23rd March 1931: Shaheed

3.5
23rd March 1931: Shaheed
「23rd March 1931: Shaheed」

 1931年3月23日は、3人の独立活動家、バガト・スィン、スクデーヴ、ラージグルが絞首刑になった日であり、殉死の日として知られている。インドの独立運動といえば、マハートマー・ガーンディーが主導した非暴力主義が世界的によく知られているが、それだけでインドの独立が達成されたわけではない。バガト・スィンらは武装蜂起による革命を起こして独立を勝ち取ろうとした独立活動家たちであり、彼らの過激な行動もインド独立に大きな影響を与えた。

 2002年6月7日公開の「23rd March 1931: Shaheed」はバガト・スィンの伝記映画である。監督は「Ziddi」(1997年)で知られるグッドゥー・ダノアー。ダルメーンドラがプロデューサーで、彼の2人の息子サニー・デーオールとボビー・デーオールが主演している。バガト・スィンを演じたのが弟のボビーで、彼の師匠であるチャンドラシェーカル・アーザードを演じたのが兄のサニーになる。サニー・デーオールは前年に「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)を大ヒットさせており、キャリアの絶頂期にあった。

 他には、アムリター・スィン、ラーフル・デーヴ、アイシュワリヤー・ラーイ、ディヴィヤー・ダッター、サチン・ケーデーカル、スレーシュ・オーベローイ、シャクティ・カプールなどが出演している。音楽監督はアーナンド・ラージ・アーナンドである。

 実はこの映画と同日に、同じくバガト・スィンを生涯を題材にした伝記映画「The Legend of Bhagat Singh」(2002年)が公開された。同じような映画が同日に公開されるのは、年間数多くの映画が製作されているインドでも珍しいことだ。公開当時、「The Legend of Bhagat Singh」の方は映画館で鑑賞したのだが、こちらの「23rd March 1931: Shaheed」は見逃した。2023年4月18日に観てこのレビューを書いている。

 バガト・スィン(ボビー・デーオール)はラーラー・ラージパト・ラーイやカルタール・スィンなどの独立活動家と親交のあるキシャン・スィンの家に生まれ、幼少時からインド独立のために命を捧げようと決めていた。家族はバガトをマンネーワーリー(アイシュワリヤー・ラーイ)と結婚させようとするが、バガトは家を抜け出し、カーンプルへ行ってチャンドラシェーカル・アーザード(サニー・デーオール)の仲間になる。

 アーザードは独立運動の資金調達のためにラームプラサード・ビスミルらと共にカーコーリー列車強盗事件を起こす。英国植民地政府はすぐに犯人を捜索し、ビスミルらを捕らえるが、アーザードは脱出に成功した。

 バガトはラージパト・ラーイに呼び寄せられ、ラホールでサイモン委員会への抗議運動に参加する。そこでラージパト・ラーイは警察に殴打されて死亡する。バガトは復讐を誓い、英国人警察官を射殺する。バガトは逃げ出し、地下に潜る。

 バガトはバクテーシュワル・ダットと共にデリーの中央議事堂に現れ、爆弾を投下する。バガトたちは逮捕され、裁判が行われる。バガトは裁判の場を利用して自らの政治的な主張を国民に知らしめる。また、刑務所では待遇の改善を訴えてハンガーストライキを決行する。これらの活動によりバガトの名前は全国に広まった。

 バガトはスクデーヴとラージグルと共に英国人警官殺害の罪で絞首刑を宣告される。イラーハーバードにいたアーザードはバガトを助け出そうとするが、居場所を密告され、警察に囲まれて自害する。英国植民地政府はバガトの死刑執行日を一日早め、1931年3月23日に実行する。

 「The Legend of Bhagat Singh」の方は、主演アジャイ・デーヴガンの人柄か、はたまたARレヘマーン作曲の音楽が影響しているのか、真面目な作りの中にもポップさがあり、楽しく鑑賞できるような工夫がされていた。他方、この「23rd March 1931: Shaheed」については、コメディー要素は一切なく、バガトの生涯を3時間以上掛けてじっくりと再現していた。同日に同じような映画が公開されたことで、どうしても比較対象にされてしまうが、甲乙付けがたい出来である。

 両作品のストーリーは驚くほど似ていた。同じ人物の伝記映画なので似通うのは当然なのだが、脚本まで同じなのではないかと思えるほど似ていた。確かにバガト・スィンにまつわる伝説的なエピソードはいくつかあり、彼の伝記映画を作る際にはそれらをなるべく盛りこもうとするのは監督の性である。死刑執行日にバガトは本を読み終えようとしたこと、吊り輪にキスをして絞首刑を受けたことなど、有名なエピソードがどちらの映画でも映像化されていた。言及される歴史的な事件もほとんど一緒だ。アムリトサル虐殺事件、チャウリー・チャウラー事件、カーコーリー列車強盗事件、ラーラー・ラージパト・ラーイの死とその復讐、そしてデリー中央議事堂爆弾投下事件など。似ているというよりも間違い探しができるレベルのそっくりさであった。

 また、音楽も似ていた。「Pagadi Sambhal」、「Sarfaroshi Ki Tamanna」、「Mere Rang De Basanti Chola」など、共通する歌詞の挿入歌が複数あった。音楽監督は異なるので、それぞれの味付けはもちろん違う。

 「The Legend of Bhagat Singh」からはガーンディー批判や国民会議派批判が強く感じられたが、「23rd March 1931: Shaheed」ではバガトがガーンディーのやり方に幻滅したことが台詞で簡単に語られていただけだった。その代わり、「23rd March 1931: Shaheed」にはガーンディーは全く登場せず、存在感がない。ちなみにこれらの映画が公開されたときには中央政府ではインド人民党(BJP)が実権を握っていた。

 主演ボビー・デーオールの演技にはほとんど緩急がなくて、バガト・スィンを一直線に英雄に祭り上げようとしているように感じた。どちらかといえばチャンドラシェーカル・アーザードを演じたサニー・デーオールの方が繊細な演技をしていた。また、バガトの母親を演じたアムリター・スィンの演技が飛び抜けて光っていた。アイシュワリヤー・ラーイの出演はサプライズだった。

 「23rd March 1931: Shaheed」は、インド人の間で非常に人気のある独立活動家バガト・スィンの伝記映画である。同日に同じような映画「The Legend of Bhagat Singh」が公開されるという珍事が起きたことも特筆すべきだ。ただ、どちらもそれなりにしっかり作ってあって、甲乙は付けがたい。両作品を鑑賞すると、バガト・スィンのことがよく分かるだろう。