「Khap」

 北インドでカープによる名誉殺人が話題になったのは2007年のマノージ・バブリー名誉殺人事件あたりからだった。カープとはヒンディー語で書くと「खापカープ」で、ハリヤーナー州およびその周辺部において、ジャートやグッジャルといった農耕カーストのコミュニティーの間で見られる独特な組織である。一般的にカープは40のパンチャーヤト(村落議会)から成り、村落間に関わる事柄を合議制で決めている。異宗教間または異カースト間の結婚はインドの他の地域でもなかなか認められないのだが、この地域で独特なのはゴートラ(氏族)を巡る結婚のトラブルだ。地域の伝統によると、同じゴートラの男女は血縁とされ、結婚を禁止されている。それでも駆け落ち結婚してしまった同ゴードラの男女にはカープが勝手に死刑を言い渡し、殺してしまうことがある。カーストやカープの名誉を守るためとされる。これが名誉殺人である。

 2011年7月29日公開の「Khap」はその名の通りカープによる名誉殺人を題材にした映画だ。監督はアジャイ・スィナー。過去に複数の映画を撮っているが、全く聞いたことのない作品ばかりだ。キャストは、ユヴィカー・チャウダリー、サルタージ・ギル、オーム・プリー、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、マノージ・パーワー、モホニーシュ・ベヘル、アーローク・ナート、ニヴェーディター・ティワーリーなどである。何人か演技派俳優を揃えているが、主演のユヴィカーとサルタージはどちらもB級俳優だ。

 ハリヤーナー州のサジョード村では、同ゴートラの男女が駆け落ち結婚すると、カープの長であるオームカル・スィン・チャウダリー(オーム・プリー)の命令により名誉殺人が繰り返し行われていた。そんな悪習に耐えきれなくなった息子のマドゥル(モホニーシュ・ベヘル)は、妻子を連れてデリーに逃げた。

 それから16年後。マドゥルはデリーで人権委員会の委員として働いていた。そして娘のリヤー(ユヴィカー・チャウダリー)は大学に通うようになっていた。マドゥルはリヤーに故郷のことやオームカルのことは全く話していなかった。たまたま大学の研修旅行でリヤーはサジョード村へ行くことになる。そこでリヤーは同じ大学に通うインド系南アフリカ人クシュ(サルタージ・ギル)と出会い、恋に落ちる。また、リヤーとクシュはサジョード村で、駆け落ち中のカップルをかくまった。

 デリーに戻ってきたリヤーは新聞やTVで、サジョード村で出会ったカップルが自殺したと知る。だが、リヤーはそのとき二人を追うオームカルと会っており、自殺ではなく他殺だと直感する。マドゥルはこの事件の担当になり、16年振りにサジョード村を訪れ、父親のオームカルと再会する。

 マドゥルは、死んだスリーリー(ニヴェーディター・ティワーリー)の父親スキーラーム(マノージ・パーワー)などから事情を聞くが、なかなか村人たちの協力は得られなかった。オームカルは、スキーラームが暴露するのではないかと恐れ刺客を差し向けるが、誤ってマドゥルが撃たれてしまう。マドゥルは、デリーから呼び寄せられた妻やリヤーをオームカルと引き合わせ、息を引き取る。

 リヤーは当初オームカルを怖がっていたが、オームカルは孫娘のリヤーを可愛がり、二人の間で絆が生まれる。オームカルはリヤーの恋人クシュと会い、二人を結婚させる。一応クシュのゴートラを確認したが、彼らのゴートラとは異なっていた。しかしながら後からクシュの父親が同じカープの出身だと分かる。ゴートラが違っていてもカープが同じだとやはり血縁扱いになってしまうのだ。

 カープが開かれ、オームカルは長から降ろされる。代わりにスキーラームが長になる。また、リヤーとクシュの結婚は無効とされ、クシュは村から追い出される。デリーに送られたクシュは弁護士に相談し、最高裁判所から結婚は有効であるとの判決をもらってサジョード村に警察と共に舞い戻る。だが、村人たちに警察は追い払われ、リヤーとクシュは捕まってしまう。

 オームカルは銃を持ってリヤーとクシュを助けにいき、スキーラームを撃つ。だが、実はスキーラームは二人を逃がしていた。スキーラームは息を引き取り、オームカルは警察に逮捕される。一方、カープの中でもっとも過激派のダウラト・スィン(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)が執拗にリヤーとクシュを追跡するが、トラックで彼らをひき殺す寸前に警察に捕まる。

 カープによる名誉殺人を扱った映画ということで、それなりに社会派映画の作りかと予想して見始めたが、意外に娯楽映画の作りをしており、特にリヤーとクシュの出会いなどは通常の娯楽映画と全く同じ展開だった。しかしそれが映画の質を低めていたわけではなく、むしろデリーのような大都会での自由恋愛を一方で描くことによって、サジョード村のような農村部に根強く残る悪習が強調されていた。

 カープやゴートラについても丁寧に説明されていた。結婚相手の決定にゴートラが関わってきたり、カープが結婚の是非に判決を下したりする習慣はハリヤーナー州、パンジャーブ州、ウッタル・プラデーシュ州、ラージャスターン州あたりに特有のもので、他地域のインド人にとっては馴染みがない事柄だ。映画の中でも、インド人であってもカープやゴートラについて知らないキャラがいたが、それはあながち間違いではない。また、アーローク・ナート演じる教授がカープ擁護派の発言をし、なるべく多角的に物事を捉えようとする努力もなされていた。カープや名誉殺人について知るためにはいい映画である。

 リヤーとクシュの結婚があっさり認められたのには驚いた。てっきり、実は二人は同じゴートラで結婚は認められないというオチになるかと思っていたが、彼らのゴートラは異なった。しかもたまたま二人ともジャートに属し、カースト的にも問題なかった。とはいってもそう簡単に物事が進むわけがない。後から、クシュの父親が同じカープの出身だったことが分かる。ゴートラが異なっていても、同じカープに属する者は皆ひとつの家族として扱われてしまい、つまりは結婚ができなくなる。一体どこまで禁忌があるのだろうか。このようにいくつもの条件をクリアしなければ、カープの認める結婚をすることができない。そのため、この地域の農村には結婚できない若者がたくさんおり、性犯罪の温床になっているとされる。

 カープを巡る様々な問題にしっかり触れられており、勉強になる映画ではあるが、同時に、B級俳優によるB級映画という印象は拭えない。ユヴィカー・チャウダリーはオーバーアクティングであるし、サルタージ・ギルにもスターとしてのオーラがない。オーム・プリー、マノージ・パーワー、ゴーヴィンド・ナームデーヴといった演技派俳優たちは別次元の演技をしていたが、かえって映画のバランスを崩していた。音楽も精彩を欠いた。

 「Khap」は、北西インドの農村部で問題になっているカープによる名誉殺人を真っ向から取り上げた作品だ。完全にシリアスな映画ではなく、娯楽映画の作りになっており、気軽に鑑賞できる時間帯も長い。カープやゴートラについて丁寧な説明があり、これらのことについて知りたい人には勧められる映画だ。ただ、主演俳優たちの演技に難点がある、音楽が良くないなど、チープさが目立つ映画であり、完成度は高くない。


Khap (2011) | Yuvika Chaudhary | Om Puri | Govind Namdeo | Bollywood Latest Movie