
1986年8月8日公開の「Karma(業)」は、3人の死刑囚が対テロリストの先兵となって活躍するオールスターキャストの愛国主義的マサーラー映画である。1986年最大のヒット作になった。
監督は「Karz」(1980年)や「Hero」(1983年)などを当て売れっ子になっていたスバーシュ・ガイー。音楽はラクシュミーカーント=ピャーレーラール、作詞はアーナンド・バクシー。
メインキャストは、ディリープ・クマール、ヌータン、ジャッキー・シュロフ、アニル・カプール、ナスィールッディーン・シャー、シュリーデーヴィー、プーナム・ディッローン。
他に、アヌパム・ケール、ダーラー・スィン、キショーリー・シャハーネー、シャクティ・カプール、トム・アルター、マニク・イーラーニー、ビンドゥー、シャラト・サクセーナー、シャンミー、サティーシュ・カウル、ビーナー、カイカラー・サティヤナーラーヤナ、シャシ・プリー、ジュガル・ハンスラージ、ヴィノード・ナーグパールなどが出演している。また、スバーシュ・ガイー監督がお約束のカメオ出演をしている。
中央刑務所のラーナー・ヴィシュワプラタープ・スィン所長(ディリープ・クマール)は囚人の更生に全力を尽くし、刑務官や囚人たちから慕われていた。あるとき、国際的なテロ組織ブラックスターの親玉ドクター・ミッシェル・ダン(アヌパム・ケール)が逮捕され、中央刑務所に収監される。ダンの腹心ジョリー(シャクティ・カプール)はラーナーの留守中に部下と共に中央刑務所を襲撃し、ダンを救出し、囚人や刑務官を皆殺しにする。また、ラーナーの家族も襲われ、彼の3人の息子の内、長男スニール(サティーシュ・カウル)と次男アニル(シャシ・プリー)を失う。妻のルクマニー(ヌータン)はショックの余り言葉がしゃべれなくなってしまう。
ラーナーは辞表を提出するが、友人で内相のトリパーティー(ヴィノード・ナーグパール)はそれを却下し、代わりに彼に、死刑囚を訓練して対テロ部隊を創設する彼の提案にゴーサインを出す。ラーナーは3人の死刑囚を選ぶ。バイジュー・タークル(ジャッキー・シュロフ)、カイルッディーン・キシュティー、通称カイルー(ナスィールッディーン・シャー)、そしてジャーネーシュワル・プラサード、通称ジョニー(アニル・カプール)であった。
ラーナーはルクマニーと三男(ジュガル・ハンスラージ)を家に残し、3人の死刑囚を連れて国境地帯へ行く。そして、旧友ダルマー(ダーラー・スィン)の家に「ダーダー・タークル」という偽名を使って滞在する。バイジュー、カイルー、ジョニーは森林局員で、彼らの訓練のために滞在していることにした。早速、当地に広大な森林を所有する地元有力者キッタム・キットゥー(カイカラー・サティヤナーラーヤナ)が挨拶に来る。
バイジューはキットゥーの姪ラーダー(シュリーデーヴィー)と恋に落ち、ジョニーは地元の女性トゥルスィー(プーナム・ディッローン)と恋に落ちる。カイルーは二人の恋愛を応援するが、ラーナーは色恋にうつつを抜かしている二人が許せず、彼らを叱りつける。バイジューとジョニーは気落ちして酒場で深酒し寝込んでしまう。
一方、ダンはラーナーの行方を追っていた。ジョリーから、ダーダー・タークルがラーナーであることを知った彼は、ジョリーを送ってまずバイジュー、ジョニー、カイルーを殺そうとする。だが、ラーナーが助けに入り、ジョリーたちを撃退する。三人は助かったが、ラーナーは負傷し入院する。
ダンは入院中のラーナーを拘束し、彼を見舞いにやって来たルクマニーと三男、そしてラーダーを捕まえる。バイジュー、ジョニー、カイルーは、キットゥーがダンと密通していることを知り、彼を脅してダンの秘密基地の場所を聞き出す。三人はテロ組織の一員に扮装して基地に潜入するが、人質がいるために暴れ回ることができず、捕まってしまう。回復したラーナーも基地に突入し、テロリストと戦う。脱出に成功したバイジュー、ジョニー、カイルーは、テロ組織の爆薬庫を爆破するが、このときカイルーは死んでしまう。バイジューとジョニーは人質になっていたルクマニー、三男、ラーダーを救い出す。そして飛行機に乗って逃げ出そうとするダンをラーナーは撃ち殺す。
バイジューとジョニーはテロ組織壊滅の手柄を表彰され、恩赦される。二人はラーナーの家で彼の新しい息子として住むことを選び、ラーナーは二人をそれぞれラーダー、トゥルスィーと結婚させる。
スバーシュ・ガイー監督は「マスター・ストーリーテラー」の異名を持つ物語の名手であり、数々の名作を送り出してきた。この「Karma」も興行的に成功しているのだが、オールスターキャストの悪い面が出てしまっているように感じた。
本作には、1950年代から60年代を代表する大スター、ディリープ・クマールをはじめ、1980年代前半にスターにのし上がったジャッキー・シュロフとアニル・カプール、そしてパラレル映画の旗手ナスィールッディーン・シャー、女優ではやはり大スターのシュリーデーヴィーやプーナム・ディッローンなどが起用されており、それぞれに熱狂的なファン層が付いているスターたちばかりで、失敗する方がおかしい顔ぶれだ。だが、これだけオールスターキャストにしてしまうと、どうしても各スターに一定の活躍の場を割り振らなければならなくなる。そうすると、ストーリー上の要請よりもスターの事情の方が優先され、軸のぶれたストーリーになってしまいがちだ。そして「Karma」は見事にその罠にはまっていた。端的にいえば、「Karma」は決してガイー監督の最高傑作には数えられないだろう。
それでも、悪役ダンに、手塩に掛けて更生させてきた囚人たちや仲間の刑務官たち、それに家族のほとんどを皆殺しにされたラーナー刑務所長が、個人的な報復のため、そして何より国家の安全のため、死刑囚を兵士に育て上げ対テロ作戦の先兵にするという導入部はエキサイティングだ。もっとアクション寄りに味付けしても良かったと思うが、中盤になると、バイジューとラーダー、ジョニーとトゥルスィーのロマンスに必要以上に時間が割かれ、中だるみする。そして、クライマックスはテロ組織の基地に潜入し、人質の救出やテロ組織の壊滅に向けて作戦が実行されるが、ゴチャゴチャしすぎていて何が起こっているのかよく分からなかった。とても雑なまとめ方だった。
このテロ組織が一体何をモチーフにしているのかを考察するのは面白い。インドの国境のすぐ向こう側にテロ組織の基地があるということで、容易に想像されるのはパーキスターンのテロ組織だ。だが、そのボスの名前は「ドクター・ミッシェル・ダン」ということで、中国人っぽい。さらに、組織の名前は「ブラックスター」ということで、何となく1984年にアムリトサルの黄金寺院に立て籠もったカーリスターン運動の反乱分子たちに対してインド軍が実施した軍事作戦「ブルースター作戦」を思わせる。おそらく国内外の脅威となる組織の特徴を合計してその数で割ったようなものをイメージしているのだろう。
「ダーダー・タークル」を名乗っていたラーナーの正体がばれるきっかけになったのは、彼がカイルーとの会話の中で本名を名乗った発言が、ソニーのポータブルカセットレコーダーによって録音され、それがダンに届けられたことによる。ソニーのポータブルカセットレコーダーは1968年に発売されており、映画撮影時には存在したが、インドではまだ珍しかったのではないかと思う。また、「Jai Santoshi Maa」(1975年)によってインド中に普及したサントーシー女神についての言及があった。
「Karma」は、まずは旧世代と新世代のスターたちが一堂に会する豪華なキャストが目を引く作品である。そして、死刑囚が対テロの先兵になるという導入部も興味を引くものだ。だが、オールスターキャストであるがゆえにストーリー中心の映画にすることができず、余分なシーンも多くて、非常に散漫な作品になってしまっていたように感じる。興行的には大成功したが、内容はそれに必ずしも見合うものではないというのが正直な感想だ。
