Bodyguard

3.0
Bodyguard
「Bodyguard」

 通常、インドでは毎週金曜日が新作映画の封切り日となっているが、大きな祭日など特別な理由があるときは必ずしもその限りではない。最近乗りに乗っているサルマーン・カーン主演の最新作「Bodyguard」も、ラムザーン(断食月)明けのイードゥル・フィトル祭に合わせて、つまり本日(2011年8月31日)公開となった。サルマーン・カーンはここ数年、「Wanted」(2009年)、「Dabangg」(2010年)とイード公開の映画で当てており、そのジンクスに則って「Bodyguard」をイードに当てて来たのである。

 ハリウッドにも、ケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストン主演の「ボディーガード」(1992年)という映画があるが、このサルマーン・カーン主演の「Bodyguard」はその翻案ではない。マラヤーラム語の同名映画のリメイクである。監督はマラヤーラム語映画版と同じスィッディーク。ヒロインはカリーナー・カプール。プロデューサーのアルヴィラー・アグニホートリーはサルマーン・カーンの姉妹で、アトゥル・アグニホートリーはその夫である。よって「Dabangg」と同じく血縁要素の濃い映画となっている。サルマーン・カーンがわざわざイード公開を選んだことからも分かるように、今年の話題作の1本だ。

監督:スィッディーク
制作:アルヴィラー・アグニホートリー、アトゥル・アグニホートリー、リライアンス・エンターテイメント
音楽:ヒメーシュ・レーシャミヤー(BGM: サンディープ・シロードカル)
歌詞:シャッビール・アハマド、ニーレーシュ・ミシュラー
振付:アシュレー・レベロ、アルヴィラー・アグニホートリー、マニーシュ・マロートラー
出演:サルマーン・カーン、カリーナー・カプール、ラージ・バッバル、ラジャト・ラーワイル、ヘイゼル・キーチュ、アスラーニー、マヘーシュ・マーンジュレーカル、カトリーナ・カイフ(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。満席。

 ラブリー・スィン(サルマーン・カーン)は一騎当千のボディーガードであった。ある日、ジャイスィンプルの地主サルタージ・ラーナー(ラージ・バッバル)の一人娘ディヴィヤー(カリーナー・カプール)を警護することになる。ディヴィヤーはサルタージの敵ランジャン・マートレー(マヘーシュ・マーンジュレーカル)に命を狙われていたのである。また、ラブリーの亡き父親もボディーガードで、かつてサルタージの警護をしていた。さらに、交通事故で亡くなった妊娠中の母親を助け、ラブリーの出生を助けてくれたのもサルタージであった。ラブリーはサルタージに大きな恩義を感じており、今回の任務を喜んで引き受けた。

 ところが、自分の身に危険が迫っていることを露知らぬディヴィヤーは、突然ボディーガードを付けられたことで困ってしまう。親友かつルームメイトのマーヤー(ヘイゼル・キーチュ)と共に、常に付きまとうこのボディーガードを何とか煙に巻こうと作戦を練る。ディヴィヤーが思い付いたのは、ラブリーを恋に落とす作戦だった。ディヴィヤーは「チャーヤー」と名乗ってラブリーに電話をし、彼を誘惑する。最初は不審に思うラブリーであったが、次第にチャーヤーの電話を心待ちにするようになる。

 ある晩、ディヴィヤーはラブリーを連れてディスコへ行く。そこでもディヴィヤーは密かにラブリーに電話を掛け、彼を誘惑する。そこへ、ランジャン・マートレーの手下たちが襲い掛かって来る。ラブリーは1人で暴漢たちを蹴散らし、ランジャンの弟を殺害する。その様子を見ていたディヴィヤーはラブリーに恋してしまい、電話先で彼に愛の告白をする。しかしラブリーはそれをチャーヤーからの告白だと受け取った。

 ディヴィヤーは、ラブリーとの恋を成就させることはできないと知っていた。マーヤーの勧めに従って、ラブリーとの関係を絶つことを決める。まずはチャーヤーになってラブリーに電話し、日曜日に公園でデートをする約束を取り付ける。ただし彼女は条件を付けた。それはディヴィヤーを連れて来ないことだった。ラブリーはそれを承諾し、ディヴィヤーからも日曜日に休暇をもらう。ラブリーは初めてチャーヤーと顔を合わせることになりウキウキしていた。日曜日にラブリーは出掛けようとするが、それをディヴィヤーは止め、無理矢理一緒に行くことにする。ディヴィヤーは物陰から見ているだけだと言って彼を説得したのだった。そして公園に着き、ラブリーを見送った後、ディヴィヤーはチャーヤーになってラブリーに電話をし、ディヴィヤーを連れて来たことを責めて彼に絶交を言い渡す。

 落ち込んだラブリーだったが、またチャーヤーから電話があるだろうと思い、気を強く持っていた。一方、ディヴィヤーはラブリーのことが忘れられず、翌日彼に電話をする。そして、もし自分と結婚したいなら一緒に逃げよう、1時間後に駅で待っていると言って電話を切る。ラブリーはディヴィヤーの警護を放棄してチャーヤーと駆け落ちすることはできないと考えていたが、そこへランジャン・マートレーの一味が襲撃を仕掛けて来る。ラブリーは単身彼らを一網打尽にし、ディヴィヤーを救い出す。ところが、ラブリーがディヴィヤーと駆け落ちしようとしているとの報告を受けたサルタージが駆けつけて来て、ラブリーを殺そうとする。ディヴィヤーは彼の命を救うため、ラブリーが駆け落ちしようとしたのは自分ではなく、別の女性だと言ってかばう。サルタージはディヴィヤーの言葉を一応信じ、ラブリーを見逃す。しかし部下を密かに差し向けていた。もし駅で誰も女性と会わなかったらラブリーを殺すように言いつけていた。それを聞いたディヴィヤーは彼の命を救うため、マーヤーを駅に向かわせる。駅でマーヤーと直面したラブリーは、彼女をチャーヤーだと信じ、受け容れる。

 数年後。マーヤーは男児を出産した後、死んでしまった。ラブリーはカナダへ移住することになったが、その前にサルタージに呼ばれ、久し振りにジャイスィンプルに戻って来る。てっきりラブリーはディヴィヤーがロンドンへ行って結婚したとばかり思っていたので、彼女がずっとジャイスィンプルに留まっていたことを知って驚く。一方、ラブリーの息子はサルタージと名付けられていた。サルタージ・ラーナーに恩義を感じていたラブリーは息子をサルタージと名付けたのだった。サルタージ少年は、密かに母親の日記を読んでおり、母親とディヴィヤーの間に起きたことを知っていた。サルタージ少年はディヴィヤーを母親と呼んでいいか聞く。実はサルタージ・ラーナーも娘をラブリーと結婚させようと考えていたが、勇気がなくて言い出せなかった。サルタージ少年の言葉を聞いて、サルタージ・ラーナーもラブリーにディヴィヤーとの結婚を頼む。

 こうしてラブリーはディヴィヤーと共にカナダへ行くことになった。計画がうまく行ったことでサルタージ少年は母親の日記をゴミ箱に捨てる。ところがその日記をラブリーは拾っており、ディヴィヤーが本当はチャーヤーだったことを知る。ラブリーは全てを許し、ディヴィヤーを抱き寄せる。

 非常に中途半端な映画だった。題名や予告編からバリバリのアクション映画を想像したが、アクションシーンは意外に少なく、あっても迫力に欠ける。サルマーン・カーンとカリーナー・カプールの間のお約束の恋愛も見所になると想像していたが、意外に悲しい展開を経る。コメディーも中途半端、ダンスも中途半端。主人公のキャラクターも中途半端、悪役も中途半端。無駄なシーンが多く、中だるみし、最後も締まらない。満を持して公開された映画であったが、蓋を開けて見ればバクワース(無駄話)な作品であった。

 最近サルマーン・カーンは南インド映画のヒンディー語リメイクや、南インド映画テイストのヒンディー語映画でヒットを連発しており、この「Bodyguard」もそのひとつである。しかし、南インド映画の作りは、そのままヒンディー語映画に当てはめると非常に古くさく感じることがあり、今までの彼のリメイク映画でもいくらかそういうところはあった。しかし、それ以外の部分で優秀な点があったためにヒットしていたと言える。しかし、「Bodyguard」はいくら何でも作りが雑すぎて付いて行けない。ボディーガードとしての硬派なキャラクターを確立するためには、チャーヤーの正体を突き止めるために女子寮に潜入しようとするような間抜けなシーンは必要なかった。命を狙われていると言うディヴィヤーにしても、彼女の命が狙われるシーンは2回しかなく、拍子抜けだった。ディヴィヤーの親友マーヤーは、単なる脇役ではなく、ストーリー上非常に重要な役割を担うことになるのだが、それに値するようなキャラクタースケッチが劇中で行われていなかった。欠点を挙げて行ったらキリがない。

 ストーリーの導入部は良かったし、サルマーン映画らしい主題だったので、作りようによっては面白い映画になっていたと思うのだが、おそらくマラヤーラム語オリジナルの内容を引きずってしまったのだろう、ヒンディー語映画向けのアレンジができていなかったことが敗因のように感じた。マラヤーラム語「Bodyguard」は大ヒットとなったようだが、南インドでの大ヒット作を全く同じ作りでヒンディー語映画リメイクし、それも大ヒットとなることは普通ない。やはりより洗練させて行かなければそっぽを向かれてしまう。

 サルマーン・カーンは今回、ふたつの人格の間に挟まれて本領発揮できていなかった。ひとつはボディーガードとしての硬派な一面、もうひとつは未だ見ぬ女性チャーヤーに恋する男としての一面である。これらの演じ分けができていれば映画の半分は成功したと言えるのだが、残念ながらサルマーンはそこまで繊細な演技をしていなかった。

 一方、カリーナー・カプールは得意とする2つのキャラクターを順に演じることができ、とても良かった。ひとつはお転婆ガールとしての一面、もうひとつは悲劇のヒロインとしての一面である。憂鬱な表情や鼻の頭を赤くして泣く表情は今や彼女のトレードマークである。ちなみに彼女がチャーヤーを自称して電話をしているときの声は、姉のカリシュマー・カプールが担当しているらしい。

 今回誰もが印象に残ったであろう脇役が、異常なまでに太った男スナミ・スィンを演じたラジャト・ラーワイルである。「スナミ」は日本語の「津波」から来ている。常に笑えるメッセージが書かれたTシャツを着ていたのも面白かった。例えば「六角筋もうすぐ!」など。サルマーンよろしく上半身裸になるシーンまであるが、それは決闘シーンなどではなく、女子寮に女装して潜入したのがばれて服を引っぺがされるという情けないシーンでのことであった。しかし、劇中でもっとも印象深いキャラクターであった。

 他に、サルタージ・ラーナーをラージ・バッバルが演じていること、タイトルソング「Bodyguard」でサルマーン・カーンの元恋人カトリーナ・カイフがアイテムガール出演していることなどが特筆すべきである。

 音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。一時期街角では彼の音楽ばかりが流れていた頃があったのだが、最近は鳴りを潜めていた。今回は、ブレイク前の彼の音作りを思わせる楽曲が多く、原点に立ち返っている印象を受けた。しかし全体的な楽曲の出来は並程度か。

 「Bodyguard」は、「Wanted」と「Dabangg」というサルマーン・カーンの大ヒット映画に続くイードゥル・フィトル公開の新作映画だが、残念ながら作りが雑で、退屈な作品であった。場内は満席で、初日の観客動員数はかなり高くなることは容易に想像されるが、その後ネガティブな口コミのせいで長続きしないのではないかと予想する。