今日はPVRプリヤーで、2004年10月29日公開の新作ヒングリッシュ映画「Morning Raga」を観た。監督はマヘーシュ・ダッターニー、音楽はマニ・シャルマーとアニト・ハリ。キャストは、シャバーナー・アーズミー、プラカーシュ・ラーオ、パリーザード・ゾーラービヤーン、リレット・ドゥベー、シャリーン・シャルマー、ヴィヴェーク・マシュルー、ナーサル、ヴィジャイなど。
アーンドラ・プラデーシュ州のある村。声楽の才能があったスワルナラター(シャバーナー・アーズミー)は、友人でヴァイオリン奏者のヴァイシュナヴィーを無理に誘って、コンサートに出演するため街へ向かった。スワルナラターの息子マーダヴとヴァイシュナヴィーの息子アビナイも一緒だった。ところが彼女らの乗ったバスは、村の郊外に架かる橋で自動車と衝突し、河に落ちてしまう。この事故により、ヴァイシュナヴィーとマーダヴは死んでしまった。それ以降、スワルナラターは自分の過ちを自分で罰するため、村から一歩も出ず、ひっそりと暮らしていた。 20年後、ハイダラーバードに住んでミュージシャンを目指していたマーダヴ(プラカーシュ・ラーオ)は、仕事を辞めて本格的に音楽活動を始める。マーダヴはバンド仲間を集めていた。久し振りに村に帰ったマーダヴは、偶然ピンキー(パリーザード・ゾーラービヤーン)と出会う。ピンキーも元々同じ村に住んでおり、久し振りに村を訪ねていたところだった。マーダヴとピンキーは意気投合し、一緒にバンドをすることにする。 ハイダラーバードに戻った二人は、ピンキーの母親カプール夫人(リレット・ドゥベー)の協力も得ながらべーシストとドラマーを見つけて、レストランで演奏を始める。だが、音楽に何の興味もない人々の前で延々と演奏し続けることに疑問を覚えたマーダヴはすぐに辞めてしまう。行き詰ったマーダヴは再び村に戻り、死んだ母親の友人だったスワルナラターを訪ねる。マーダヴは是非彼女にバンドに入ってもらいたかった。スワルナラターは最初は断るものの、夫の勧めもあり、バンドに協力することになる。 やがてハイダラーバードでフュージョン音楽のコンサートが開かれることになった。マーダヴたちはそれに出演するために、スワルナラターに街に来るように頼む。しかしスワルナラターは事故現場の橋にバスが来ると、昔の惨劇を思い出して取り乱し、バスから降りてしまう。結局コンサートはキャンセルことになった。 スワルナラターはその代わり、ピンキーに声楽を教えることにした。ピンキーはスワルナラターの家に住み込んで声楽を習う。やがて別のコンサートがハイダラーバードで催されることになった。マーダヴらは再び出演することに決め、スワルナラターにも街に来るように頼む。ピンキーはスワルナラターを無理矢理車に乗せて橋を渡り、何も起こらないことを証明する。また、ピンキーは実は20年前の事故でバスに衝突した車を運転していたのは、酔っ払った父親だったことをマーダヴとスワルナラターに打ち明ける。 コンサートの日。会場にはスワルナラターも現れた。ピンキーは彼女に歌うように頼む。スワルナラターは一瞬躊躇するが、歌い出し、観客から喝采を浴びる。
悪くはないのだが、いまいち盛り上がりにかける感のあったヒングリッシュ映画だった。監督は元々劇作家で、ゲイ映画「Mango Souffle」(2003年)を撮った人だ。「Mango Souffle」はかなり演劇が原作のため、かなり演劇っぽい映画になってしまっていたが、「Morning Raga」ではその点は改善されていた。しかし、まだ映画の文法にあまり慣れていないところがあるように思える。
この映画が悪くないと思えたのには、音楽の良さ、演技の良さ、そして田舎の農村の良さの3点のおかげだろう。
題名にインド音楽の専門用語「ラーガ」が入っているだけあり、音楽がテーマの映画だった。これで音楽が全く駄目だったら目に手も当てられなかったのだが、カルナーティック音楽(南インドの古典音楽)が非常にいい雰囲気を醸し出していた。古典声楽とキーボード、ドラム、ベースなどを合わせたフュージョン音楽も悪くなかったと思う。インドの古典音楽を聞いていると、インドは素晴らしいと改めて実感する。しかもこの映画でも描かれているように、インドの農村には優れた喉を持っている知らざれる音楽家たちがけっこうたくさんいるのではないかと思った。「Dance Like A Man」(2004年)でも同じように、村の何の変哲もないお婆さん(元デーヴダースィー)が古典音楽を教えているシーンがあった。
主演は何と言ってもシャバーナー・アーズミーだ。インド有数の演技派女優で、「City of Joy」(1992年)など英語の映画とも相性が良い。なぜかヒングリッシュ映画にしか出演しないパリーザード・ゾーラービヤーンも好演。パリーザードはあまりヒンディー語が得意ではないのだろうか?今回でデビュー2作目のプラカーシュ・ラーオも落ち着いた演技をしていてよかったが、感情の表現が多少苦手なのではないかと感じた。この3人が主役だが、ピンキーの母親役を演じたリレット・ドゥベーもいい味を出していた。彼女は「Kal Ho Naa Ho」(2003年)にもファンキーな役で出演していた。
インドの田舎はけっこうずるい。それだけで非常に絵になるからだ。映画にしろ、写真にしろ、とくかく田舎へ行って手当たり次第に映像にするだけで、何らかの芸術性を持ったものが出来てしまう。インドの農村はそういう魅力に溢れている。この映画でも田舎の魅力をたっぷりと描いていた。スワルナラターが住んでいる家は、数日前の日記で触れた、ヴァーストゥ・シャーストラに準じて設計されている典型的なインドの家屋だと思った。村人の中では水牛飼いがコメディーっぽい役で出ていてよかった。彼は常にアンナプールナーという名の水牛と一緒におり、「何が起きてもお前はミルクを出して、おいらはそれを売るだぞ」と言い聞かせているところが面白かった。
「南インドのある村」が舞台とされていたが、明らかにアーンドラ・プラデーシュ州の農村が舞台となっており、州都ハイダラーバードの映像も、チャール・ミーナールを含めてたくさん出てきた。最後のコンサートはゴールコンダー砦の前で行われていた。言語は基本的に英語だが、村人たちはテルグ語を話す。ちゃんと英語字幕が出る。
ヒングリッシュ映画は質の高い作品が多いので、ヒンディー語映画よりも優先的に観ることにしている。この映画はヒングリッシュ映画の中では完成度の低い映画と言える。だが、それでも上記の3点により見る価値はある映画に仕上がっていたと思う。