Seeta Aur Geeta

4.0
Seeta Aur Geeta
「Seeta Aur Geeta」

 1972年11月3日公開の「Seeta Aur Geeta(スィーターとギーター)」は、運命の悪戯から全く別々の家族に育てられることになった双子の姉妹の物語で、「王子と乞食」タイプの作品である。古典的なストーリーであるためプロットに新しさはないものの、男性中心主義の映画作りが根強いヒンディー語映画界において、女性を主人公にした点で目新しい。

 監督はラメーシュ・スィッピー。後に「Sholay」(1975年)を撮ることになるスィッピー監督は、まだこのときは駆け出しの若手映画監督であった。音楽監督はRDブルマン。脚本はサリーム=ジャーヴェードである。

 主演を務めるのはヘーマー・マーリニー。既にこのときまでに「ドリームガール」の愛称を持つ国民的な人気女優になっており、本作で初めて一人二役に挑戦した。彼女の相手役の一人が、スクリーン上で抜群の相性を誇ったダルメーンドラだ。二人は「Sharafat」(1970年)や「Naya Zamana」(1971年)などで共演済みだった。この二人は後に結婚することになる。もう一人の相手役はサンジーヴ・クマールだが、彼も撮影時には既に確立した俳優だった。

 他に、ルーペーシュ・クマール、マノーラマー、サティエーン・カップー、プラティマー・デーヴィー、ハニー・イーラーニー、アスラーニーなどが出演している。

 サリーム=ジャーヴェードのドキュメンタリー・シリーズ「Angry Young Men: The Salim-Javed Story」(2024年)を鑑賞し、サリーム=ジャーヴェード作品を観てみたくなったため、2024年9月5日に鑑賞してこのレビューを書いている。

 裕福な家庭の夫婦が嵐の晩に貧しい夫婦の家に避難してきた。裕福な家庭の妻は妊娠しており、産気づいていた。彼女は双子の女の子を産んだが、貧しい夫婦には子供がおらず、二人生まれたことを言わずに、その内の一人を我が子にしてしまった。こうして、双子の姉妹の片方は裕福な家庭で育ち、もう片方は貧しい家庭で育つことになった。

 裕福な家庭に育った女の子はスィーター(ヘーマー・マーリニー)と名付けられた。スィーターの実の両親はすぐに死んでしまい、叔父のバドリーナート(サティエーン・カップー)と叔母のカウシャリヤー(マノーラマー)に育てられることになった。スィーターの実の両親が遺した遺産は、スィーターが結婚するまでバドリーナートとカウシャリヤーが管理することになっていた。欲深いカウシャリヤーは、弟のランジート(ルーペーシュ・クマール)とスィーターを結婚させ、遺産を横取りしようと企んでいた。カウシャリヤーはスィーターを下女のように扱いいじめていた。あるときスィーターはいじめに耐えきれなくなり家を飛び出してしまう。バドリーナートとカウシャリヤーは警察に捜索願を出す。

 一方、貧しい家庭に育った女の子はギーター(ヘーマー・マーリニー)と名付けられた。大道芸人となり、相棒のラーカー(ダルメーンドラ)と共に路上で綱渡りなどをして観客からお捻りを稼いでいた。ギーターは母親と喧嘩して家を飛び出た。道中でギーターはラヴィ(サンジーヴ・クマール)という医者と出会う。ラヴィはかつてスィーターとお見合いをしたことがあり、ギーターをスィーターだと勘違いして彼女をバカンス先のマハーバレーシュワルに連れて行く。お見合いのときの第一印象は良くなかったが、活発なギーターをラヴィはすっかり気に入ってしまう。

 ギーターは警察に見つかり、バドリーナートとカウシャリヤーの家に連れて行かれる。ギーターは、カウシャリヤーが義母(プラティマー・デーヴィー)をいじめていることを知り、不正を正すまでこの家に留まり続けることを決意する。ギーターは、バドリーナートとカウシャリヤー、その娘シーラー(ハニー・イーラーニー)、そしてランジートを次々に平服させる。また、訪ねてきたラヴィと親交を深める。遂にラヴィはバドリーナートとカウシャリヤーに彼女との結婚を求める。

 一方、スィーターは橋から身投げして自殺しようとしたが、ラーカーに救われる。意識を取り戻したスィーターは、ギーターの母親から優しくされて感動し、その家に留まることにする。ギーターのように大道芸ができなかったためにラーカーからは失望されるが、家事をよくこなし、ギーターの母親から喜ばれた。しかし、市場で買い物をしていたランジートに姿を目撃されてしまう。ランジートは、自宅にいるスィーターは実は大道芸人のギーターであることを知る。

 同じ日にラヴィとギーター、ラーカーとスィーターの結婚式が行われようとしていた。それを阻止しようとランジートはスィーターを拉致する。また、ギーターは罪悪感を感じ、ラヴィに真実を伝えようとするが、そこへランジートがやって来て、ギーターの正体を明かしてしまう。ギーターは詐欺の容疑で警察に逮捕される。

 ギーターの母親はラーカーに、スィーターとギーターは双子の姉妹であると明かす。ラーカーは留置所からギーターを救い出す。そしてスィーターの囚われている場所を突き止めてギーターと共に突入する。そこにはラヴィも幽閉されていた。負傷したスィーターを治療するために呼ばれた医者がたまたまラヴィだったのである。ランジートはスィーターと結婚しようとするが、ラーカーやギーター、そして救い出されたラヴィの妨害により阻止される。多勢に無勢で三人は一旦ランジートに捕まってしまうが、警察が駆けつけたため、助かった。

 こうしてラヴィはギーターと、ラーカーはスィーターと結ばれ、同日に結婚する。

 双子の姉妹が、一方は裕福な家庭で育てられ、一方は貧しい家庭に育てられた。普通ならば、裕福な家庭に育てられた方は幸せになり、貧しい家庭に育てられた方は不幸になっていると予想できる。だが、このとき台頭しつつあった脚本家コンビ、サリーム=ジャーヴェードは、敢えてその予想に反するそれぞれの人生を見せた。裕福な家庭で育ったはずのスィーターは、両親の死や強欲な叔母のいじめなどの影響で不幸な人生を送っていた一方、貧しい家庭で育ったはずのギーターは、確かに貧しくはあったが、男勝りの大道芸人として一人前に稼ぎ、人生を謳歌していた。

 スィーターとギーターのキャラクターは双子とはいえ正反対であるが、これはよくある設定だ。スィーターは内向的で家事が得意な女性に育ち、ギーターは外交的で快活な女性に育った。スィーターの得意なことはギーターは苦手で、ギーターの得意なことはスィーターは苦手という、相互補完的な関係にもあった。

 スィーターとギーターは、自分の双子の姉妹がいるとは知らずに生きてきていた。それがひょんなことから入れ替わり、スィーターはギーターの家に、ギーターはスィーターの家に住むようになる。

 特にギーターがスィーターの家で果たした役割が大きかった。スィーターの資産を横取りしようと企む意地悪で欲張りな叔母カウシャリヤーと、その娘のシーラー、そしてその弟のランジートが寄ってたかってスィーターや彼女の祖母をいじめていた。それを知ったギーターは、カウシャリヤー、シーラー、ランジートに対して毅然とした態度を取り、時には反撃し、遂には彼らを制圧してしまう。悪役がはっきりしているため、この分かりやすい逆転劇には胸のすく思いがする。

 女性が主人公の映画であり、家庭が主な舞台になるため、そのまま家族ドラマで終わるのかと早とちりするのだが、幽閉されたスィーターとラヴィを救出しにギーターとラーカーがランジートのアジトを襲うシーンはなかなかの活劇になっており、アクション映画のエンディングになっていた。しかも、ヘーマー・マーリニーが自らフェンシングまでする。その姿は勇ましくかっこいい。この映画の「ヒーロー」はへーマーだといわれる由縁である。

 スィーターとギーターは全く異なる性格のキャラだったため、演じ分けるのはそれほど難しくなかったかもしれない。それでもヘーマーはどちらのキャラも最大限の誠実さで演じており、スーパースターとしての貫禄があった。スィーターとギーターが同じ画面に登場するシーンが数回あった。技術的にどのようにそれを実現したのかは分からないが、当時としては非常に高いレベルであったことは想像に難くない。そしてヘーマーは全く違和感なくそういう特殊なシーンもこなしていた。彼女はこの映画でフィルムフェア賞主演女優賞を受賞している。

 ちなみに、スィーターの名前は「ラーマーヤナ」のスィーター姫から取られている。スィーター姫はラーマ王子の妻にふさわしい高潔で従順な女性の代表であり、しかも森林追放刑になったラーマ王子に付き従い貧しい生活を甘受した女性でもある。「Seeta Aur Geeta」のスィーター役にピッタリの名前だ。一方、ギーターの名前は「マハーバーラタ」にてクリシュナがアルジュナに説くバガヴァドギーターから取られている。スィーターと間違われて彼女の家族の一員になったギーターは、この家で横行していた不正を正すまでは立ち去らないと誓うが、それでも正しいことをするのに嘘を付くことは許されるのか悩んでいた。スィーターの祖母は彼女に、「正しいことのために付いた嘘は100の真実に等しい」というバガヴァドギーターの一節を説く。しかしながら、ギーターはラヴィとの結婚前に真実を明かす。嘘を嘘のままにしておくことは、いくらバガヴァドギーターでそのように説かれていても、インドの道徳に反することなのかもしれない。

 もうひとつ豆情報になるが、映画の中でシーラーを演じたハニー・イーラーニーは、この映画の撮影中にサリーム=ジャーヴェードの片割れジャーヴェード・アクタルと出会い、結婚した。二人の間に生まれたのがファルハーン・アクタルとゾーヤー・アクタルである。また、ハニーの姪が「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)などのファラー・カーン監督になる。

 「Seeta Aur Geeta」は、当時のベストスクリーンカップルだったダルメーンドラとヘーマー・マーリニー、そしてサンジーヴ・クマールが共演するオールスターキャストの映画であるが、その実は、一人二役に挑戦したヘーマーが圧倒的なスター振りを見せつけ、他の俳優たちを寄せ付けない大活躍をしている作品である。興行的にも大ヒットし、ヘーマーの人気を不動のものとした。時代を代表する映画の一本である。