Mukhbir: The Story of A Spy – The Movie

3.0
Mukhbir: The Story of A Spy - The Movie
「Mukhbir: The Story of A Spy – The Movie」

 2026年7月10日からZee5で配信開始された「Mukhbir: The Story of A Spy – The Movie」は、2022年11月11日から同じくZee5で配信開始された全8話のネットドラマ「Mukhbir: The Story of A Spy」の映画版である。全くの新作ではなく、ネットドラマを編集し直して2時間30分の映画にしただけだ。劇場一般公開はされていない。「Mukhbir」とは「スパイ」という意味で、パーキスターンに潜入したスパイを主人公にしたスパイ映画である。似たような筋書きの「Dhurandhar」(2025年/邦題:ドゥランダル作戦)と「Dhurandhar: The Revenge」(2026年)が大ヒットし、その関連で言及されることもあったので、映画版作成の企画が持ち上がったのではないかと推測される。

 監督は「Naam Shabana」(2017年)や「The Diplomat」(2025年)のシヴァム・ナーイル。音楽はアビシェーク・ナイルワール。

 主演は「Shikara」(2020年)や「Aankhon Ki Gustaakhiyan」(2025年)などに出演のザイン・カーン・ドゥッラーニー。

 他に、プラカーシュ・ラージ、アーディル・フサイン、ザイン・カーン・ドゥッラーニー、ハルシュ・チャーヤー、サティヤディープ・ミシュラー、バルカー・ビシュト、ディリープ・シャンカル、ゾーヤー・アフローズ、アトゥル・クマール、カラン・オベロイ、スシール・パーンデー、スニール・シャーンバーグ、スシール・ダーヒヤー、カラン・メヘター、ヴィジャイ・カシヤプ、アヴァンティカー・アケールカル、ジャヤー・スワーミーナータン、ビマル・オベロイなど。

 1965年の第二次印パ戦争前夜。諜報局(IB)のSKSムールティ(プラカーシュ・ラージ)は、パーキスターン国内の諜報活動を強化するため、軍人ではなく一般人をスパイとして潜り込ませる計画を立てていた。白羽の矢を立てたのが、カシュミール人のカームラーン・バクシュ(ザイン・カーン・ドゥッラーニー)であった。人懐っこく、誰とでも親しくなれる彼の人柄をムールティは評価した。

 カームラーンは1ヶ月の訓練の後、「ハルファーン・ブカーリー」という偽名でパーキスターンに入国し、ラホールに住むブカーリー家に入り込む。ハルファーンは、先輩スパイのアーラムギール(サティヤディープ・ミシュラー)と合流し、諜報活動を開始する。彼に与えられた任務は、アーガー・カーン少将(ハルシュ・チャーヤー)に接近し、軍事作戦の情報を入手することだった。

 ハルファーンはまず、ハビーブッラー准将(アトゥル・クマール)に近い高級カーディーラー、イスラール・バームザーイー(ビマル・オベロイ)の下で働き出す。持ち前の人懐こさで彼はすぐにイスラールのお気に入りになり、インド領カシュミールとコネがあることを買われて、上司に内緒でインドに大麻を密輸し儲けているハビーブッラー准将に紹介される。ハルファーンはハビーブッラー准将の依頼を受け、密輸を行う。ただ、ハビーブッラー准将はメディアに汚職をすっぱ抜かれ、アーガー・カーン少将から更迭される。

 ハルファーンは、ブカーリー家のメンバーからジャミーラー・アハマド(ゾーヤー・アフローズ)とのお見合いを勧められる。ハルファーンは元々ジャミーラーと知己だったものの、アーガー・カーン少将に近づくという目的のため、彼と愛人関係にある歌手ベーガム・アナール(バルカー・ビシュト)に取り入ろうとする。一方、ISIのザイディー局長(ディリープ・シャンカル)はハルファーンを疑っていた。

 既に第二次印パ戦争が勃発しており、ハルファーンはムールティから諜報活動の強化を命じられる。ハルファーンはアーガー・カーン准将の邸宅に忍び込んでパーキスターン軍の配置図を入手する。だが、アナールに見つかり、彼女を殺すことになる。アーガー・カーン少将はアナールを殺した犯人捜しに躍起になるが、アーラムギールが捕まり、犠牲になる。

 更迭されていたハビーブッラー准将は戦争が始まったことでアーガー・カーン少将に呼び戻され、ムジャーヒディーンを連れてインド領に侵入する任務を与えられる。ハビーブッラー准将はハルファーンにその任務を与える。ハルファーンはムジャーヒディーンを連れてインド領に侵入するが、国境でわざと国境警備隊に見つかり、侵入を失敗させる。ハルファーンはインド軍に捕まり、自分はインド人スパイだと主張するが信じてもらえない。だが、彼は護送中に奇襲を受け脱出に成功する。

 ハルファーンはムールティと合流する。ムールティはパーキスターンの刺客に襲われ、ハルファーンを逃がす。ハルファーンは入手した情報をIBに届け、それが決定打となってインドは戦争を有利に進めることができた。

 第二次印パ戦争終結後、インディラー・ガーンディー首相(アヴァンティカー・アケールカル)はインドの諜報能力を高めるため、IBを分割して、対外諜報を専門とするRAWを立ち上げる。ラームキショール・ネーギー(アーディル・フサイン)とムールティがRAWを率いることになり、カームラーンも再びスパイとしてパーキスターンに潜入する。

 前述の通り、元々全8話のウェブドラマとして製作された長尺の作品を2時間30分に圧縮して映画の形にしているため、所々で話が飛ぶことがある。ウェブドラマ未見のまま映画版を鑑賞したので、物語の全貌は把握できなかった。

 「Dhurandhar」シリーズとの比較で映画版「Mukhbir」を分析していきたい。まず、「Mukhbir」は「Dhurandhar」と同列に語ることのできる硬派なスパイ映画だった。「Dhurandhar」のアーディティヤ・ダル監督が参考にした可能性もある。ただ、作り込みでは「Dhurandhar」の方が圧倒的に上だ。

 「Dhurandhar」シリーズでパーキスターンに送り込まれたエージェントは元々士官候補生だったこともあって、高い戦闘能力を備えていた。その一方で「Mukhbir」の主人公カームラーンは一般人である。コミュニケーション能力の高さを買われてスパイになったという異例の経歴だ。この点では「Raazi」(2018年)に似ている。第二次印パ戦争前夜であり、カームラーンは1ヶ月の短期訓練を受けた後にパーキスターンに送り込まれる。かなり無茶な設定であったが、それには目をつむろう。

 パーキスターン入国当初からカームラーンはパーキスターン当局ににらまれ、何度も連行されるが、持ち前の運の良さもあって、正体がばれることはなかった。そればかりか、常に脳天気なカームラーンは、敵国に潜入しているとは思えないほど伸び伸びと暮らしており、緊張感に欠けると思えるほどだった。カーディーラーのイスラールに取り入ったことでハビーブッラー准将とつながり、そこからついにアーガー・カーン少将までたどり着く過程や、それとは別ルートで、アーガー・カーン少将の愛人アナールからもアプローチを試みる下りは、スパイ映画として純粋に面白かった。

 「Mukhbir」はインドの対外諜報機関RAWの創立物語でもあった。アーディル・フサイン演じるネーギーとプラカーシュ・ラージ演じるムールティにはモデルがいる。RNカーオとKシャンカラン・ナーイルである。1962年の中印国境紛争と1965年の第二次印パ戦争を経て、インド政府は対外諜報機関の必要性を痛感していた。1968年、インディラー・ガーンディー首相は、英領時代に端を発する諜報局(IB)を分割して、新しく対外諜報機関RAWを設立する。そして、カーオを初代局長、ナーイルを初代副局長に任命する。

 主演ザイン・カーン・ドゥッラーニーは、2020年に自殺した男優スシャーント・スィン・ラージプートに少し似た男優だ。パターン系のカシュミール人だという。顔が整いすぎていて個性がないようにも感じるが、次世代スターに登り詰める潜在力はある人材だといえる。

 複数のヒロインが登場するが、メインヒロイン扱いなのはジャミーラー役のゾーヤー・アフローズであろう。彼女は「Hum Saath-Saath Hain」(1999年)で子役デビューし、成長してからは2013年のミス・インディア・インターナショナルにもなっている。その後、女優として本格デビューを果たすが、まだそこまで知られていない。立場的には、アナール役を演じたバルカー・ビシュトがセカンドヒロインであろうが、ハルファーンの任務上では彼女の方が重要だった。ただ、悪役の愛人という設定や、終盤で死んでしまう点から、どうしてもメインとは認められなかった。

 「Mukhbir: The Story of A Spy – The Movie」は、1965年の第二次印パ戦争を時代背景にし、パーキスターン潜入の使命を与えられた一般人上がりのスパイがインドを危機から救うという物語である。インドのスパイ映画によく登場する対外諜報機関RAWの設立も関わってくる。元々はウェブドラマだった。映画版は圧縮されていて話が飛ぶため、オリジナルのウェブドラマ版を観た方が良さそうだ。