Hari Puttar

1.0

 ここ数週間、インドのみならず日本語のニュースでも話題になっていた一本のインド映画があった。それは「Hari Puttar」。大ヒット映画「ハリー・ポッター」シリーズの題名と酷似しており、混同する恐れがあるとして、「ハリー・ポッター」を制作したワーナー・ブラザーズが制作者に対して訴訟を起こしたのである。そのせいで「Hari Puttar」の公開は延期されていたが、先日デリー高等裁判所が原告の訴えを棄却し、「Hari Puttar」は本日(2008年9月26日)から公開された。「ハリ」とはインド人によくある名前であり、「プッタル」はパンジャービー語で「息子」という意味だ。「ハリ・プッタル」を敢えて意訳すれば「ハリ君」みたいな意味である。「ハリー・ポッター」をパロったことは明白だが、だからと言ってこの映画を「ハリー・ポッター」と間違う人はインドにはいないだろう。しかも、内容は「ハリー・ポッター」シリーズとは何の関連もないと言う。さらに、ワーナー・ブラザーズはこの映画の存在をかなり前から知っていながら、映画公開直前になって訴訟を起こしており、正当性に欠ける。それらの理由により「Hari Puttar」の公開にゴーサインが出たというわけである。結局、ワーナー・ブラザーズによる訴訟はこの映画への注目度を高めただけであった。

監督:ラッキー・コーリー、ラージェーシュ・バジャージ
制作:ラッキー・コーリー、ムニーシュ・プリー、APパーリギー
音楽:アーデーシュ・シュリーワースタヴ
歌詞:サミール、ヴィシャール・ナヴニート、クークー・プラバーシュ、グル・シャルマー
振付:ガネーシュ・アーチャーリヤ
出演:ザイン・カーン(子役)、スウィーニー・カーラー(子役)、サーリカー、ジャッキー・シュロフ、リレット・ドゥベー、ヴィジャイ・ラーズ、サウラブ・シュクラー、ザーキル・カーン、シャーン(特別出演)、アーデーシュ・シュリーワースタヴ(特別出演)、ネーハー・バスィーン(特別出演)、シャミター・シェッティー(特別出演)
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 インドから最近ロンドンにやって来た10歳の少年ハリ・プラサード・ドゥーンダー、愛称ハリ・プッタル(ザイン・カーン)は、孤独な毎日を送っていた。母親のサンギーター(サーリカー)は厳しくも優しい典型的インドの母親であったが、ハリは自分だけ怒られることが多いと不満を持っていた。兄のロッキーはハリをいじめてばっかだった。父親は科学者で、軍事関連の研究開発を秘密の場所で行っていた。

 ある日、サンギーターの姉妹で、ロンドン在住のサントーシュ(リレット・ドゥベー)と、その夫のDK(ジャッキー・シュロフ)が、自分の娘たちやその友人を連れてハリの家に遊びにやって来た。やはりハリは彼女たちにいじめられてばかりであったが、末娘で病気がちなトゥクトゥク(スウィーニー・カーラー)だけは彼の良き理解者であった。DKは翌日の早朝から列車に乗って郊外へ旅行することを計画していた。

 ところが、自分の部屋を叔父叔母の娘たちに取られ、屋根裏部屋に追いやられたハリは憤慨しており、夜寝る前に神様に、皆消え去ってしまうようにお願いして眠った。

 翌朝、目覚まし時計がリセットされていたため、サンギーター、サントーシュ、DKや子供たちは寝坊してしまう。急いで支度をして駅に向かい、何とか列車に乗ることはできたが、しばらくしてハリとトゥクトゥクを家に残して来たことに気付く。

 一方、目を覚ましたハリは、トゥクトゥクを残して家族や親戚が一気にいなくなったのを発見し、神様が願いを叶えてくれたと思って大喜びする。二人は新生活をエンジョイし始める。

 ところが、ハリの家に忍び寄る二人の怪しげな男たちがいた。ディーゼル(サウラブ・シュクラ)とフィルター(ヴィジャイ・ラーズ)である。彼らは、マフィアのドン、カーリー・ミルチに命令され、ハリの父が開発中の兵器の情報が入ったチップを盗みにやって来たのであった。そのチップはハリの手元にあった。二人はてっきり家は留守だと思っていたが、そこにはハリとトゥクトゥクがいた。最初ハリは、彼らのことをただの泥棒だと思うが、すぐにチップを盗みに来たと勘付く。

 そこでハリは、家の内外に罠を仕掛け、ディーゼルとフィルターを迎え撃つ。二人は数々の罠に引っかかって酷い目に遭うが、トゥクトゥクを人質に取ることに成功し、ハリからチップを奪い取る。だが、隣に住んでいたおじさんが救援に駆けつけ、ディーゼルとフィルターは倒される。

 ハリは神様に、母親や家族親戚を返してくれるように頼む。するとちょうどそこで母親たちが戻って来る。

 「ハリー・ポッター」との類似点が問題になった映画だが、ストーリーは実は「ホーム・アローン」(1990年)の翻案であり、さらに正確に言葉を選ぶとすれば、その劣化コピーである。はっきり言って全くの駄作であり、もし「ハリー・ポッター」論争がなければ誰の記憶にも残らずに消えて行く運命にあった作品であろう。

 ハリが仕掛けた罠に泥棒二人組がまんまとはまるシーンは笑えるが、ただそれだけの映画であり、とても大人の鑑賞に耐えうるものではない。映画館には当然のことながら子供の観客が多かったのだが、見ていると子供たちにはけっこう受けていた。だから、子供なら何とか楽しめる映画かもしれない。「ホーム・アローン」は大人が見ても楽しめたが、「Hari Puttar」は決して全年齢向けの映画とは言えない。

 主人公ハリを演じた子役俳優ザイン・カーンは現在16歳。既に140本以上のTVCMに出演し、「Parineeta」(2005年)、「Krrish」(2006年)、「Chain Kulii Ki Main Kulii」(2007年)などの映画にも出演している、インドの子役俳優のスターである。だが、「Hari Puttar」の演技からは特別なものは感じなかった。サーリカー、ジャッキー・シュロフ、リレット・ドゥベーなどの俳優も捨て駒的に使われており、ほとんど出番はなし。罠にひっかかるだけが見せ場のサウラブ・シュクラーとヴィジャイ・ラーズの方がまだ恵まれていた。唯一、トゥクトゥクを演じたスウィーニー・カーラーだけは光る物を感じた。彼女は「Cheeni Kum」(2007年)でアミターブ・バッチャンと共演した女の子で、今回もナチュラルなキュートさを振りまいていた。

 100分ほどの短い映画だったが、一応ダンスシーンも少しだけ入っていた。冒頭のタイトルソング「Hari Puttar」では、プレイバックシンガーのシャーン、アーデーシュ・シュリーワースタヴ、ネーハー・バスィーンが特別出演し、最後のスタッフロールで流れる「Tutari」ではシャミター・シェッティーがアイテムガール出演していた。

 「ホーム・アローン」では、映画中で「Angels with Filthy Souls」という架空の映画のシーンが効果的に使われていたが、「Hari Puttar」では伝説的インド映画「Sholay」(1975年)がその役割を果たしていた。

 「Hari Puttar」は、訴訟に巻き込まれたおかげで世界中で注目を浴びたが、その実は恥ずかしいことに「ホーム・アローン」の劣化コピーに過ぎず、観るだけ損の子供向け映画であった。避けるが吉である。