2ヶ月間抗争を続けて来たプロデューサーとマルチプレックスも和解し、プロデューサーによる新作ストライキも終了して、ようやく今週からメジャー作品のリリースが始まる。2009年6月12日、先陣を切るのは、プロデューサーのヴァーシュ・バグナーニーが息子のジャッキー・バグナーニーを華々しくデビューさせるために作ったと言われる娯楽作品「Kal Kissne Dekha」。ヒーロー、ヒロイン共に新人で、スターパワーはほとんどないが、乾季の終わりを告げる雨として歓迎したい。
監督:ヴィヴェーク・シャルマー
制作:ヴァーシュ・バグナーニー
音楽:サージド・ワージド
歌詞:サミール
振付:レモ
出演:ジャッキー・バグナーニー(新人)、ヴァイシャーリー・デーサーイー(新人)、リシ・カプール、アルチャナー・プーラン・スィン、クナール・クマール、ヌシュラト・バルチャー、アクシャイ・カプール、ラーフル・デーヴ、ラージパール・ヤーダヴ、ダリープ・ターヒル、リテーシュ・デーシュムク(特別出演)、サンジャイ・ダット(特別出演)、ジューヒー・チャーウラー(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。
チャンディーガルの農村で育ったニハール・スィン(ジャッキー・バグナーニー)は、子供の頃から未来を予知する能力があった。ニハールは、彼を溺愛する母親(アルチャナー・プーラン・スィン)の制止を振り切ってムンバイーの大学に通い出す。大学では、ラグ(クナール・クマール)やリヤーなどの友達が出来るが、文化祭で学校一の美人ミーシャー(ヴァイシャーリー・デーサーイー)と踊る権利を得たことで、ニハールは不良上級生たちから目を付けられることになった。だが、ニハールは彼らの挑戦に受けて立つ。その結果、ニハールは彼らからも認められる存在となる。ミーシャーは当初ニハールを軽蔑していたが、彼に命を救われたことで惚れてしまう。二人は恋仲となり、将来のことを語り合うようになる。 ニハールは科学に興味があった。ニハールは、物理の教授で寮長でもあるスィッダールト・ヴァルマー(リシ・カプール)と親しくなる。ヴァルマー教授はかつてNASAなどの研究機関で研究していた科学者だったが、優秀すぎて周囲から理解を得られず、研究所を追われ、現在は大学の教授となっていた。ニハールはヴァルマー教授を尊敬し、彼の助手となる。 その頃、ムンバイーではテロが相次いでいた。だが、ニハールは予知能力を使ってモールのテロを防ぎ、ミーシャーの命を救う。それをきっかけに彼の特殊能力は世間に知られることとなり、彼の元には学生から学長からマフィアのドン、カーリーチャラン(リテーシュ・デーシュムク)まで、いろいろな人々が将来の相談にやって来るようになる。だが、その能力を脅威に感じる者がいた。それはヴァルマー教授であった。実はヴァルマー教授はテロリストの一味であった。最先端の科学を使って、高性能の爆弾を作っていたのだった。 テロリストのボス(ラーフル・デーヴ)は、最初ニハールを殺そうとするが、ヴァルマー教授は逆に彼の力をテロに利用しようとする。ヴァルマー教授はニハールの助力を得て信号妨害装置を開発する。また、大規模テロ準備中にニハールの予知能力を別の方面へ向けるため、彼の恋人であるミーシャーを誘拐する。ニハールはミーシャーを探すために警察(ダリープ・ターヒル)と共にムンバイー中を駆けずり回る。 ニハールはとうとうミーシャーを探し出し、テロリストを一網打尽にする。だが、爆弾は既にムンバイー中に設置された後だった。ニハールは警察と共にそれらをひとつひとつ見つけ、解除する。だが、最後の爆弾がまだ残っていた。ヴァルマー教授は、テロリスト対策会議が開かれているホテルに爆弾が仕掛けられていることを教える。そこには母親やミーシャーも滞在していた。ニハールはホテルに急ぎ、人々を避難させ、爆弾を探す。その爆弾は実はニハールが乗って来た、ヴァルマー教授の自動車に仕掛けられていた。ニハールは自動車を海に突っ込ませる。そこにはちょうど、爆弾見物をしていたヴァルマー教授の乗った船があった。自動車はヴァルマー教授もろとも爆発する。
今年に入って、「Aa Dekhen Zara」(2009年)、「8×10 Tasveer」(2008年)と、未来や過去を覗く特殊能力を持った主人公の話が続いた。偶然は重なるもので、この「Kal Kissne Dekha」も同じラインのストーリーであった。主人公のニハール・スィンは、未来を予知したり、危険を察知したりする能力を持っており、それがストーリーにも大きく関わって来る。だが、基本的にはロマンスやアクションを中心とした娯楽映画である。
「Kal Kissne Dekha」にはありとあらゆる娯楽要素が詰め込まれていた。秀逸だったのはアクション面である。序盤、モトクロスバイクで山岳地帯を疾走するシーンは迫力があったし、序盤や終盤の素手の格闘シーンも、ワンマンアーミー気味ながら悪くはなかった。予算をかけたダンスやミュージカルも要所要所に挿入されており、新人中心キャストながら派手さがあった。ロマンスの部分も、典型的展開ながら退屈ではなかった。ストーリーにテロを交えるのは最近のヒンディー語映画界の流行で、特にコメントする必要はないだろう。しかし、それらをミックスさせるときに手間暇を惜しんだため、全体としてとても雑な印象を受ける映画になってしまっていた。シーンとシーンのつなぎ目に余裕や余韻がなかったし、メインストーリーの部分でもロケ地があちこちするため、うまく映像の中に入り込めない部分があった。編集次第でもう少しよくなったと思うと惜しい。
ジャッキー・バグナーニーは、ウダイ・チョープラー系の微妙な顔をした男優だ。「Kal Kissne Dekha」では、常人離れした身体的パワーと予知能力を備え持った超人を演じていたが、ふとした拍子に見せるコミカルな演技の方が彼の本来の持ち味に合っているように思えた。ヴァイシャーリー・デーサーイーは、マンモーハン・デーサーイー監督の曾姪にあたる人物で、モデルから銀幕デビューした経歴を持っている。最初は役柄からかメイクからか非常に冷たい印象を受けたのだが、等身大の女の子も普通に演じられそうだ。とりあえず2人ともまずまずのデビューを飾ったと言っていいだろう。
リシ・カプールやアルチャナー・プーラン・スィンなどのベテランが脇を固めていた他、リテーシュ・デーシュムク、サンジャイ・ダット、ジューヒー・チャーウラーなど、意外な特別出演キャストがある。だが、映画自体の助けにはならなそうだ。
音楽はサージド・ワージド。多くの曲に「Kal Kissne Dekha」という歌詞が使われており、統一感が持たされている。だが、音楽自体は平凡な出来である。
「Kal Kissne Dekha」は、プロデューサーが自分の息子に、ヒンディー語映画界のヒーローが映画の中で一人でできることをとにかく全てさせたような、即席ヒーローメイキング映画である。部分部分は悪くないのだが、編集が丁寧でないために、観客をスクリーンに引き込む力に欠けている。無理して観る必要はないだろうが、長期に渡る新作枯渇によって干からびている人には恵みの雨になりうる。