Jalpari

3.0
Jalpari
「Jalpari」

 2012年5月17日にカンヌ映画祭でプレミア上映され、インドでは同年8月31日に公開された「Jalpari(人魚)」は、デリー育ちの子供たちが父親の故郷であるハリヤーナー州の農村に滞在する中で体験した出来事を描いた作品である。

 監督は「I Am Kalam」(2011年)で有名なニーラ・マーダブ・パンダー。キャストは、パルヴィーン・ダバス、タニシュター・チャタルジー、スハースィニー・ムレー、ラーフル・スィン、レヘル・カーン(子役)、クリシャーング・トリヴェーディー(子役)、ハルシュ・マーヤル(子役)などである。

 デリー在住の姉弟、シュレーヤー(レヘル・カーン)とサム(クリシャーング・トリヴェーディー)は、父親デーヴ(パルヴィーン・ダバス)と祖母(スハースィニー・ムレー)と共にハリヤーナー州のマドーガル村を訪れ、叔父の家に滞在する。デーヴは村に病院を建てようとしていた。病院が出来るまでの間、デーヴは診療所を開き村人たちの診断をした。しかし、ヴァイド(村医者)はデーヴのすることを面白く思っていなかった。叔父の家ではシャブリー(タニシュター・チャタルジー)が家事をしていた。シャブリーは妊娠していた。

 ボーイッシュなシュレーヤーは村の子供たちと早速喧嘩をしながらも仲良くなり、一緒に遊ぶようになる。シュレーヤーは池で泳ぐのを楽しみにしていたが、村の池はどこも干上がってしまっていた。唯一、池があるとされた場所には魔女の家があり、誰も近づこうとしなかった。

 サルパンチ(村長)の息子ヴィーラー(ラーフル・スィン)の妻は妊娠していたが、ある日突然死んでしまう。ヴァイドはシュレーヤーのせいだと言い出し、村人たちはデーヴの一家を追い出そうとする。その夜、シュレーヤーとサムは家を抜け出す。シャブリーと夫のトリローチャンがどこかへ向かっているのを見つけ、彼らの後を追う。シュレーヤーとサムは丘の上に池を見つけるが、同時にそこに小屋を見つける。シュレーヤーが覗いてみると、そこではヴァイドがシャブリーの胎児の性別検査を行っていた。

 シュレーヤーとサムを探してデーヴとヴィーラーがやって来る。違法な性別検査の実態を知ったデーヴは警察を呼び、ヴァイドたちを逮捕させる。

 題名もそうだが、セリフの中でも水が頻繁に言及されるため、水問題に関する映画だと思って鑑賞することになる。たとえばシュレーヤーは学校で人魚姫の劇をするし、マドーガル村に着くと泳げる池を探し回る。村では池が干上がってしまっており、気候変動などのテーマにつながっていくと予想することになる。

 ところが「Jalpari」の結末は意外にも水から離れる。真の主題は女児堕胎であった。インドでは女児堕胎が絶えないため、胎児の性別検査は禁止されている。ところがマドーガル村では違法な性別検査が行われていた。そういえば村には少女が一人もおらず、デリーからやって来たシュレーヤーが唯一の少女になっていた。シャブリーも西ベンガル州ジャルパーイーグリー出身であった。おそらくマドーガル村やその周辺では女児堕胎をしすぎたために女性不足に陥り、嫁を「輸入」するしかなくなっていたのだと思われる。映画開始当初から散々、水を匂わせておいて、最後の最後で異なる主題に急転直下着陸させるのは非常に高度なテクニックだ。後から思い返してみれば確かに伏線が張られていた。

 ただ、最後の時間帯にいきなり女児堕胎問題を入れ込んできたため、女児堕胎問題の本質に迫るような深みのある映画ではなかった。とにかく胎児の性別検査や女児堕胎はいけないものだということを問答無用で広めることしかできておらず、説得力に欠けていた。

 前作「I Am Kalam」もそうだったが、ニーラ・マーダブ・パンダー監督は子役を使うことに長けており、今回も子役が非常に重要な役割を果たしていた。シュレーヤーを演じたレヘル・カーンは、女の子ながらボーイッシュな性格で、髪も短くしており、村ではなかなか女の子とは見られない。臆病者の弟サムを時にからかい時に励ましながら引っ張っていく。そんなシュレーヤー役を等身大の演技で見事に演じ切っていた。ちなみに「I Am Kalam」で主演をし最優秀子役賞も受賞したハルシュ・マーヤルも村の子供役で出演していた。

 ロケはハリヤーナー州マヘーンドラガル県で行われた。ラージャスターン州との州境にある県で、風景もハリヤーナー州というよりはラージャスターン州寄りだ。実際の村でロケが行われているだけあり、村の雰囲気はとても生々しい。おそらくエキストラとして登場する人々も実際の村人たちなのではないかと思う。さらに、映画の最後で示されたところによると、どうやらマヘーンドラガル県はインドでももっとも男女比がアンバランスな地域のようだ。つまり、女児堕胎が盛んに行われている疑いのある地域である。そういう因縁の土地でわざわざこの「Jalpari」が撮影されたことになる。

 「Jalpari」は、水問題や気候変動問題を主題にしたキッズ映画と思いきや、最後の最後で女児堕胎問題に帰結させる荒技を見せてくれる。ニーラ・マーダブ・パンダー監督は子役をメインに据えた映画を作るのに長けており、子役たちの伸び伸びとした演技がこの映画の最大の魅力だ。


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