今日はPVRアヌパム4で、2003年10月10日公開のヒンディー語映画「Samay」を観た。「Samay」とはヒンディー語で「時間」という意味。副題は「When Time Strikes(時が刻まれるとき)」。主演はスシュミター・セーン。スシャーント・スィン、ラージェーシュ・ケーラー、ディネーシュ・ラーンバー、トゥシャール・ダールヴィーなど、マイナーな俳優が脇を固める中、特別出演としてジャッキー・シュロフが最後に登場する。監督はロビー・グレーワル。
インド有数の富豪が殺害された。敏腕女性刑事として有名な警察副本部長のマールヴィカー・チャウハーン(スシュミター・セーン)が捜査に当たるが、とりあえず犯行の完璧さから犯人は相当頭の切れる人物だということが分かっただけだった。 今度はトップアクトレスの殺人事件が起こった。一見別々の事件に見えたが、マールヴィカーは2つの事件の犯人が同一であると考える。さらに捜査を進める中、ある有名な殺人鬼が容疑者として浮上し、彼の居所を突き止めるが、そこには彼の遺体が横たわっていた。 3つの事件を照らし合わせて考えていたマールヴィカーは重要な事実に気が付く。富豪の死亡時刻は12時、女優の死亡時刻は3時、殺人鬼の死亡時刻は6時だった。しかも遺体の両手は死亡時刻と同じ時計の針の方向を向いていた。犯人は「時間」を弄んで連続殺人を行っているのだった。しかもターゲットは名の知れた人物ばかりだった。そして次の犯行時刻は9時と予想された。 マールヴィカーは殺された三人の共通した特徴に気が付く。三人とも眼鏡をかけており、しかもそれらは同じ眼鏡屋から購入したものだった。彼らは眼鏡を買ったその日に殺されていることも判明した。マールヴィカーはその眼鏡屋の顧客データを調べ、そこから一人の人物が浮かび上がる。 次のターゲットはある有名な音楽家であることが予想された。ちょうど彼はコンサートを行っていた。犯行予想時刻の9時前にコンサート会場に到着したマールヴィカーらは、会場を警備するが、9時になっても彼は殺されなかった。 引き続き音楽家の警備を続けるマールヴィカーの元へ、一人の男(ジャッキー・シュロフ)が現れる。彼こそが連続殺人犯だった。マールヴィカーは9時に犯行が行われなかったことから、このゲームはお前の負けだ、と言うが、男は不敵な笑みを浮かべて言う。「ゲームには勝った」と。彼は9時ちょうどに、マールヴィカーの一人娘を殺害していたのだった。それを知って逆上したマールヴィカーは彼を銃で射殺する。彼の死亡時刻はちょうど12時だった。
硬派なサスペンス映画。連続殺人事件を巡る、愉快犯と女性刑事の知力を尽くしたバトルが、ハリウッドばりの描写で描かれていた。セリフで物語が展開していく部分が多いので、ヒンディー語がかなり分からないと理解は難しいだろう。
スシュミター・セーンは冷静で知的な女刑事マールヴィカー役を緻密な演技でこなしていた。元々男っぽい容姿をしているので、下手に恋愛映画のヒロインを演じるよりは、こういう硬派な役ははまっている。大きな目でじっとカメラを見据えて物を考える様子や、氷のように冷たい表情はかっこいい。殺人事件の調査の合間に、一人娘との心温まる交流がわざとらしく挿入されていた。このシーンでのマールヴィカーだけは普通の母親に戻る。マールヴィカーのキャラクターに幅をもたせるためだろうが、正直なところこれらのシーンは邪魔に思えた。もちろん、娘は最後のシーンのための伏線なのだが。
時計と時間を題材にした連続殺人事件の筋は斬新で面白かった。それらを追っていくマールヴィカーたちの捜査過程も楽しめる。特にマールヴィカーの、相手の心を見透かしたような話し方がいい。しかし眼鏡から最終的に犯人が割り出されるというのは少し強引な気がした。大富豪や殺人鬼が、街角の何の変哲もない眼鏡屋で眼鏡を買うだろうか・・・?結局、12時、3時、6時、9時と時間に合わせた殺人ゲームは、犯人自身の時間ピッタリの死により、完遂してしまった。つまり警察側の敗北で映画は終わった。ハッピーエンドではないが、インド映画にしては、どんでん返しかつまとまった終わり方だったと思う。
なぜかマールヴィカーと連続殺人犯の共通の趣味がパックマンで、物語の中でも時々、暗闇の中で黙々とパックマンを遊ぶ不気味な犯人の姿が映し出される。しかしパックマンってナムコのゲームじゃないのか・・・?勝手に映画の中で使ってしまっていいいのだろうか・・・という野暮ったいことはインド映画では言いっこなしなのだ。映画の冒頭ではヒッチコックの映画(題名は忘れた)の最後のシーンが使われていたのも、インド映画ならではか。ヒッチコックへのオマージュと受け取っておけばいいだろう。
ジャッキー・シュロフは渋い登場の仕方をする。一応犯人の声だけは事前に何度か聞くことができ、どこかで聞いたことのある声だと思っていたのだが、まさか犯人がジャッキー・シュロフだとは思ってもみなかった。彼の登場で観客からも「アレ!」と声が挙がった。
音楽はサンディープ・チャウター。途中に一度だけミュージカルシーンがあるが、無理矢理挿入された印象を強く受けた。こういうシリアスなテーマの映画に、無理にミュージカルを入れなくてもいいと思うのだが、インド映画の製作者たちは「歌と踊りを入れないと映画は売れない」と思っているので、どうしても1、2曲は入ってしまう。その他、同じくサンディープ作曲の、「Bollywood Hollywood」(2002年)の曲「Rang Rang」が愛嬌程度に使用され、その音楽に合わせてスシュミター・セーンが娘役の女の子と、見ていてこっちが恥ずかしくなるような、かなり自然体の踊りをしていた。