
2026年5月15日公開のタミル語映画「Karuppu」は、司法システムの汚職を土着の土地神カルッパサーミ(カルップ)が神的な力で解決する神様ファンタジー汚職撲滅映画である。インドならでは、タミル・ナードゥ州ならではの奇抜な組み合わせだ。
監督はRJバーラージー。その名の通りラジオジョッキーから身を立て、TV番組の司会などを経て映画界に進出した多才な人間だ。当初は俳優をしていたが、「Mookuthi Amman」(2020年)と「Veetla Vishesham」(2022年)で監督・主演をこなし、「Karuppu」は監督3作目になる。今回は主役はスーリヤーに譲り、自身は悪役に徹している。音楽監督はサーイー・アビヤンカル。
ヒロインはトリシャー・クリシュナン。他に、インドランス、アナガー・マーヤー・ラヴィ、ナッティー・スブラマニヤム、シヴァーダー、スワスィカー、スプリート・レッディー、マンスール・アリー・カーン、カラテ・カールティ、ジョージ・マリヤン、アードゥカラム・ナレーン、ナモー・ナーラーヤナ、ヴェーラ・ラーマムールティ、ディーパー・シャンカル、ロッルー・サバー・マーラン、ラーマチャンドラン・ドゥライラージ、ウンニマーヤー・プラサードなどが出演している。
チェンナイのセブンウェルス地方裁判所では、弁護士のベイビー・カンナン(RJバーラージー)が仲間の弁護士たちを従え暴利をむさぼっていた。
マッタンチェリー・スクマーラン(インドランス)はケーララ州から病気の娘ビーヌー(アナガー・マーヤー・ラヴィ)の肝臓移植のためにチェンナイに向かう途中で強盗に遭い、手術代の原資にしようとしていた金製品を奪われてしまう。セブンウェルス警察署に駆け込み被害届を出し、奇跡的に強盗が捕まる。奪われた金製品も見つかったものの、警察は裁判所の許可がないと返却できないと言う。マッタンチェリーはセブンウェルス地方裁判所に行き、カンナンに裁判を依頼する。カンナンはマッタンチェリーを金づるだと見なし、影響力を使ってなるべく裁判を引き延ばして利益を享受する。
絶望したマッタンチェリーは、セブンウェルス地方裁判所の敷地内にあるカルッパサーミ神の寺院で礼拝する。すると、カルッパサーミの化身サラヴァナン(スーリヤー)が現れ、カンナンを成敗しようとする。だが、カンナンもひるまず、もし正攻法かつ神の力を使わずに裁判で要望を通せたら罰を受け入れると挑戦する。そこでサラヴァナンは弁護士としてセブンウェルス地方裁判所に降り立ち、マッタンチェリーの案件を引き受ける。だが、裁判長のラージャナーヤガム(ナッティー・スブラマニヤム)もグルであり、カンナンの狡猾な妨害によって裁判はなかなか進まなかった。女性弁護士プリーティ(トリシャー・クリシュナン)の支援もあり、最終的には金製品の返却が実現するが、ちょうどそのときマッタンチェリーはベーヌーの訃報を聞く。もしカンナンの手口に乗って賄賂をばらまいていたらすぐに返却してもらえたかもしれなかった。
サラヴァナンは新たに、元法務大臣のVMパーンディヤーン(ヴェーラ・ラーマムールティ)に対して性暴力の訴えを起こしたカンマニ(シヴァーダー)の事件を引き受け、プリーティを法廷に立たせる。パーンディヤーンの弁護士はカンナンだった。サラヴァナンは神の力を使ってカンナンの嘘を封じ、証拠偽装を自白させた上にラージャナーヤガム裁判長の汚職もばらさせる。おかげでカンナンは停職処分になる。それのみならず、以降、セブンウェルス地方裁判所では真実のみが語られることになり、今まで正義を与えられていなかった人々が次々に勝訴する。また、27,000件の未決裁判を解消するため、管轄地域で犯罪が起きないようにも操作した。
悪知恵に長けたカンナンは、サラヴァナンの力がセブンウェルス地方裁判所周辺地域に留まることを発見する。守護神にはそれぞれテリトリーがあり、サラヴァナンは自分のテリトリーでしか力を発揮できなかった。そこでカンナンは裁判所をサラヴァナンの管轄地域外に移転させる作戦に出る。セブンウェルス地方裁判所の建物は元々老朽化が進んでいた。カンナンは仲間の弁護士たちを大量に建物の中に入れて建物に負担を掛け、崩壊させる。また、瓦礫の中からはラージャナーヤガム裁判長の遺体が発見された。これはカンナンが予め殺し置いておいた遺体だったが、世間では大きなニュースになる。タミル・ナードゥ州政府はセブンウェルス地方裁判所を、シュリーペルンブドゥールのITパークに移転させる決定をする。
セブンウェルス地方裁判所は見違えるような最先端の建物になった。早速カンマニとパーンディヤーンの裁判が行われた。新たにスンダラパーンディヤーン(アードゥカラム・ナレーン)が裁判長に就任する。復帰したカンナンはいつも通り裁判長を買収して判決を操作しようとするが、スンダラパーンディヤーンはカルッパサーミの祟りを恐れ、パーンディヤーンに有罪判決を下す。カンナンが見ると、裁判所の新たな敷地にもカルッパサーミの像が立てられていた。確かにサラヴァナンの管轄外であったが、人々の恐れは越境するのだった。
その日の夕方、裁判所の移転を祝う式典が開催されていた。そこへ武装したカンナンが仲間と共に押し入り、人々に危害を加える。それは、サラヴァナンの力が及ばないことを示すためだった。だが、ITパークの守護神である警察官ドゥライシンガム(スーリヤー)が現れ、人々を救う。さらに、カルッパサーミ神(スーリヤー)が出現し、カンナンの首をはねる。
前半と後半で全く方向性が異なる映画だった。2人の別人が分担して前半と後半を撮ったといわれたら信じてしまうだろう。おそらく映画に何を求めるかで評価が真っ二つに分かれそうだ。シリアスなドラマ重視の人なら前半を高く評価するだろうし、派手なアクション重視の人なら後半に「待ってました!」の喝采を送るだろう。タミル語映画の2つの顔をひとつにまとめたという表現も可能だ。
「Karuppu」の主人公は、南インドの特に南部で信仰される土着の土地神カルッパサーミの化身サラヴァナンだ。面白いことに土地神であるので固有のテリトリーがある。サラヴァナンの管轄はセブンウェルス地方裁判所の管轄と重なっていて、彼の神的な力が及ぶのもこの地域限定となる。しかも、どうやら土地神の化身の職業も地域によって異なるようである。サラヴァナンは、腐敗した司法システムの犠牲になって苦しむ貧しい人々の救済のために弁護士となって地上に降り立つ。
神の化身なので、その気になれば指を鳴らしただけで裁判を思い通りに操作できる。だが、悪役の悪徳弁護士カンナンは、言葉巧みにサラヴァナンの介入を制限する。曰く、司法を適正化し貧しい人々を救済したいのならば、神の力を使わずに、人間の作り上げた司法システムに従って改革や救済を行うべしというものだった。その挑戦を受けて立ったサラヴァナンは、神の化身でありながら神の力を使うことができず、人間として腐敗した司法システムに立ち向かうことになる。だから、派手な演出は極力抑えられている。スーリヤー主演のシリアスな法廷劇「Jai Bhim」(2021年)をイメージしていると思われる。実際にサラヴァナンが法廷に立つシーンでは「Jai Bhim」のテーマ曲が流れる。これが前半である。
この制約を後半で続けても良かったと思うのだが、おそらくタミル人観客はそれでは満足しないのだろう。ヒーローが圧倒的な力を最大限使って悪をくじく姿を見たがっているのだ。後半では一転してサラヴァナンは神の力を解放し、裁判所から汚職や不規律を一掃してしまう。おまけにカンナンの弁舌を封じ、真実を語らせて、彼を窮地に追い込む。カンナンも負けてはおらず、裁判所をサラヴァナンのテリトリー外に移転させるという仰天の作戦に打って出る。人間ながら大した悪役だ。
だが、カンナンはタミル・ナードゥ州のあらゆる土地にそれぞれの土地神がいることを忘れていた。裁判所の移転先には、カルッパサーミの化身は警察官ドゥライシンガムになっていた。これは、スーリヤーが大ヒット映画「Singam」(2010年)で演じた役柄であり、ヒンディー語映画「Singham」(2011年)の元ネタである。さらに、カルッパサーミ神自身も降臨し、大見得を切った後、自らカンナンの首をはねる。カルッパサーミ神のこの立ち回りからは、カンナダ語映画「Kantara」(2022年/邦題:カーンターラ 神の降臨)の強い影響を感じる。ここまで来ると、いつものタミル語大衆娯楽映画になっていた。
神様映画はインド映画を強力に特徴づけるジャンルのひとつだ。サントーシー女神の御利益を取り上げたヒンディー語の神様映画「Jai Santoshi Maa」(1975年)は、サントーシー女神信仰を生み出すほどの社会現象を起こしたことで知られる。「Karuppu」もインド映画の歴史の中で綿々と受け継がれてきた神様映画の末裔といえる。汚職撲滅は2011年の社会活動家アンナー・ハザーレーによる汚職撲滅運動以来、過去10年以上インドが取り組み続け、映画界も盛んに題材にし続けてきた悲願であるが、それを神様への恐怖心によって実現させようとする「Karuppu」は、非常に興味深い事象として捉えられる。「Karuppu」の最後でカルッパサーミ神は観客に向かって正しく生きるように戒める。まるで、仏教において信者を正しい道へ導くために描かれた地獄絵図のような映画だった。
スーリヤーは一人三役の大活躍だったが、「Karuppu」の弱点だと感じたのはトリシャー・クリシュナンの演じた女性弁護士プリーティだ。そもそも彼女が最初からマッタンチェリーやカンマニの弁護をすれば話が早かったのだが、彼女は基本的に傍観者であり続けた。誰かヒロインが必要だったのかもしれないが、「Karuppu」の完成度をさらに上げたいのだったらプリーティを削除してしまった方がよかった。
「Karuppu」は、神様の力を借りて腐敗した司法システムを大掃除しようという、何ともインド映画らしいプロットの映画である。前半と後半でガラリと雰囲気が変わるのも面白いが、おそらく一般的なタミル人観客は思いっきり娯楽に振った後半の方に興奮するのだろう。興行的にも成功しており、2026年公開のタミル語映画としては今のところトップになっている。弱点がないことはないが、「現代の神様映画」として観る価値のある作品だ。どうやら続編もありそうだ。
