Vaastu Shastra

2.5
Vaastu Shastra
「Vaastu Shastra」

 ここ2週間ほどは宿題に追われていて映画を観に行けなかった。やっと中休みになったので、早速新作ヒンディー語映画を観に行った。今日見た映画は、2004年10月22日公開、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー製作のホラー映画「Vaastu Shastra」である。PVRプリヤーで鑑賞した。

 題名になっているヴァーストゥ・シャーストラとは、一言で説明してしまえば「インドの風水」である。住環境が人間に与える影響を考慮したインドの伝統的建築学で、例えば北東は祭壇、南東は台所、西は食堂、東や南に寝室、北は宝物庫などと規定されている。映画中でもヴァーストゥに関する言及が多少あるが、特にヴァーストゥ・シャーストラが重要な伏線となっていることはなかった。

 監督はサウラブ・ウシャー・ナーラング。キャストはチャクラヴァルティー、スシュミター・セーン、エヘサース・チャンナー、サーヤージー・シンデー、ラージパール・ヤーダヴ、ピヤー・ラーイ・チャウダリー、プーラブ・コーリー、ラスィカー・ジョーシーなど。

 プネー郊外にある屋敷に一家が引っ越してきた。作家のヴィラーグ(チャクラヴァルティー)、女医のジルミル(スシュミター・セーン)とその4歳の息子ローハン(エヘサース・チャンナー)、そしてジルミルの妹のラーディカー(ピヤー・ラーイ・チャウダリー)の4人だった。

 最初に異変に気付いたのはローハンだった。ローハンは「家に僕たち以外に誰かがいる」と言い、マニーシュとジョーティーという名前の2人の「見えない」子供たちと遊ぶようになった。最初は子供の空想だと気にも留めなかった両親だが、怪奇現象が相次ぐようになり、ローハンの様子も次第におかしくなるにつけ、異変を感じ取るようになる。雇ったメイド(ラスィカー・ジョーシー)が謎の変死を遂げ、ラーディカーとその恋人のムラーリー(プーラブ・コーリー)がヴィラーグらの留守中に惨殺されたことにより、恐怖は現実のものとなる。

 やがて亡霊たちはヴィラーグ、ローハン、ジルミルらにも襲い掛かる・・・。

 「この映画を観て何が起こっても、プロデューサーは一切責任を負いません。」数週間前から意味深なキャッチコピーと共に「Vaastu Shastra」の予告編が流れていた。おそらく「恐怖のあまり心臓麻痺とかになっても知らないよ」という意味だったと思うのだが、結果的にそのキャッチコピーは「映画の出来が悪くても許してね」という意味だったのではないかと思ってしまう。ラーム・ゴーパール・ヴァルマー自身の、インド製ホラー映画の草分け「Bhoot」(2003年)を越えるホラー映画ではなかった。しかしながら、評価できる点も多かった。

 ストーリーや映像などは、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」(1980年)と類似点が多い。夫の職業が作家であること、家族に小さな子供がいること、郊外の屋敷に引っ越すところなど、設定はかなり似通っている。「シャイニング」で一番有名なシーンは、子供が回廊を三輪車でグルグル回るシーンだが、「Vaastu Shastra」にも、全く同じではないが、それに強く影響を受けたと思われるシーンがあった。しかしラストはだいぶ違った。より優れた終わり方になっていればいいのだが、残念ながら「今までの雰囲気がぶち壊し」ぐらいのひどい終わり方だった。どうせなら「シャイニング」と同じエンディングにしてくれた方が気持ちよく映画館を出れたのだが・・・。あらすじには敢えて書かなかった。

 それでも、カメラワークは非常によく考えられていた。全ての怪奇現象の元になったのは、敷地内にあった不気味な形の大木だったのだが、それをカメラだけでじっとりと表現していた。セリフではそのことはほとんど触れられていない。また、冒頭にあった一家が乗った自動車がサッと通り過ぎるシーン、ブランコの上にカメラを置いて前後に揺らしながら屋敷全景を映すシーンのカメラワークなども印象に残っている。

 「シャイニング」のように、そのままカメラだけで亡霊の視線を表現すれば素晴らしい作品になったかもしれないが、残念ながら映画中、亡霊たちは実体を持って登場してしまう。しかも効果音が過剰すぎ、不要な部分、全く意味のない部分でも「ズギャーン!」とか騒音が鳴るので興ざめだった。なぜ屋敷に亡霊が住み着くようになったのかも、例の木が関係あることが暗示された以外は明らかにされなかった。

 しかし俳優たちの演技はほぼパーフェクト。特に主人公のスシュミター・セーン、子役のエヘサース・チャンナー、憎々しいメイド役のラスィカー・ジョーシーが素晴らしかった。スシュミター・セーンの演技は「Samay」(2003年)の好演を越える良さ。子役はインド映画の弱点だが、エヘサース・チャンナー君の演技は自然で素晴らしかった。最近才能のある子役が増えつつあり、非常に嬉しい。ラスィカー・ジョーシーが演じたメイドは、ヴィラーグとジルミルの前では猫をかぶる一方で、ローハンには「言うこと聞かねぇとお化けの出る小屋に閉じ込めるぞ!」と脅す上に、家のものを盗む憎々しい奴だった。他に、「Bride & Prejudice」(2004年)で四人姉妹の末娘を演じたピヤー・ラーイ・チャウダリーも出演していたことが特筆すべきだ。すごいかわいいわけではないが、不思議と印象に残る若手女優だと思った。ただ、「Bride & Prejudice」と同じような役だったのは偶然なのか、それともこの方向の女優を目指すのだろうか。

 映画中、ミュージカルシーンは一切ない。そのくせ上映時間は約3時間ある。怖い映画ではあるが、クライマックスでは笑いすらこぼれるかもしれない。