Dream Girl (1977)

3.0
Dream Girl
「Dream Girl」

 往年の女優ヘーマー・マーリニーは「ドリームガール」の愛称を呼ばれることがある。そのきっかけとなったのが、1977年1月14日公開の「Dream Girl」である。1977年を代表するヒット作の一本だ。

 監督はプラモード・チャクラヴォルティー、音楽監督はラクシュミーカーント=ピャーレーラール、作詞はアーナンド・バクシー。主演はダルメーンドラとヘーマー・マーリニー。この二人は1970年代に「Seeta Aur Geeta」(1972年)や「Sholay」(1975年)など数多くの映画で共演し、ゴールデンカップルと呼ばれた。しかも、ダルメーンドラは既婚者であったにもかかわらず、妻との婚姻関係をそのままにして1980年にヘーマーと結婚している。

 他に、アショーク・クマール、アスラーニー、プレーム・チョープラー、ラリター・パワール、ディーナー・パータク、ピンチュー・カプール、パドミニー・コーラープレー、パッラヴィー・ジョーシーなどが出演している。

 2025年12月11日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 裕福な実業家アヌパム・メヘラー、通称アヌープ(ダルメーンドラ)は、路上の画家から買った女性の絵を見て一目惚れし、「ドリームガール」と名付けて、彼女を探していた。彼の両親は既に亡く、祖父アショーク(アショーク・クマール)は孫を結婚させようとするが、アヌープは結婚相手はドリームガールだと決めていた。

 その絵は、孤児院「ハッピーホーム」に住む片足が不自由な少年チントゥーが描いたものだった。モデルは孤児院を運営するディーディー(ヘーマー・マーリニー)だった。ディーディーは孤児院の運営資金を稼ぐため、弟分のチャンダー(アスラーニー)と共に金持ちを狙った窃盗や詐欺をしていた。アヌープは何度も彼らの餌食になるが、とうとう捕まえる。

 アヌープは彼女を「サプナー(夢)」と呼ぶ。アヌープはサプナーに頼み事があった。結婚を強要する祖父の前で結婚相手を演じてほしいという頼みだった。サプナーは、チントゥーの足の治療費を稼ぎたく、アヌープに協力することになる。

 アヌープは祖父にサプナーを小さな藩王国の姫だと紹介する。だが、サプナーは階段から転げ落ちて足を怪我してしまい、アヌープの家にしばらく滞在することになる。一方、チャンダーは泥棒と間違えられて警察に逮捕され、拘留されてしまう。

 ハッピーホームでは急にディーディーとチャンダーがいなくなったために孤児たちが腹を空かせていた。とうとう彼らはディーディーを探しに外に出る。ディーディーは子供たちの姿を見つけ、彼らに呼びかける。ディーディーを見つけて喜んだ子供たちはアヌープに家に押しかけてしまう。サプナーは子供たちのことを知らないと言い張り、子供たちは失望して去って行く。

 だが、事情を察したアヌープは、チャンダーを保釈させ、サプナーを外に連れ出し、子供たちと再会させる。だが、その様子をアヌープの従弟プレーム・ヴァルマー(プレーム・チョープラー)が盗み見ていた。プレームの母親は駆け落ち結婚し、アショークから勘当されていた。プレームも祖父から疎まれていた。だが、プレームは何とかしてアヌープの資産をかすめ取ろうとしていたのである。

 プレームはまずサプナーに接近し、彼女とアヌープからせしめた金を山分けにしようとする。それを拒絶されるとプレームは、アヌープとサプナーの婚約発表パーティーでサプナーの素性を暴露する。実はサプナーは孤児院を立ち上げる前、「チャンパーバーイー」という名でタワーイフをしており、プレームも彼女と面識があったのである。だが、このとき乳母(ラリター・パワール)がさらに衝撃的な暴露をする。彼女の弁によると、アヌープはアショークの実の孫ではなかった。アショークの母親は死ぬ直前に女児を生んでいたが、乳母はその子供をラトナーバーイー(ディーナー・パータク)という娼館主に預けており、代わりに孤児院から男児を連れて来たのだった。

 それを聞いたプレームは、愛人をアショークの実の孫娘に仕立て上げる。また、サプナーを誘拐して幽閉する。彼女が誘拐されるのを目撃したチントゥーは必死に追いかけるが追いつけなかった。だが、アヌープがやって来て事情を知り、子供たちと一緒にサプナーを探し始める。

 子供たちの活躍によりサプナーは見つかり、アヌープは彼女を助け出そうとする。一度はプレームの一味に逆に捕まってしまい殺されそうになるが首尾良く脱出し、もう一度プレームを追いかける。サプナーは助け出され、アヌープは逮捕される。アショークはサプナーを実の孫娘として受け入れ、アヌープも変わらず孫として接し、孤児院の子供たちも引き取る。

 「Dream Girl」公開時には既にダルメーンドラもヘーマー・マーリニーも、押しも押されもしない大スターであったが、この映画の成功は特にヘーマーのキャリアにとって、「ドリームガール」の愛称を得るきっかけとなったこともあって、重要な出来事として記録されている。ただ、実際に映画を観てみると、非常に雑な作りであることに驚かされ、若干の失望をしてしまう。

 まず、編集が下手だ。シーンとシーンの接続が悪いところがいくつもあって、ストーリーが飛んだように感じられる。バンジャーラー(遊牧民)の宴会的なダンスシーン「O Raja Babu」の前後は特に意味不明だった。

 また、ヘーマー演じる主人公の素性が次々に変化する。それがこの映画のミソでもあるのだが、現実離れした振り幅で、平常心でもってそれらを受け入れることが困難である。最初は泥棒および詐欺師として登場し、ダルメーンドラ演じるアヌープに一杯食わせるが、すぐに彼女が孤児院を経営する心優しい女性であることが分かり、窃盗や詐欺で稼いだ金は全て孤児院の運営費に充てていることも判明して、観客の同情を買う。そんな彼女が今度はアヌープから頼まれて、彼の結婚相手を演じることになるが、アヌープの従弟プレームからは、過去にタワーイフをしていたことが暴露されてしまう。そうかと思ったら、彼女の出生の秘密が明かされ、実はアヌープの祖父アショークの実の孫娘であることが発覚する。彼女の名前も、ドリームガール、ディーディー、サプナー、チャンパーバーイーなど、二転三転する。まるで脚本を書きながら撮影されたような、極端から極端へ振れる展開で、つい振り落とされてしまう。

 「Dream Girl」という題名からは正統派ロマンス映画を想像するわけだが、蓋を開いてみたら、アクションやコメディーなど、さまざまな娯楽要素の詰まった典型的なマサーラー映画だ。ただ、基本は道端で購入した絵から始まるロマンティックな恋物語だ。その点があまり強調されておらず、詳しい説明もなかったが、そこに集中していればよりロマンス色が強くなり、ストーリーもまとまったのではないかと感じた。

 全体的にドタバタしていたものの、孤児院で育つ子供たちの純粋な演技には心を打つものがある。特に片足が不自由ながら絵の才能のあるチントゥーは物語の重要な推進役になっており、彼が車輪付き板に乗ってサプナーを誘拐する自動車に追いすがるシーンは、そんな馬鹿なとは思いつつもハラハラドキドキする。子役俳優たちの中には、パドミニー・コーラープレーやパッラヴィー・ジョーシーといった、後に一定の活躍をする人材が含まれているのも特筆すべきだ。「Dream Girl」という題名ながら、わんぱくな子供たちにも十分にスポットライトが当たっている作品である。

 アヌープが「ドリームガール」を夢想するシーンや、シーンの切り替わりなど、一部に原始的なコンピューターグラフィックスが使われている。必ずしも上手な使い方ではないが、当時としては目新しかったのだろう。

 「Dream Girl」は、ヘーマー・マーリニーが「ドリームガール」と呼ばれるきっかけになった作品である。同時に、ヘーマーの存在がこの映画を映画史に残る作品にしたともいえる。興行的にも成功した。だが、知名度や興行的成功とは裏腹に、必ずしも完成度の高い映画ではない。脚本なしに撮影を始めてしまったかのようなドタバタが目立つ。それを覚悟した上で観るのが吉であろう。


Dream Girl (1977) - Full Movie 4K - Hema Malini, Dharmendra, Ashok Kumar, Prem Chopra, Asrani