Corporate

4.0

 マドゥル・バンダールカル監督と言えば、「Chandni Bar」(2001年)や「Page 3」(2005年)など、社会システムの裏を暴く映画を作る映画監督である。そのバンダールカル監督の最新作「Corporate」が本日(2006年7月7日)より公開された。今回バンダールカル監督が選んだテーマは企業の裏側。PVRアヌパム4で鑑賞した。

 前述の通り、監督はマドゥル・バンダールカル、音楽はシャミール・タンダン。キャストは、ビパーシャー・バス、ケー・ケー・メーナン、ミニーシャー・ラーンバー、ラジャト・カプール、ラージ・バッバル、リレット・ドゥベー、サミール・ダッターニー、パーヤル・ローハトギー、ハルシュ・チャーヤー、ジャーヴェード・アクタル(特別出演)、ヴァスンダラー・ダース(特別出演)、カイラーシュ・ケール(特別出演)、アトゥル・クルカルニー(ナレーション)など。

 ムンバイーを拠点とする、セヘガル・グループ・インダストリーズ(SGI)とマールワー・インターナショナル(MI)は、食品業界のライバル企業であり、激しいシェア争いを行っていた。先の選挙でSGIの支持した政治家が州政府の政権に就き、SGIのヴィナイ・セヘガル社長(ラジャト・カプール)は大喜びをしていた。早速、政治家の恩恵によりインド進出を狙っていた米国の国際的企業フリスコンとの提携を結ぶことに成功し、今やSGIは飛ぶ鳥を落とす勢いであった。ニシー(ビパーシャー・バス)はSGIで働くキャリア・ウーマンであった。二シーは、ヴィナイの妻の弟で、SGIの副社長に就任したリテーシュ(ケー・ケー・メーナン)と恋仲にあった。

 マハーラーシュトラ州政府は、州営のマハーラーシュトラ・ボトラーズ社の民営化を発表した。その入札にはSGIとMIも参加し、お互いを牽制し合っていた。SGIは政治家との癒着を深めると共に、他の入札希望企業にも手を回し、入札を確実なものとした。しかし、MIは政治家にSGIよりも多くの賄賂を提案し、一発逆転で入札に勝利する。また、MIのダルメーシュ・マールワー(ラージ・バッバル)社長は、ヴィナイを出し抜いて「ビジネスマン・オブ・ザ・イヤー」にも選出される。

 だが、二シーはMIがミント風味のソフトドリンクの発売を計画しているという情報をキャッチする。日頃から彼女をヘッドハンティングしようと狙っていたMIの幹部パルヴィーンを誘惑して、うまくその詳細情報を盗み出したニシーは、リテーシュと共にヴィナイの前でプレゼンテーションし、MIがそのソフトドリンクを発売する前に、自社で同じようなソフトドリンクを発売し、一気にマーケットシェアを確立することを提案する。社長もそれも承認する。ただし、時間は3ヶ月しかなかった。

 SGIは、ミント風味ソフトドリンク「ジャスト・チル」の発売を発表し、その準備を始める。一方、MIのマールワー社長は社内に内通者がいることに勘付き、ニシーと連絡を取っていた女性社員とパルヴィーンはクビになる。

 ところが発売直前になって「ジャスト・チル」の中に殺虫剤が混入していることが発覚し、食品衛生局から発売許可が下りないというトラブルに直面する。工場が吸い上げていた水の中に、周辺部の農地で使用されている殺虫剤が染み込んでいたのだった。ヴィナイの右腕として11年間仕えて来たナヴィーンは、発売を2ヶ月遅らせて代替の水を準備することを提案する。だが、体裁にこだわるヴィナイは、食品衛生局の局員を買収し、発売を強行することを命令する。ナヴィーンはそれに不満を持って会社を辞めてしまった。今や、「ジャスト・チル」の成功はリテーシュとニシーの肩にかかっていた。

 「ジャスト・チル」は大ヒットとなり、60%以上のシェアを獲得した。だが、マールワーは「ジャスト・チル」の秘密をかぎ付け、州政府に通告する。すぐに州政府は「ジャスト・チル」の検査を行い、殺虫剤混入が公となる。扇動された民衆は、SGIのビルの前で連日抗議運動を始めた。マールワーは、SGIの株価が急落したのを見て買収に乗り出す。ヴィナイは最大のピンチに陥った。

 このピンチを切り抜けるには、誰かをスケープゴートにするしかなかった。それはニシーしかいなかった。リテーシュは反対するが、ニシーは「自分たちの将来は会社の将来にかかっている」と説得し、スケープゴートになることを受け容れる。ニシーは逮捕されてしまう。

 だが、SGIの不祥事に最も怒っていたのは、SGIと提携したばかりの米企業フリスコンであった。フリスコンの社長は中央政府財務大臣に、今すぐ何とかしないと全ての資本を引き揚げると脅す。財務大臣はSGIとMIを仲裁し、問題を丸く収めさせる。しかし、ニシーだけはそのまま捨て駒とされた。それに怒ったリテーシュは、ヴィナイに詰め寄って、48時間以内にニシーを解放させなければ全ての秘密をマスコミの前で暴露すると脅す。しかもニシーは妊娠していた。だが、ヴィナイは暗殺者を送り込んでリテーシュを抹殺する。世間ではリテーシュは自殺したことになった。

 こうして2年が過ぎ去った。SGIもMIも残り、以前のようにシェア争いを行っていた。消費者も殺虫剤が混入されていることをすっかり忘れて「ジャスト・チル」を飲み続けた。ただニシーだけが子供を抱えて今でも裁判所に通わなければならなかった。

 いかに企業はモラルのない闘争を繰り広げているか、企業のために尽くして来た人々を「企業のため」という言葉でもって捨て駒としているか、いかに権力と癒着しているか、利益を優先するあまり、いかに消費者を軽視しているか、その実態とシステムが赤裸々に描かれていた。日本では企業を舞台にした映画や漫画はそれほど目新しいことではなく、日本人の目にはそれほど目新しく映らないかもしれないが、このような試みの映画は今までインドにはなかった。またひとつ、バンダールカル監督は新たなテーマに切り込んだ映画を作り上げたと言える。

 企業の裏側を暴くと同時に、「Corporate」で題材となっていたのは、ペプシやコカコーラなどの炭酸飲料やミネラルウォーターへの殺虫剤混入疑惑スキャンダルである。それが問題になったのは2003年のことだった。殺虫剤が混入していることを知りながら黙っていた企業に対する糾弾や、その裏で政府が行ったであろう取引と妥協の暗示が描写されていたが、それよりも印象的だったのは、最後に流れた、殺虫剤が混入されている「ジャスト・チル」を飲み続ける一般の消費者たちの映像である。あの頃はみんな、日頃飲んでいる飲料に殺虫剤が混入されているというニュースに敏感だったのだが、今では全く気にせずペプシやコーラを飲んでいる。結局、政府や企業の横暴を助長させているのは、消費者の問題意識の欠如であることが示されていた。・・・しかし、コーラやペプシを飲みながら映画を観ている人も多いだろうから、そういう人たちにとっては嫌な指摘だったかもしれない。

 また、物語の本質ではなかったが、企業という男性社会における女性の地位に関しても少しだけ触れられていた。ビパーシャー・バスはその点を強調したかったようだが、残念ながら他のもっとパワフルな要素に呑み込まれてしまっていたと言っていいだろう。他にも、映画女優が高級娼婦のような仕事をしている様子、米国の一企業に財務大臣が屈する様子、不倫が横行する上流階級の乱れ振り、宗教への妄信の滑稽な描写など、バンダールカル監督らしい視点が盛りだくさんだった。

 元々主人公ニシーの役はアイシュワリヤー・ラーイにオファーされていたという。だが、スケジュールの問題からアイシュワリヤーは拒否し、それに伴ってビパーシャー・バスが主演を演じることになった。髪型やスーツが何となく似合っていなかったが、スッピンでの演技もあり、かなり体当たりで望んだと思われる。「Corporate」は、ビパーシャーのキャリアにとってひとつの大きな転換点となる映画かもしれない。

 個人的に注目している男優の1人、ケー・ケー・メーナンもいい演技をしていた。特にニシーをスケープゴートにする決断をするシーンや、ヴィナイに裏切られたと知って彼の家に殴りこむシーンなどは見せ場だった。いい役者である。

 他にも多くの俳優が映画に出演した。「Yahaan」(2005年)でデビューしたミニーシャー・ラーンバーは、準ヒロイン的役柄とは言え、ほとんど出番なし。抗争を繰り広げる両企業の社長を演じたラジャト・カプールとラージ・バッバルは文句ない演技。なぜか詩人ジャーヴェード・アクタルが登場しているのが笑えた。アトゥル・クルカルニーがナレーションを担当していたが、ナレーションで詳しく解説し過ぎな部分が少しあったのは残念だった。映画なので、やはり映像で説明することを優先すべきだ。

 インド映画の法則に則り、ミュージカルシーンもいくつか挿入されていたが、映画の進行に特に必要と思われるものはなかった。カイラーシュ・ケールとヴァスンダラー・ダースが特別出演する「O Sikandar」だけは見る価値がある。

 「Corporate」は、テーマがテーマなだけに、大人向けのヒンディー語映画だと言える。脳みそを家に置いて観に行ったのではよく理解できないだろう。「Chandni Bar」、「Page 3」に続き、バンダールカル監督の傑作のひとつに数えてよい。興行面での成功も期待できそうだ。