今日はPVRアヌパム4で、2005年7月29日より公開のヒンディー語映画「7 1/2 Phere」を観た。「7 1/2 Phere」とは、「7周半」という意味。イタリア映画「フェリーニの8 1/2」(1959年)を思い出す人もいるかもしれないが、全く関係ない。まずは「7周」とは何かを考えてもらいたい。・・・「7周」と聞いてすぐに結婚式を思い浮かべる人はインドのことをよく知っている人だ。ヒンドゥー教の結婚式では、新郎新婦は共に火の周りを7周回り、結婚の誓いを立てる。副題は「More Than A Wedding」であるから、結婚式をテーマにした映画であることが伺われる。・・・しかし、それが「7周半」とはどういうことか?興味をそそる題名である。監督はイシャーン・トリヴェーディー。キャストは、ジューヒー・チャーウラー、イルファーン・カーン、シュリー・ヴァッラブ・ヴャース、チャーハト・カンナー、ニーナ・クルカルニー、アナング・デーサーイー、マーダヴィー・チョープラー、ラリト・ティワーリー、マーニニー・デーなど。
アスミー(ジューヒー・チャーウラー)は駆け出しのTVドラマ監督。リアルなドラマを撮ろうと考えたアスミは、ムンバイーのとある大家族の結婚式を撮影して生のドラマにすることを思いつく。だが、あいにくそのときは結婚式のシーズンではなかった。ムンバイーでただジョーシー家のみが、大家族で結婚式を行おうとしていた。アスミはジョーシー家に出向いて撮影の許可を得ようとするが、了承を得ることはできなかった。 ジョーシー家の一員で、仕事もせずにブラブラしていたマノージ(イルファーン・カーン)はアスミーに一目惚れし、彼女にあるアイデアを持ちかける。それは、密かに家中にカメラを設置し、内緒で結婚式の様子を撮影するというものだった。その案はすぐに採用され、ジョーシー家の邸宅に5つのカメラが秘密裡に設置された。 だが、そのカメラが映したものは、結婚式以上のものだった。メイドにちょっかいを出す叔父さんの姿、レズ行為を楽しむ姪の姿、そして結婚式の前に恋人のラーフルと逃げ出そうとする花嫁のピヤー(チャーハト・カンナー)の姿であった。放っておけなくなったマノージは、ピヤーをラーフルと駆け落ちさせようと決める。だが、そんなことになったらアスミーの計画は破綻してしまう。アスミーはマノージのことを嫌っていたが、何とかマノージを説得しようと色気まで使う。だが、マノージはピヤーの幸せだけを考えており、説得は失敗した。 そこでアスミーたちは、ゴロツキを雇ってラーフルを襲撃させ、ピヤーとの結婚を諦めさせる。ラーフルが怪我を負ったことを知ったマノージは、アスミーらの仕業だと勘付く。そこでマノージは、アスミーがシャワーを浴びているところをビデオに撮影し、彼女に見せ、プライベートな生活を録画されるのがどんな気持ちかを悟らせる。当然のことながらアスミーは怒るが、それでもマノージの言ったことを真剣に考えるようになる。 マノージはピヤーとラーフルの駆け落ちを成就させるべく段取りを整える。結婚式当日、マノージはピヤーを連れて結婚式場を脱出し、ラーフルとの待ち合わせ場所に到着する。だが、そこにはラーフルはいなかった。ラーフルはピヤーを諦めたのだった。結婚式場に戻ったピヤーを優しく受け容れてくれたのは、彼女の夫となる青年だった。 アスミーの撮った映像は、どんなTVドラマよりも面白いものに出来上がっていた。上司も大喜びであった。ところがアスミーはそのテープを全て破壊してしまう。「頭がおかしくなったの?」と聞かれたアスミーは、「私は頭がおかしかったの。でも今は正気に戻ったわ」と言って立ち去る。アスミーは解雇されてしまったが、それで満足だった。そしていつの間にかマノージのことを想うようになっていたのだった。
インドには、結婚式の一部始終を描いた傑作映画がいくつかある。例えば「Hum Aapke Hain Koun..!」(1994年)や「Monsoon Wedding」(2001年)などが有名だ。この「7 1/2 Phere」も、その傑作リストに加わることになるであろう良質のコメディー映画である。
この映画は2つの観点から見ることができるだろう。ひとつは、インドの大家族(ジョイント・ファミリー)が、どのような人間関係を築いて生活しているかという観点、もうひとつは、過剰な視聴率至上主義に陥りつつあるTV業界への警鐘という観点である。
映画に出てきたジョーシー家では4世代の家族が共に住んでいる。ヒンディー語には親族名称がかなり多く用意されており、それらを知っていると人間関係を把握しやすいだろう。逆に、親族名称を知らないと理解はかなり難しい。入れ歯をなくして困っている曽祖父とその妻、かつて愛した女性と結婚できずにお見合い結婚をしてしまったことをトラウマに思っている祖父、その息子たちとその妻たち、そして孫たちである。主人公のマノージは3世代目の兄弟の末っ子であり、未婚である。また、映画中で結婚式を挙げるのは、3世代目の兄弟の次男スレーシュ・ジョーシーの娘、ピヤーである。つまりマノージの姪に当たる。インドの大家族において、叔父(年下の兄弟)と甥・姪の関係はかなり親密なようで、マノージもピヤーのことを非常に可愛がっていた。だから、ピヤーの駆け落ちを人一倍応援していた。
一方、そんなジョーシー家の結婚式をTVドラマにしてしまおうと考えたのがアスミーであった。アスミーは、職業はTVドラマ監督だが、まだ一本もドラマを撮ったことがなかった。遂に手に入れたこのチャンスを最大限に活かそうと躍起になった彼女は、ジョーシー家の了承がもらえないと、盗撮してでも決行することを決める。他人の迷惑など考えず、自分の名誉や出世のことしか考えていない傲慢な女性である。それはTV業界全体に言えることだった。だが、マノージとの出会いによりアスミーの考えは変わり、出来上がったテープを自ら台無しにしてしまう。
基本的にコメディー映画なので、爆笑シーンは至る所にある。中継車をテロリストの隠れ家だと勘違いした馬鹿警官二人組のやり取りや、ピヤーの駆け落ちを成功させようとするマノージを説得するため、ドレスの胸元を開いたり閉じたりするアスミーの仕草などが面白かった。だが、最後には笑いの混じった涙が込み上げてくる展開となっている。
ジューヒー・チャーウラーは結婚してからは以前ほど映画に出演しなくなったが、それでも時々演技力を要する役を演じて存在感を示している。「7 1/2 Phere」でもジューヒーは大きな目を活用した最高の演技を見せていた。強面のイルファーン・カーンもジューヒーに勝るとも劣らない演技をしていた。
ミュージカルシーンはほとんどない。最近本当にミュージカルシーンを極力排したインド映画が増えてきた。途中で突然挿入させるミュージカルシーンはインド映画の最大の特徴だったのだが、それも次第に過去のものとなりつつあるのかもしれない。
ところで、題名の「7周半」の意味は、映画の最後で明かされる。それはTV業界の悪い習慣を象徴したものだった。TV業界というのは、「7周」の結婚、つまり普通の出来事ではなく、「7周半」のような結婚、つまりどこか普通でない出来事で視聴率を稼ごうとする業界である、ということだった。
「7 1/2 Phere」はちょっと変わった題名だが、優れたコメディー映画である。「Monsoon Wedding」が好きな人や、ジューヒー・チャーウラーのファンに特にオススメだ。