
1958年9月12日公開の「Madhumati」は、ストーリーに輪廻転生が組み込まれたもっとも初期の例であり、また、勘違いなどではなく正真正銘の幽霊が登場するもっとも初期の幽霊映画でもある。「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)の元ネタともいえる。
監督は「Do Bigha Zamin」(1953年)や「Devdas」(1955年)などのビマル・ロイ。脚本はリトウィク・ガタク、編集はリシケーシュ・ムカルジー。両者とも後の大監督である。音楽はサリール・チャウダリー、作詞はシャイレーンドラ。
主演はディリープ・クマールとヴァイジャヤンティーマーラー。どちらも当時の大スターであり、二人ともこの映画の中で複数の役を演じる。他にジョニー・ウォーカー、プラーン、ジャヤント、ラーマーヤン・ティワーリー、タルン・ボースなどが出演している。
デーヴェーンドラ(ディリープ・クマール)は友人(タルン・ボース)と共に豪雨の中、山間の道を自動車で移動していたが、落石により通行止めになり、近くにあった屋敷で雨宿りをする。デーヴェーンドラはその屋敷に入った途端、懐かしさを感じる。そして、徐々に前世の記憶を思い出す。
前世でデーヴェーンドラはアーナンド(ディリープ・クマール)という名前で、この辺りを統治するウグラ・ナーラーヤン王(プラーン)の荘園管理者としてこの地に赴任した。アーナンドはマドゥマティー(ヴァイジャヤンティーマーラー)という地元の女性と出会い、恋に落ちる。マドゥマティーの父親パワン(ジャヤント)はかつての王であり、ウグラの家系に王位を簒奪され、落ちぶれていた。よって、パワンはウグラの下で働くアーナンドを娘の恋人として当初は認めようとしなかった。
ウグラはマドゥマティーの美しさを聞きつけ、アーナンドから彼女を奪おうとする。だが、最初の試みは失敗に終わった。最終的にパワンはアーナンドとマドゥマティーの結婚を認める。だが、ウグラは諦めきれず、パワンが外出する隙を狙い、わざとアーナンドを出張に行かせ、マドゥマティーを屋敷に呼び寄せる。マドゥマティーはウグラに手込めにされそうになるが逃げ出し、屋上から落ちて死ぬ。
その夜の後、アーナンドやパワンは帰ってきて、マドゥマティーを探す。使用人のチャランダース(ジョニー・ウォーカー)によると、マドゥマティーが最後に訪れたのはウグラの屋敷だった。アーナンドはマドゥマティーがウグラに殺されたと疑い、乗り込むが、部下のビール・スィン(ラーマーヤン・ティワーリー)などに捕まり、リンチを受ける。意識を失ったアーナンドは領地の外へ運び出され捨てられようとしていたが、チャランダースが救出し、彼を料理人の家にかくまう。アーナンドは回復するが、マドゥマティーを失った悲しみに沈んでいた。
あるときアーナンドは森林でマドゥマティーにそっくりの女性と出会う。だが、彼女はマドゥマティーではなく、彼女と瓜二つのマーダヴィー(ヴァイジャヤンティーマーラー)という女性だった。マーダヴィーはアーナンドの身の上話を聞き、彼に協力を申し出る。ちょうどマーダヴィーの兄が警察官であり、彼の協力も得られた。アーナンドは、マーダヴィーがマドゥマティーにそっくりであることを使い、ウグラを脅そうと計画を立てる。
準備ができると、アーナンドはウグラに会いに行き、彼の肖像画を描きたいと申し出る。ウグラはそれを受け入れ、彼を夕方に呼ぶ。アーナンドはわざとウグラを怖がらせるようなことを言い、マーダヴィーを彼の前に出す。驚いたウグラは、マドゥマティーがどのようにして死んだのかを自白する。ウグラは警察に逮捕される。だが、実はウグラの前に現れたのはマーダヴィーではなく、マドゥマティーの幽霊だった。マドゥマティーの幽霊を追ってアーナンドは屋敷の屋上へ行き、そこから落下して死ぬ。
話は現世に戻る。デーヴェーンドラは妻ラーダー(ヴァイジャヤンティーマーラー)の乗った列車が事故に遭ったと聞き、駅まで彼女を迎えに行く。幸い、ラーダーは無事だった。現れたラーダーはマドゥマティーにそっくりだった。
豪雨の日にたまたま立ち寄った屋敷で、主人公デーヴェーンドラはデジャヴの感覚に襲われる。かつてその屋敷に来たことがあるような気がしてならなかったのである。そして一枚の肖像画を見つけ、それが誰なのかを言い当てる。それは、かつてこの屋敷に住んでいたウグラ王であった。デーヴェーンドラは前世の記憶を思い出し、友人に語り出す・・・というのがこの映画の導入部である。
映画が始まった当初は幽霊屋敷モノのホラー映画のノリだが、すぐに前世の回想シーンになり、雰囲気はガラリと変わる。デーヴェーンドラは前世ではアーナンドであり、彼は荘園管理人としてこの地に赴任していた。アーナンドは地元の女性マドゥマティーと出会い、恋に落ちる。基本的にこの回想シーンはロマンス映画である。アーナンドとマドゥマティーが心を通い合わせていく過程が歌と踊りを交えてゆっくりと描写される。その踊りの中には部族的な踊りも含まれているが、もっとも印象的に使われているのは、異邦人に呼びかける「Aaja Re Pardesi」だ。マドゥマティーの歌うこの歌にアーナンドは惹かれ、彼女に行き着くのである。この歌はその後も何度もリフレインされ、叙情を増幅していく。
アーナンドとマドゥマティーの恋路を邪魔する存在となるのがウグラであった。ウグラはマドゥマティーに横恋慕し、彼女を奪い取ろうとする。無理にマドゥマティーを手込めにしようとしたために彼女は必死に逃げようとして屋上から落ちて死んでしまう。アーナンドも殺されそうになるが助け出され、ウグラに報復しようとする。その際、彼は工夫を凝らし、ウグラに犯行を自白させるため、マドゥマティーにそっくりなマーダヴィーをマドゥマティーの幽霊に仕立て上げてウグラの前に出す。その作戦は成功し、ウグラはマドゥマティーがどのように死んだのかを自白する。そして警察に逮捕される。だが、実はマーダヴィーは後から遅れてやってくる。マドゥマティーの幽霊を演じているマーダヴィーだと思っていた女性は、実はマドゥマティーの幽霊本人だったのである。アーナンドはマドゥマティーの幽霊を追いかけるが、彼女と同様に彼も屋上から落ちて死んでしまう。
面白いことに、現世でデーヴェンドラは、マドゥマティーそっくりなラーダーと結婚していた。アーナンドとマドゥマティーは死んだ後に転生し、結ばれたのである。前世のシーンだけを見たら悲恋であるが、現世がセットになることでハッピーエンドを演出することに成功している。
インド初のホラー映画というと「Mahal」(1949年)が挙げられることが多い。よって、「Madhumati」は決してインド初のホラー映画ではない。しかも、ロマンスやコメディーの要素も多分に含まれており、典型的なマサーラー映画の作りになっている。それでも、「Mahal」には実際には幽霊が登場しないため、幽霊の登場するもっとも初期の映画として「Madhumati」を挙げることは可能である。さらに、輪廻転生のコンセプトが導入された映画という点でももっとも初期の例だ。ただ、本来ならば幽霊の死生観と輪廻転生の死生観は相容れないものであるのだが、それが一本の映画に詰め込まれているというのはインド映画ならではかもしれない。
ディリープ・クマールは安定した演技を見せていた。ヴァイジャヤンティーマーラーは躍動感ある踊りを披露しながら、一人三役をこなしていた。マドゥマティー、マーダヴィー、そしてラーダーを演じ分けていたわけではなかったが、その必要性はなかったといえる。プラーンの悪役ぶりやジョニー・ウォーカーのコメディアンぶりも称賛に値する。
「Madhumati」は、もっとも初期の輪廻転生映画として、また幽霊映画として、インド映画史に名を残すに値するコンセプトの映画であると同時に、当時の大スターであるディリープ・クマールとヴァイジャヤンティーマーラーを主演に据え、興行的に大成功となった映画でもある。アーナンドとマドゥマティーの悲恋を、輪廻転生を使ってハッピーエンドとして塗り替えてしまう手法は見事だ。必見の映画である。
