Jabariya Jodi

3.5
Jabariya Jodi
「Jabariya Jodi」

 インドの結婚は、まだまだ親同士が決めるアレンジドマリッジが多く、本人同士が決めるラブ・マリッジ(恋愛結婚)は少ない。だからこそ結婚を巡るロマンス映画が盛り上がるわけだが、実はインドにはもう一つ結婚の形態がある。それはパカルワー・シャーディーもしくはジャバリヤー・シャーディーと呼ばれているものだ。これは、日本語に訳すと「略奪結婚」になるだろうが、この言葉から一般的に想像されるものとは異なる。すなわち、男性が女性を略奪して結婚するのではなく、逆に、花嫁側の家族がどこかから花婿を誘拐して来て娘と無理矢理結婚させてしまうのである。とは言っても、インド全土で行われていることではなく、ビハール州など一部地域での慣行となっている。

 なぜ花嫁側が花婿を誘拐してまで結婚させるかと言うと、持参金の問題があるからである。インドでは結婚時に花嫁側が花婿側に持参金を支払う習慣になっているのだが、持参金の相場があまりに高額になってしまったため、なかなか娘の結婚相手が見つからない事態となっている。そのため、スペックの高い独身男性を誘拐して力尽くで娘と挙式させ、二人を同室に閉じ込めてしまうことで、結婚を既成事実化し、持参金を支払わずに娘を嫁入りさせてしまう習慣が横行するようになったのである。過去には、このテーマを取り上げた「Antardwand」(2010年)という映画があった。

 2019年8月9日公開の「Jabariya Jodi」は、ジャバリヤー・シャーディーを主題にしたロマンス映画である。前述の「Antardwand」はシリアスな作りだったが、「Jabariya Jodi」の方は娯楽映画である。監督は、「Raanjhanaa」(2013年)などで助監督を務め、TVドラマ監督をして来たプラシャーント・スィンで、映画の監督は初である。主演はスィッダールト・マロートラーとパリニーティ・チョープラー。他に、ジャーヴェード・ジャーファリー、サンジャイ・ミシュラー、アパールシャクティ・クラーナー、シーバー・チャッダー、シャラド・カプール、チャンダン・ロイ・サーンニャールなど。また、スウェーデン人ダンサーのエリ・アヴラムが「Zila Hilela」でアイテムガール出演している。

 題名の「Jabariya Jodi」とは、「力尽くで結ばれたカップル」「強制カップル」みたいな意味である。

 ビハール州の州都パトナー。アバイ・スィン(スィッダールト・マロートラー)は、父親フクム・デーヴ・スィン(ジャーヴェード・ジャーファリー)の命令に従い、仲間たちと共に、独身男性を誘拐してクライアントの娘と無理矢理結婚させるジャバリヤー・シャーディーのビジネスをしていた。

 とある結婚式でアバイは、幼馴染みのバブリー(パリニーティ・チョープラー)と再会する。子供の頃、アバイはバブリーにプロポーズをしていた。しかし、バブリーは引っ越して行ってしまい、それ以来の再会であった。アバイとバブリーの間には再び恋が燃え上がり、二人は肉体関係になる。バブリーはアバイと結婚したいと打ち明けるが、アバイはバブリーとの結婚を怖れていた。

 奇しくもバブリーの父親ドゥニヤー・ラール・ヤーダヴ(サンジャイ・ミシュラー)は、娘の結婚相手を探していた。しかし、血気盛んなバブリーは、公衆の面前で元ボーイフレンドに暴行を加え、TVで放映されて有名人となっており、なかなか結婚を承諾する男性がいなかった。また、ようやく見つかった縁談も、450万ルピーの持参金を要求され、頓挫した。そこでドゥニヤーは、ジャバリヤー・シャーディーに頼ろうとする。バブリーは、アバイが現れたことで、アバイとの縁談が進んでいると勘違いし、ジャバリヤー・シャーディーを承諾してしまう。

 ドゥニヤーは、バブリーを医者のパップーと結婚させようとしていた。しかし、パップーは、フクムの政敵ダッダン・ヤーダヴ(シャラド・カプール)の妹との縁談が進んでいた。ダッダンは自らフクムを訪れ、パップーとバブリーの結婚を取り止めるように頼む。フクムとダッダンの間で交渉が成立し、アバイはドゥニヤーから受け取った金を返しに行く。ドゥニヤーの家では既に結婚式の準備が進んでいたが、アバイは金を返し、バブリーのことも愛していないと言い放つ。

 簡単に引き下がる性格ではなかったバブリーは、親友のサントーシュ・パータク(アパールシャクティ・クラーナー)らの協力を得て、アバイを睡眠薬で眠らせ誘拐して、結婚の儀式を途中までし、帰す。アバイはバブリーを誘拐して幽閉し、パップーをさらって来て彼と結婚させようとするが、パップーが卑しい男であることが分かり、彼を追い払う。バブリーも家に帰される。

 アバイは、父親フクムから虐待される母親(シーバー・チャッダー)を見て、バブリーとの結婚を怖れていた。だが、母親からも勇気をもらい、バブリーと結婚することを決める。しかし、そのときバブリーは、サントーシュと結婚することを決めてしまっていた。また、フクムはアバイを、ダッダンの妹と結婚させることを決める。

 こうして、同じ5月25日にアバイとバブリーの結婚が別々に行われることになった。しかし、アバイは自分の結婚式を抜け出してバブリーとサントーシュの結婚式に乱入し、バブリーを連れて行こうとする。そこへフクムが現れ、次にダッダンが現れて混乱するが、最終的にはアバイとバブリーが結婚することになる。

 ジャバリヤー・シャーディーを主題にした映画という観点では、ジャバリヤー・シャーディーを生業とするアバイを、バブリーが誘拐させて、彼とジャバリヤー・シャーディーしようとするという奇想天外な前半部分が非常に興味深かった。しかし、強制された結婚では長続きしないという、ごく当然の結論に至ってからは、常識的な流れになり、陳腐化してしまう。

 インドのロマンス映画において、主人公が結婚をやたら怖れているという設定はよくあるものだ。プレイボーイまたはプレイガールの主人公が、結婚をすると遊べなくなるから結婚をしないという理由が一番多い。「Jabariya Jodi」では、当初はなぜアバイがバブリーと結婚したがらないのかよく分からないが、伏線は冒頭部分の幼年時代シーンにあった。アバイは、父親が外の愛人を作って浮気を繰り返し、母親を全く顧みていないことに心を痛めており、自分にも父親と同じ血が流れていることを怖れていた。アバイは幼年時代からバブリーのことを愛していたが、愛しているが故に、父親が母親に対して行っている仕打ちを繰り返さないか不安だったのである。だが、自分には父親だけでなく、母親の血も流れていること、そして母親から後押しを得たことで、バブリーと結婚する勇気を奮い起こし、彼女の結婚式に乱入したのであった。

 父親のフクムが決めたアバイの結婚相手については、ダッダンの妹というだけで、名前も出て来なければ顔も出て来ない。よって、アバイが結婚式場を抜け出したことで彼女がどういう心情を抱いたのは、ほとんど想像できない。だが、バブリーとの結婚が決まったサントーシュについては、物語のほぼ全編に渡って登場しており、バブリーを献身的に支える姿が描かれているため、観客の同情が集まりやすい。しかしながら、物語を複雑にしないための工夫もしくは逃げであろう、サントーシュはバブリーのよき理解者であり、彼女が本当はアバイと結婚したがっていることを見抜いていたという設定だった。だから、アバイが式場に現れたとき、自分からバブリーをアバイに譲ろうとしたのだった。

 「Jabariya Jodi」では、意図的であろうが、冒頭に挙げた3つの結婚の形態が全て提示されている。劇中の台詞を借りるならば、ひとつめは「勇気ある者のアレンジドマリッジ」、ふたつめは「幸運な者のラヴ・マリッジ」、そしてみっつめは「貪欲な者のジャバリヤー・シャーディー(略奪結婚)」である。さらに、ロマンス映画の常套として、この中で最上のものは恋愛結婚とされており、主人公アバイとバブリーの結婚を成就させることで、ハッピーエンドとして締めくくっていた。

 持参金問題にも触れられていた。そもそもジャバリヤー・シャーディーが横行するようになったのは、多額の持参金があるからである。しかも、インドの法律では持参金の要求や受け渡しは禁止されている。ジャバリヤー・シャーディーも違法であるが、その原因となる持参金も違法であり、結局強制的に結婚させられた新郎側の家族も、被害届を出しにくい状況がある。突き詰めて行けば、「Jabariya Jodi」は持参金問題を扱った映画と言えるだろう。

 主演のスィッダールト・マロートラーとパリニーティ・チョープラーは、まだ駆け出しの頃に「Hasee Toh Phasee」(2014年)で共演しており、今回が共演2作目となる。腕っ節は強いが甘いマスクをしたスィッダールトに、可愛い顔をして言葉と表情が攻撃的なパリニーティのコンビはとても相性が良く、映画を安定させていた。コメディアン俳優のジャーヴェード・ジャーファリーを厳格な父親役にキャスティングしたのは変化球だが、サンジャイ・ミシュラーやアパールシャクティ・クラーナーをはじめ、脇を固める俳優たちも適材適所で好演していた。

 「Jabariya Jodi」は、ビハール州で横行するジャバリヤー・シャーディーを主題にしたロマンス映画である。主演のスィッダールト・マロートラーとパリニーティ・チョープラーの相性が良く、特に前半の流れが非常に面白い。後半はハッピーエンドに向かってロマンス映画の王道に収束して行くため、残念な気もしたが、全体的にはバランスの取れた娯楽作になっていた。