Barsaat

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Barsaat
「Barsaat」

 今日はPVRアヌパム4で、2005年8月19日公開の新作ヒンディー語映画「Barsaat」を観た。「Barsaat」とは、「雨」とか「雨季」という意味。監督・制作はスニール・ダルシャン、音楽はナディーム・シュラヴァン。キャストは、ボビー・デーオール、ビパーシャー・バス、プリヤンカー・チョープラー、シャクティ・カプールなど。

 カーデザイナーを夢見て米国へ渡り、ガレージで働くアーラヴ(ボビー・デーオール)は、美しい女性アンナ(ビパーシャー・バス)と出会う。アーラヴは何度もアンナと出会う内に恋に落ちる。ある日、アーラヴのデザインした自動車がBMW社に採用され、彼の人生は急転する。実はアンナはBMWの社長(シャクティ・カプール)の孫娘であった。アーラヴとアンナの結婚も決まり、アーラヴは人生の絶頂にあった。

 ところが、そのときアーラヴの元にインドの実家から電話がある。父親の体調がよくないという。アーラヴは急遽インドに戻ることになる。実家へ戻る途中、アーラヴは昔の思い出を思い出していた。アーラヴには、カージャル(プリヤンカー・チョープラー)という幼馴染みの女の子がいた。米国に留学する前、アーラヴはカージャルと結婚していたのだった。

 アーラヴが実家に戻ると、家族は彼を歓迎する。最も喜んだのはカージャルであったが、アーラヴが彼女に突きつけたのは離婚の同意書であった。離婚成立にはカージャルの署名が必要だった。カージャルは何とかアーラヴに自分に対する愛情を思い出させようと真摯に彼に尽くすが、アーラヴはそれを冷たくあしらった。とうとうアーラヴは、アンナというフィアンセが米国にいることを明かす。それを聞いたカージャルは離婚同意書に署名してしまう。アーラヴはその同意書を弁護士に手渡す。

 離婚が成立した二人であったが、カージャルはアーラヴに、彼が留守の間にしていたことを見せる。カージャルは村の女性たちを集めて手工芸品の工場を立ち上げていた。また、二人は子供の頃によく来た場所を歩く。そこには、二人で一緒に植えた木もあった。あの頃は小さな木だったのに、今では巨大な木に成長していた。また、そのとき突然大雨が降ってくる。そういえば、渡米前、カージャルと別れた日も大雨が降っていた。アーラヴは次第に昔の感情を思い出してくる。

 そのとき、アンナと父親がインドに来るという知らせが入る。インドで結婚式を挙げることになった。アーラヴはアンナにカージャルのことを話す。アンナはカージャルとも会い、アーラヴとの結婚の承諾を得る。

 アーラヴとアンナの結婚式の日。結婚が成立しようとしたその瞬間、弁護士が駆け込んで来て、まだアーラヴの離婚が成立していないと伝える。離婚同意書にアーラヴの署名がなかったのだ。アーラヴはそこに署名しようとするが、そのとき大雨が降って来て同意書はグチャグチャになってしまう。アンナは、神様が自分とアーラヴの結婚を望んでいないと考え、アーラヴにカージャルと結婚するように言う。結婚式の会場にカージャルの姿は見当たらなかった。アーラヴは、二人で植えた木の場所へ行く。そこではカージャルが木を抱いて泣いていた。アーラヴはカージャルに改めて思いを伝える。

 典型的インド映画。前半は眠ってしまいそうに退屈だが、後半はなかなか面白くなり、涙も込み上げてくる。基本は三角関係、それに結婚と離婚の問題が織り込まれる。

 この映画で観客が感情移入することができるのは、プリヤンカー・チョープラーが演じたカージャルのみである。結婚していながらBMW社長の娘と結婚しようとするアーラヴは、誰が見てもひどい男だし、不細工な顔のボビー・デーオールに理由なく一目惚れするアンナ(ビパーシャー・バス)にも感情移入は不可能である。アーラヴの愛を取り戻そうとするカージャルのみ、この映画の見所であり、観客の感情を刺激する存在だ。それだからこそ、最後の最後で遂にアーラヴの愛を勝ち取ることができた健気なカージャルに涙してしまう。

 この映画の隠れたテーマは「アンチ離婚」である。そもそも、インド映画のほとんどが、離婚反対を謳っていると言っても過言ではない。インド映画の不文律は、「一度成立した結婚は解消不可能」というものである。「Hum Dil De Chuke Sanam」(1999年/邦題:ミモラ)、「Haan Maine Bhi Pyaar Kiya」(2002年)、「Bewafaa」(2005年)などなど、その不文律を遵守する映画は枚挙に暇がない。印象的だったのは、アーラヴやカージャルが、友達と一緒に翻訳ゲームをするシーン。一人が英語の単語を言い、もう一人がそれをヒンディー語に訳す、という単純なゲームである。まずは「ボタン(button)」が問題になった。答えた人は、「アストゥ・ワストゥ・ニヤンタラン・ヤントラ」みたいなおかしなことを言っていた。次はカージャルが問題を出した。「離婚(divorce)はヒンディー語で言うと何?」アーラヴはフフンと笑って答える。「そんなの簡単さ。タラーク(talaaq)!俺の勝ちだな」だが、カージャルは言う。「あなたの負けよ。なぜならタラークはウルドゥー語の単語だから。ヒンディー語には離婚という単語はないわ。なぜなら私たちの文化に離婚はないからよ。」カージャルがこのセリフを言ったとき、観客からは盛大な拍手が上がった。結局、インド人というのは皆、離婚反対派なのだろうか!?このシーンは映画中最も重要な部分であったが、ヒンディー語とウルドゥー語の誤解を大いに生んでしまう危険性を孕んでいた。ヒンディー語はインドとヒンドゥー教の文化を代表する言語ではないし、ウルドゥー語はイスラーム文化と同一の存在でもないからだ。

 この映画の主人公はプリヤンカー・チョープラー。モデル体型の彼女は、村の純朴な女性役よりも都会派の女性役の方が断然似合っているが、こういうプリヤンカーもいいな、と思った。ビパーシャー・バスもかわいかったが、プリヤンカーに主役の座を奪われてしまった形である。前半の退屈なシーンが、ビパーシャー・バスに関連していたので、余計損をしていた。プリヤンカーとビパーシャーが共演するのはこれが初めて。実はプリヤンカーが2000年にミス・インディアの栄冠に輝いたとき、ビパーシャーが審査員の一人だったという縁がある。ボビー・デーオールは、アクション映画にしか出ないと言っていたくせに、こんな恋愛映画に出てしまっていた。しかも彼が演じたアーラヴは、完全に「女の敵」の役であった。

 後半はなかなか感動できるが、前半はかなり退屈。もしどうしてもこの映画を観ないといけない人がいたら、強めのコーヒーを飲んでから観に行くといいだろう。


Barsaat - 2005 [HD] - Hindi Full Movie - Priyanka Chopra - Bobby Deol - Bipasha - With Eng Subtitles