Jeena Sirf Merre Liye

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Jeena Sirf Merre Liye
「Jeena Sirf Merre Liye」

 今日は、2002年11月1日公開のヒンディー語映画「Jeena Sirf Merre Liye(私のためだけに生きて)」を観に行った。監督はタラト・ジャーニー、主演はカリーナー・カプールとトゥシャール・カプール。「観に行こうかな~、どうしようかな~」と迷っていたが、封切から1週間が経ち、まだ公開されているところを見ると、少なくとも超駄作でないことが予想できた。インド映画界は、駄作は封切1週間で姿を消すという厳しい市場なのだ。カリーナー・カプールが出ていたことも、多少後押しになった。もっとも、今週は新しいインド映画が公開されなかったので、そのおかげで生き残っているのかもしれないが・・・。

 主人公は、カラン(トゥシャール・カプール)とプージャー(カリーナー・カプール)。物語は2人が子供だった時代から始まる。カランはとある避暑地に住む孤児だった。プージャーの家はムンバイーに住む大金持ちで、毎年夏になると避暑にそこへやって来ていた。カランとプージャーは毎年会えるのを楽しみにしており、子供ながらお互いに愛情を抱いていた。ところがプージャーの父親は娘がカランのような下賤な子供と会うのを嫌がっていた。

  ある年からプージャーは避暑地に来なくなった。プージャーはイギリスへ渡り、オックスフォード大学に留学していた。一方でカランはムンバイーの富豪に養子にされており、義理の父母や妹と共に、まるで本当の血縁のように幸せに暮らしていた。プージャーもカランも、ずっと会えなくても、連絡もとれなくても、お互いのことを愛し合っていた。やがてプージャーは留学を終えてインドへ帰ってくる。

  プージャーがインドに帰ってきたのは、ただカランを探すためだった。プージャーはかつて毎年訪れていた避暑地へ行ったが、そこにカランの姿はなかった。そこでプージャーは自分の幼少時代からの思い出を小説にして雑誌に投稿し、掲載してもらった。しかしその小説はカランの目に触れることがなかった。だが、偶然にもカランとプージャーは顔を合わせていた。ただ、ずっと会っていなかったため、お互いに気が付かなかった。

  最初にそれに気が付いたのはプージャーだった。しかしプージャーはわざとそれを内緒にしてカランに接近する。カランはプージャー本人の目の前で、自分の幼馴染みのプージャーへの愛情を語る。それを聞いてプージャーは喜びを噛み潰していたのだった。

  カランがプージャーのことに気が付いたのと時を同じくして、プージャーの父親も娘の恋人があのカランであることに気が付く。ちょうど部下の娘がカランの妹と縁談をまとめているところだった。プージャーの父親はその結婚を無理矢理破談にさせる。そしてカランに言う。「もし妹の結婚を成就させたいのだったら、今後一切プージャーには会ってはならない」と。悩んだカランはプージャーを呼び出し、プージャーの心をわざと傷つけ、自分を嫌いにさせる。こうしてカランの妹は結婚することができるようになった。

  しかし、カランが自分に冷たく当たったのは父親の仕業であることを知ったプージャーは、家を飛び出してカランの元へ駆け込んだ。そこではちょうど妹の結婚式が行われていた。そこへプージャーの父親も駆けつける。父親はカランに向けて銃を放つ。その銃弾はカランの胸に命中し、カランは瀕死状態となる。病院に運び込まれたカランはすぐに手術を受けるが、衰弱し、遂に息を引き取ってしまう。そこへプージャーが来て、神様に祈る。するとカランは息を吹き返し、ハッピーエンドとなる。

 お粗末な映画だった。神様に祈ると病気が治ってしまうわ、孤児の少年が養子にもらわれてムンバイーに行けてしまうわ、果ては死んだ人間が生き返ってしまうわ、とやりたい放題。でもこれはインド映画だから、ということで笑って許そう。ストーリーに山場がなかったことも、まあいいとする。プージャーが、カランに自分の正体を隠して接近するところなんかは、こっちが赤面してしまうくらいしょうもなかったが、目をつむろう。だが、決定的に許せなかったのは結末。カランがプージャーの祈りによって生き返るのはいいのだが、カランを撃った父親はどうなったのか、全く描かれずにエンディングになってしまった。彼は逮捕されたのか?カランとプージャーの結婚は了承されたのか?こんな中途半端で終わってしまっては、むずがゆい気分がして気持ちが悪かった。

 カランを演じた男優トゥシャール・カプールと、カランに恋しながらも、途中からはプージャーとカランの恋を応援する役マリカーを演じたリーマー・ラーンバーという新人女優の演技力は酷かった。トゥシャールのあの棒読みのセリフはどうにかしてもらいたい。リーマーにしても、全く個性を感じない。脇役のまま一生を終える女優に思える。

 これらの大根役者に囲まれたおかげか、カリーナー・カプールがやたらと輝いて見えた。踊りもうまくなったし、演技力もなかなか身に付いている。ヒンディー語映画界随一の映画家系であるカプール一家に生まれ、姉カリシュマー・カプールに続いて大々的にデビューしながら、人気先行で今まであまりヒット作と評論家の評価に恵まれていないカリーナーだが、いつの間にか密かに大成長を遂げたように思えるのは気のせいか。カリーナーのいいところは、どんな役でも気兼ねなく演じれそうなところだ。イケイケでタカビーなセクシーガールがもっとも彼女の得意とする役だが、「Jeena Sirf Merre Liye」では一途な恋に走る良家の令嬢を絶妙に演じており、「Asoka」(2001年)のような歴史大作にもピタッとはまるオーラを持っている。それでいて何を演じても「カリーナー・カプール」としての個性を失わず、映画の中で観客の目をグッと惹き付ける不思議な才能がある。これこそが映画カースト生まれの天賦の才能なのかもしれない。あと、カリーナーの肌の色は、インド人レベルから見てかなり白いというのも特徴的である。顔が角ばっていて少し大きめなので、時々日本人に見える。

 カリーナー・カプールの登場シーンには、あるジンクスがヒンディー語映画界で出来上がりつつあるように思える。絶対にいきなり登場するようなことはなく、体の一部がまず映し出されて、じれったいカメラワークの末にバーンと顔が出て、「カリーナー・カプール登場!」のようになることが多い。それと同時に必ずアップテンポの音楽と共に踊って登場し、そのままミュージカルシーンになることも多い。この映画でのカリーナーの登場シーンもやたらと予算がかかっていて、パリのエッフェル塔の前で、「インドよいとこ一度はおいで」的な歌と共にインド人白人混じって踊りを繰り広げるミュージカルシーンだった。こういう面白い登場シーンが続く限り、僕はカリーナーの登場する映画を全部見てみたくなっている。もしや僕はカリーナーのファンなのか・・・?