「ルー」とも「アーンディー」とも呼ばれるデリーの酷暑期の風物詩、熱砂嵐が吹きすさぶ今日この頃、映画館に新作ヒンディー語映画「Life Mein Kabhie Kabhiee(人生では時々)」を観に行った。どうも2007年のヒンディー語映画の流行はオムニバス形式映画のようだ。今年に入ってから、「Salaam-e-Ishq」(2007年)、「Honeymoon Travels Pvt. Ltd.」(2007年)、「Hattrick」(2007年)、「Just Married」(2007年)など、数本の小話を一本の映画にまとめた形式の映画が相次いで公開されている。ただし、どの作品もヒットはしていない。2007年4月13日公開の「Life Mein Kabhie Kabhiee」もオムニバス形式の映画であるが、やはりフロップに終わりそうだ。だが、この際なので何かの話の種になればという気持ちで観に行ったのであった。
監督:ヴィクラム・バット
制作:バーバー・フィルムス
音楽:ラリト・パンディト
作詞:サミール
振付:ラージュー・カーン、ピーユーシュ・パンチャル
出演:ディノ・モレア、ナウヒード・サイラスィー、サミール・ダッターニー、アンジョリー・アラグ、アーフターブ・シヴダーサーニー、コーエル・プリー、ラージ・ズトシー、ヤシュパール・シャルマーなど
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。
作家のマニーシュ・グプター(アーフターブ・シヴダーサーニー)は、著書「Life Mein Kabhie Kabhiee」で受賞し、授賞式で壇上に立った。彼は出席者の前で、その本の基になった話を語り始める。 5年前・・・。大学を卒業したマニーシュは、4人の親友たちと馬鹿騒ぎをして警察に捕まってしまった。留置所の中で彼らは、5年後に誰が一番幸せになっているかという賭けをする。ラージーヴ・アローラー(ディノ・モレア)は、成功でもって幸せになると宣言する。モニカ(ナウヒード・サイラスィー)は、有名になって幸せになると宣言する。ジャイ・ゴーカレー(サミール・ダッターニー)は、権力でもって幸せになると宣言する。イシター(アンジョリー・アラグ)は、金でもって幸せになると宣言する。一方、マニーシュは審判役となり、5年後に誰が一番幸せかを決める役割を担う。 ラージーヴは兄の会社に勤める。だが、常に兄の影となって働くことに嫌気が差し、とうとう独立してしまう。当初、ラージーヴの会社はうまく行っていたが、株式市場の暴落を受け、倒産の危機に立たされてしまう。だが、兄の会社とライバル関係にある企業から資金を得て何とか持ち直す。 モニカには女優を目指す。モニカにはボーイフレンドがいたが、彼もモニカの夢を支援した。デビュー作はポルノ紛いの映画にされてしまい、評価も散々だったが、第2作で有名男優と共演することになり、運命は開ける。だが、モニカは成功と引き換えに共演男優に身体を売っていた。彼女はボーイフレンドに黙ってその男優と密会を続ける。いつの間にかモニカはトップ女優になっていた。 ジャイ・ゴーカレーは政治家の道を歩む。ある地方政党に参加したジャイは、党首(ヤシュパール・シャルマー)に発想力と行動力を買われて頭角を現す。だが、彼は老いた政敵をショック死させたことをトラウマに感じるようになり、精神病院に密かに通うようになる。やがてジャイはインド最年少の国会議員になる。 イシターはまずはスキャンダル雑誌の記者に就職する。その取材を通して大富豪(ラージ・ズトシー)と出会い、まずは不倫関係となってから、その妻と離婚させ、遂に本妻の地位を獲得する。だが、すぐに二人の間から愛情は消え失せる。大富豪はまた別の若い女に手を出すようになり、それがイシターを悩ませる。だが、イシターは意地でも離婚しようとしなかった。 一方、マニーシュは結婚紹介サイトで出会った女性(コーエル・プリー)と結婚し、一子をもうけた。一時、務めていた雑誌の記者をクビになり、ゴーストライターなどをして辛い時期を過ごすが、持ち前の陽気さで何とか乗り切る。 こうして5年が過ぎ去り、五人は再会した。マニーシュが、誰が勝者かを決めかねていたところ、モニカの電話が鳴る。ボーイフレンドが自殺したとの知らせだった。彼は、モニカが浮気していたことを知り、耐えられなくなって手首を切ったのだった。モニカはショックを受け、インドを去ることを決める。彼女は自ら勝者となることを辞退した。 それを見た他の三人も無言で去って行く。ラージーヴは、兄の会社のライバル企業から受け取った金を返すことにする。そうしたら、その金は実は兄が出してくれたものだったことが発覚する。ラージーヴは兄のところへ直行し、許しを請う。ジャイは、精神科医と共に老政治家の未亡人を訪れ、全てを打ち明ける。未亡人は簡単に許してくれなかったが、ジャイの心は軽くなった。また、イシターは夫に離婚を申し立てる。マニーシュは、四人の人生を小説にすることを決める。そうして出来上がったのが「Life Mein Kabhie Kabhiee」であった。
着想点は単純だが面白い。「人生において幸せとは何か?」という究極の問いをまず提示し、登場人物に、成功、名声、権力、金という4つの典型的なルートを進ませ、最終的にどれも幸せには結び付かないという結論に持って行くのである。もしオムニバス形式の映画を作るのが課題か何かだったら、こういう分かりやすい構成はなかなか優等生的な作品になりうるのではないかと思う。だが、いかんせん、それぞれの小話が一直線過ぎた。映像にも工夫はないし、俳優や演技にも輝きがないし、音楽も乗ってないし、褒めるところがない。結論として、駄作となっていた。どうもまだヒンディー語映画界はオムニバス形式の映画技術を習得できていないようだ。下らない小話の寄せ集めになってしまっている作品が多い。オムニバス映画の流行は、ヒンディー語映画の足を引っ張っているのが現状である。
「Life Mein Kabhie Kabhiee」には、なかなか売れないB級俳優から、ほとんど無名の若手俳優まで、第一線で活躍し切れていないという共通の悩みを抱えていそうな俳優たちが共演している。その中ではアーフターブ・シヴダーサーニーが最も上位に立っている。本作の中でも一番無難な役であった。だが、どうもドン臭さが残っており、このままではスターに脱皮できそうにない。ディノ・モレアもブレイクしそうでブレイクできていない男優である。確かにハンサムなのだが、正統派のハンサムというわけでもない。病的な感じすらする。ちょっと精神的に異常のある役が似合うかもしれない。この映画の中で演じたラージーヴはそういう意味では適役であった。特に切れてテレビを破壊するシーンなんか、地だったのではないか。サミール・ダッターニーは、「Pyaar Mein Twist」(2005年)や「Corporate」(2006年)に出演していたようだが全く記憶にない。所々感情を露にしたいい演技をしていたが、パンチ力に欠けるシーンもいくつかあった。まだまだ発展途上である。
女優陣も無名である。ナウヒード・サイラスィーは2003年から映画に出演しているようだが、僕は全く知らなかった。イーシャー・デーオール似の女優である。アンジョリー・アラグはこれがデビュー作だと思う。こちらはジューヒー・チャーウラーに似た女優だ。どちらもあまり将来性がないと感じたが、これからどうなるだろうか?
映画の最後で、マニーシュは幸せの定義についてこんなことを言っていた。「幸せとは求めるものではない。求めなければ自動的に得られる。幸せは目的を達成して得るものではなく、幸せに辿り着くまでの旅路にある。」後半は理解できるのだが、前半がよく分からなかった。幸せは求めなければ自動的に得られるものなのだろうか?つまり現状に満足することを知ればそれが幸せということか?そしてその結論に至った道筋は映画中ちゃんと辿られていたか?映画自体がいい加減だったので、まとめ方もいい加減な気がした。
「Life Mein Kabhie Kabhiee」はほとんど観る価値のない駄作なので、避けた方が賢明だろう。もしこのままヒンディー語映画界でしばらくオムニバス映画が流行するなら、この映画はその失敗例として延々と挙げられ続けられることになるだろう。だが、それがなかったらすぐにでも歴史の闇に葬ってしまっていい作品である。