The Last Salute: A Love Letter to MiG-21

3.5
The Last Salute
「The Last Salute: A Love Letter to MiG-21」

 2026年8月26日からNetflixで配信開始されたドキュメンタリー映画「The Last Salute: A Love Letter to MiG-21」は、60年以上の長きにわたってインド空軍で使用されてきたソ連製超音速戦闘機MiG-21へのあふれんばかりの愛情を記録した80分ほどの作品だ。ひとつの兵器をこれほどエモーショナルに描き出した映像作品は稀である。また、インドは空港の撮影が禁止されているくらい軍事情報に敏感である。軍の内部や保有兵器の詳細がこれほど鮮明に映し出される機会もそうないのではないかと思われる。

 1963年にインド空軍に初導入されたMiG-21は、1965年の第二次印パ戦争、1971年の第三次印パ戦争、1999年のカールギル紛争、2019年のバーラーコート空襲、2025年のスィンドゥール作戦などで使用され、2025年9月25日に運用が停止された。「The Last Salute」では、ラストにその引退式典の実際の映像が映し出される。そして、その情緒を盛り上げるために、これまでMiG-21を飛ばしたことのあるパイロットたちがMiG-21についてしんみりと語るという構成になっている。

 監督はクシャル・シュリーヴァースタヴァ。元インド空軍の軍人である。カールギル紛争時のインド空軍の作戦を描いたウェブドラマ「Operation Safed Sagar: The Untold Story of the Kargil War」(2026年/邦題:サフェッド・サーガル作戦:限界高度の空軍ミッション)のクリエーターであり、これを製作する過程でMiG-21の引退に関心を持って、このドキュメンタリー映画を作ったという。特にMiG-21関連の映像や画像については、「The Last Salute」と「Operation Safed Sagar」で共通の素材が使われている可能性がある。また、ナレーションは俳優のシャラド・ケールカルである。

 「The Last Salute」では、簡単にMiG-21の歴史についても触れられているが、それよりも重視されているのは、MiG-21がインド空軍にとってどれほど大切な存在だったかという点である。

 インド空軍初の超音速戦闘機として導入されたMiG-21は、長らくインド空軍のパイロットにとって登竜門のような存在であったらしい。MiG-21の操縦は難しく、少しの失敗が何倍にもなって飛行に影響する。よって、かなりパイロットを選ぶ機体であるし、その試練をパスできた者は、相当に有能なパイロットである証拠となる。

 MiG-21は冷戦時代の戦闘機であるため、その計器は全てアナログである。コクピットに座ると無数の計器に囲まれることになる。そして、操縦中には一瞬で計器を読み取って機体の状況を把握し、身体でスイッチの位置を覚えることを要求される。

 また、寒冷地で設計された戦闘機であるため、インドのような暑い国でのフライトは想定されていない。よって、酷暑期にコクピットに入るとかなりの暑さになるという。どうやらエンジン停止時には冷房が作動しないようだ。離陸待機状態のときは、汗びっしょりになりながら離陸命令を待つという。

 それでも、MiG-21の操縦には独特の中毒性があるようで、一度でも飛行経験のあるパイロットは虜になってしまうようだ。センサーなどの便利機能が満載された現代のハイテク戦闘機にない人馬一体感があるという。MT車とAT車の違いのようなものであろうか。

 離陸のときの「キック」感についても言及されていた。肌感覚では、民間飛行機の離陸時に感じるあの重力加速度(G)の何万倍もの圧力をMiG-21離陸時に感じるという。MiG-21の「音」もパイロットを陶酔させるという。

 ただ、インド空軍も1970年代から最新鋭の戦闘機の導入を進めており、現代のインド空軍の若いパイロットたちの中には、MiG-21を操縦したことがない者も増えているような感じだった。それでもMiG-21のカリスマ性は残っており、MiG-21のパイロットはそれを誇りに感じているようである。作品の中には女性パイロットも登場してMiG-21愛を語っており、かっこよかった。筋肉にはどうしても男女差があるが、戦闘機の操縦に男女差はないという発言もあった。

 MiG-21というと、「Rang De Basanti」(2006年)の影響から、「空飛ぶ棺桶」「寡婦メーカー」のイメージも強い。MiG-21には欠陥が多く、事故で多くのパイロットの命を奪ってきたというのがマスコミの論調である。ただ、「The Last Salute」の中ではパイロットたちからそういう批判に対して反論がなされていた。そもそもインド空軍が保有する戦闘機の大半をMiG-21が占めていた時代が長かったわけで、母数に比して事故の回数も増える。もし本当に欠陥戦闘機ならば、インド空軍が60年以上も現役で使用しない。MiG-21につきまとっている負のイメージはマスコミが作り上げたデマであるというのがこの作品の主張だった。

 「The Last Salute」を観ていると、パイロットたちのMiG-21愛が強すぎてそのエモーションが伝染し、MiG-21の最後のフライトを見ていると全くの部外者ながら込み上げてくるものがあった。ひとつの時代の終わりを象徴する映像作品であり、この方面に関心のある人には特におすすめできる。