Karam

3.0
Karam
「Karam」

 今日はPVRアヌパム4で、2005年3月11日より公開の新作ヒンディー語映画「Karam」を観た。今週の火曜日からパンジャーブ州モーハーリーでインド対パーキスターンのクリケットのテストマッチ(5日間に渡る試合)が行われており、インド人の関心は映画よりもクリケットに向いているため、映画館やマーケットは金曜にも関わらずそれほど混雑していなかった。

 題名の「Karam」にはいろいろな意味がある。一般に「業」と訳される「カルマ」の語源であり、「行動」とか「義務」とか「運命」とか、うまく当てはまる訳語は日本語にはなさそうだ。監督は「Kaante」(2002年)や「Musafir」(2004年)などのマフィア映画が得意なサンジャイ・グプター、音楽はヴィシャール=シェーカル。キャストは、ジョン・アブラハム、プリヤンカー・チョープラー、バラト・ダボールカル、ヴィシュワジート・プラダーン、シャイニー・アーフージャーなど。

 ジョン(ジョン・アブラハム)は殺し屋で、マフィアのボス、キャプテン(バラト・ダボールカル)の下で暗殺を請け負っていた。ジョンにはシャーリニー(プリヤンカー・チョープラー)という愛妻がいた。

 ある日、ジョンは要人の暗殺の仕事をしたが、そのとき手違いで少女とその両親を殺してしまう。それがトラウマとなり、ジョンは暗殺者の仕事を辞めてシャーリニーと平和に暮らしたいと考えるようになる。ジョンはキャプテンにそのことを話すが、キャプテンは許さず、敵対するマフィア、ユーヌス(ヴィシュワジート・プラダーン)とその支援者4人を暗殺する仕事を課す。しかもキャプテンはシャーリニーを人質に取り、36時間以内に仕事の達成をしなければシャーリニーを殺すと脅した。ジョンはその警告を無視してシャーリニー救出に向かうが、もぬけの殻で、代わりにシャーリニーの左手小指が切り落とされて贈られて来る。ジョンはキャプテンの命令に従うしかなかった。

 標的は、企業家、建設王、映画監督、警察幹部などの大物ばかりで、警備も厳重だった。ジョンはまずは映画監督を隙を見て殺害し、続いて企業化と建設王も罠にはめて同時に暗殺する。しかし、敏腕刑事ワーグ(シャイニー・アーフージャー)に追われ、信頼できる仲間も失ったジョンは、一計を案じてユーヌスに投降する。ジョンはユーヌスらと手を結び、キャプテンを暗殺する代わりにシャーリニー救出を助けてもらうことにした。ユーヌスの仲間である警察幹部の力でシャーリニー救出は成功する。だが、ジョンはそれと同時にユーヌスと警察幹部も殺害する。

 逃げ出したジョンとシャーリニーは、キャプテンに追われる。ジョンは一人でキャプテンたちの手下を皆殺しにし、キャプテンも一騎打ちの末、殺害する。だが、そこへ駆けつけたワーグによりジョンは射殺される。シャーリニーはジョンの子供を妊娠しており、やがて出産する。シャーリニーは、ジョンの過失により孤児となった少女も引き取って、二人の子供の世話をしてジョンのことを思い出していた。

 映画のポスターに日本刀が映っていたので、てっきりインド製サムライ映画かと思っていた。ジョン・アブラハムの髪型も野武士みたいで似合っているのではと期待して見に行ったが、特に日本刀が重要なアイテムというわけでもない、普通のアクション映画だった。一応、クライマックスのジョンとキャプテンの一騎打ちでは、キャプテンが変なデザインの刀を振り回し、ジョンが鉄パイプで応戦するという戦いが描かれていたが、見所というほどのものでもなかった。だが、ジョン・アブラハムの「悲劇のアクションヒーロー」振りははまっており、精神年齢が低めの人のためのアクション映画として楽しめる作品である。

 最近人気爆発中のジョン・アブラハムは、血と汗と涙にまみれたダーティーヒーロー役がだいぶ板に付いてきた。彼の俳優としての魅力の源は、演技力というよりも激情力である。悩む!怒る!泣く!中途半端な感情の表現がない。とにかく映画の最初から最後まで、感情を発散しまくっている。それが彼の人気の秘密だと思う。そしてあの独特の髪型。おかっぱ頭と言えばいいのか、ツーブロックと言えばいいのか。既に彼の不動のトレードマークとなっているようで、どの映画でも同じ髪型をしている。それに加え、「Karam」ではおかしな仮想姿も披露して見せていた。

 ヒロインのプリヤンカー・チョープラーも、だいぶ余裕と貫禄が出てきて、女優らしくなってきた。先日発表されたフィルムフェア賞にて、プリヤンカー・チョープラーは「Aitraaz」(2004年)で最優秀悪役賞を受賞しており、「魔性の女」を得意とする女優となっていきそうだが、「Karam」ではひたすら夫に尽くす健気な若妻を演じていて、演技の幅が広がっていることを感じた。プリヤンカー演じるシャーリニーの小指が切り落とされてしまうというプロットはインド映画にしてはグロテスクだったが、その後のシーンでは小指を折り曲げて包帯を巻き、指が切られたように見せかけていることがバレバレだったので、かえって痛々しくなくてよかった。インド映画では、ヒロインはたとえ交通事故に遭っても銃で撃たれても、少し入院しただけで五体満足のきれいな身体に復活するのが普通なのだ。ヒロインの特権と言えよう。

 主役の二人以外で目立ったのは、刑事を演じたシャイニー・アーフージャー。先日見たばかりの印グリッシュ映画「Sins」(2005年)で猥褻神父役を演じていた男優である。「Sins」では大袈裟な演技をする男優だと感じていたが、「Karam」では脇役なのに主役に迫る迫真の演技をしており、好感が持てた。

 この映画の一番の弱みは、主人公のジョンが、誤って少女を殺してしまったことにより、暗殺者を辞めることを決意する、という、あまりありえない筋である。暗殺者は「ゴルゴ13」のように沈着冷静冷酷無比であるべきだ。ジョンのような激情的な人間は暗殺者に向かないし、少女を殺したくらいで自分の仕事に疑問を持つようなら、最初から暗殺者なんてやっていないだろう。そもそもジョンが暗殺者を辞めようとするところからこの話は始まるので、ジョンが辞める理由をもっと説得力のいくものにしてほしかった。

 映画の冒頭は、なぜかアニメで始まる。アニメのジョン・アブラハムが見ものである。非常に稚拙なアニメだが・・・。映画とアニメの融合は、「Abhay」(2001年)や「Hum Tum」(2004年)などで行われていたが、この「Karam」でのアニメの使われ方には全くメリットがなかった。

 音楽では、「Tinka Tinka」が最も印象に残る曲だった。しかし、それほどミュージカルシーンなどに趣向が凝らされておらず、アクション主体の映画であった。

 「Karam」は、ジョン・アブラハムのファンは必見の映画。アクション映画としての出来も悪くはない。日本のヒーロー戦隊ドラマを観るような感覚で楽しめる映画である。