今日(2004年9月3日)公開のヒンディー語映画「Hum Kaun Hai?(私は誰?)」を観た。ハリウッド映画「アザーズ」(2001年)を翻案したホラー映画で、監督はラヴィ・シャンカル・シャルマー、キャストはアミターブ・バッチャン、ダルメーンドラ、ディンプル・カパーリヤー、マウシュミー・チャタルジー、アビジート・ラーヒリー、スィーマー・レヘマーニー、ベイビー・ハンスィカー、マスター・アマンなど。
人里離れた森の中にある洋館に、サンドラ(ディンプル・カパーディヤー)は2人の子供、サラ(ベイビー・ハンスィカー)、デーヴィッド(マスター・アマン)と共に住んでいた。サラとデーヴィッドは太陽光アレルギーで、洋館の窓は全てカーテンがかけられ、全ての扉に鍵がかけられていた。サンドラの夫、フランク(アミターブ・バッチャン)は戦争に行っていた。この異様な洋館に、3人の使用人がやって来る。子守りのピントー夫人(マウシュミー・チャタルジー)、庭師のエドガー(アビジート・ラーヒリー)、コックのマリア(スィーマー・レヘマーニー)である。 使用人がやって来てから、屋敷では怪奇現象が起き始める。誰もいない場所から足音が聞こえたり、ピアノが突然鳴り出したり・・・。デーヴィッドはただ怯えるだけだったが、サラは「ヴィッキーの仕業よ」と口走るようになる。サラによると、この家にはサンドラ、サラ、デーヴィッドの他に、1人の男、2人の女、1人の子供がいるという。 怪奇現象に我慢ならなくなったサンドラは、神父を呼びに外へ出掛ける。そこへちょうど、フランクが帰って来る。サンドラも子供たちも大喜びするが、フランクの様子はどこか変だった。やがてフランクは何も言わずに立ち去ってしまう。 屋敷ではますます怪奇現象が起こるようになり、突然屋敷中のカーテンが取り払われたりした。怯えるサンドラは3人の使用人を追い出す。一方、サラとデーヴィッドは父親を探すために真夜中外へ出る。そこで発見したのは、ピントー夫人、エドガー、マリアの墓だった。実は3人の召使いは幽霊だったのだ。そこへ三人が現れ、子供たちを追いかける。 急いで屋敷に逃げ戻ったサラとデーヴィッドだったが、そこで待っていたのは、さらに驚愕の事実だった・・・。一方、フランクも友人のヴィーレーンドラ(ダルメーンドラ)と共に、あの屋敷の事実を突き止める。
敢えてあらすじは最後まで書かないでおく。しかしヒントを言えば、ナイト・シャーマラン監督の「シックス・センス」(1999年)と同じ路線だった。大方予想がついた結末ではあったが、序盤にスローテンポでじっくりと描写される、屋敷の不気味な雰囲気と住人のミステリアスな言動は、下手なホラー映画よりも怖かった。前述の通り、「アザーズ」という映画の完全な翻案であり、同映画を観たことのある人は特に観る必要はない映画である。
インド映画にハリウッド映画のパクリが多いことは周知の事実である。しかし僕は敢えてそのパクリを取り上げて非難することはしない。パクリだからと言って、その映画に批評する価値が全くないということはないからだ。僕がパクリ映画で重視するのは、パクリならパクリなりに、オリジナルにどれだけインドならではの要素や付加価値を加えることができたか、である。そういう意味で、この「Hum Kaun Hai?」は失格だった。全くインドならではの要素が入っておらず、ただ俳優をインド人にして、言語をヒンディー語にしただけの映画だった。登場人物の名前まで西洋人風だったのにはまいった。
ヒステリックなマダム、サンドラを演じたディンプル・カパーリヤーや、意味深なメイド、ピントー夫人を演じたマウシュミー・チャタルジーの演技もさることながら、目を引いたのはサンドラの長女サラを演じたベイビー・ハンスィカー・モートワーニー。インド映画の欠点として、いい子役がなかなかいないことが挙げられるのだが、13歳のハンスィカーは大人顔負けの超絶演技をしていた。ハンスィカーはTVドラマ「Hum 2 Hain Na」や映画「Koi… Mil Gaya」(2003年)、「Jaago」(2004年)などに出演していた子役女優である。こういう優れた子役が出てくるようになると、インド映画の質も上がってくるのではないかと思う。デーヴィッドを演じていたマスター・アマンも、子供らしい演技でかわいかった。ちなみに、「マスター」「ベイビー」とは、英語の「ミスター」「ミス」などにあたる、子供の尊称である。
往年のインド映画ファンには、アミターブ・バッチャンとダルメーンドラの歴史的黄金コンビを再びスクリーン上で見られることが楽しみかもしれない。とは言え、二人とも端役なので、特に目立った演技をしている訳ではない。
前半のドキドキ感はなかなかのもの。しかし、インド映画を観ているという実感が沸かない映画であり、どうせなら原作の「アザーズ」を見た方が断然いいだろう。インド映画はインド映画らしく、それが重要だ。