Call My Agent: Bollywood

2.5
Call My Agent: Bollywood
「Call My Agent: Bollywood」

 2021年10月29日からNetflixで配信開始されたウェブドラマ「Call My Agent: Bollywood」は、ヒンディー語映画界で俳優などの「エージェント」を務める会社を舞台にした作品である。「エージェント」は、日本の芸能界に当てはめれば「マネージャー」にあたるだろう。全6話の物語である。フランスのTVドラマ「Call My Agent!」(2015-20年)の翻案である。

 監督は「Bunty Aur Babli」(2005年)などのシャード・アリー。脚本はフサイン・ダラールとアッバース・ダラール。

 メインキャストは、ラジャト・カプール、ソーニー・ラーズダーン、アーハーナー・クムラー、アーユーシュ・メヘラー、ラーディカー・セートである。脇役として、ティーヌー・アーナンド、スチトラー・ピッライ、アヌシュカー・サーニー、プリヤーシャー・バールドワージ、ローハン・ジョーシー、メレンラ・イムソン、ラーガヴ・レーキー、アバーン・デーオハンスなどが出演している。

 このウェブドラマがすごいのは、名のある俳優や監督たちがゲスト出演していることである。ディーヤー・ミルザー、リレット・ドゥベー、イーラー・アルン、ティグマーンシュ・ドゥーリヤー、サーリカー、アクシャラー・ハーサン、ファラー・カーン、ラーラー・ダッター、アリー・ファザル、リチャー・チャッダー、ジャッキー・シュロフ、ナンディター・ダースなどである。

 物語の舞台になるのは、ムンバイーを拠点とし、ヒンディー語映画界の俳優や監督のマネージメントを扱うタレント・エージェント会社ARTである。このARTの社長はソウミヤジート・ダースグプター(ティーヌー・アーナンド)で、彼の下で、テレサ(ソーニー・ラーズダーン)、モンティー(ラジャト・カプール)、アマール(アーハーナー・クムラー)、メヘルシャード(アーユーシュ・メヘラー)が働いていた。また、各エージェントにはアシスタントも付いていた。

 物語は、ゴア出身の若い女性ニア(ラーディカー・セート)がARTを訪れるところから始まる。後で分かることだが、彼女はモンティーの隠し子だった。モンティーの妻スチトラー(スチトラー・ピッライ)も彼の息子スィド(ラーガヴ・レーキー)もニアの存在を知らなかった。モンティーはニアを追い払おうとするが、アマールのアシスタントが急に退職してしまい、代わりとしてニアが採用される。こんな始まり方をするのでニアが主人公のように見えるのだが、ウェブドラマ特有の作りをしていて、メインキャラクターそれぞれに均等にフォーカスが当てられるようになっている。

 ニアの登場と同時にARTに起こった大事件が、ソウミヤジートの急死であった。バカンス先のイタリアで精強剤を飲んで心臓発作を起こしてしまう。遺言がなかったため、ARTの所有権は彼の妻ストゥティ(アバーン・デーオハンス)に移るが、彼女はARTのシェアを誰かに売却しようとする。モンティーは妻の父から資金援助を受け、それを買い取って支配権を確立しようとするが、モンティーの占有を面白く思わないアマールは反対する。さらに、ニアの存在がスチトラーにばれ、資金援助の話が空中に浮いてしまう。

 また、ARTには監査官がやって来る。それがジャスリーン(アヌシュカー・サーニー)であった。レズビアンのアマールはセクシーなジャスリーンに欲情し、彼女にアプローチを開始する。ジャスリーンも満更ではなく、二人は恋仲になる。ただ、アマールは美女を見るとなりふり構わず欲情する直情的な女性であり、最終的にはジャスリーンに浮気現場を目撃され、振られてしまう。ジャスリーンは監査官として、ARTの会社資金が社員によって好き勝手に流用されている事実を報告し、改善を要求する。

 こんなARTの内情が数々のドラマを巻き起こすのと平行して、エピソードごとに本人役でゲスト出演する俳優や監督たちとのやり取りが描き出される。たとえば、ディーヤー・ミルザーは、40歳を越えた女優が感じる見えない壁を体現し、リレット・ドゥベーとイーラー・アルン、もしくはサーリカーとアクシャラー・ハーサンは業界内の複雑な人間関係を象徴していた。ナンディター・ダースとジャッキー・シュロフは芸術映画と娯楽映画という2つの世界の微妙な関係を表現していたといっていい。この辺りは、原作となっているフランスのTVドラマをそっくりそのまま移植しただけかもしれないが、ヒンディー語映画界で実際に起こった出来事をディフォルメ化しているのかもしれない。ヒンディー語映画ファンとしては興味深いところだ。

 男性脚本家が書き、男性監督が撮った作品ではあるが、観客のターゲットは完全に女性である。登場人物の感情の動きや人間関係の変化に主眼が置かれており、特に女性キャラの心情描写に力が込められている。心情描写といってもその大部分は怒り、悲しみ、嫉妬といったもので、心が安定する瞬間が少ない。そして、周囲の男性キャラが気持ち悪いくらい優しい。とはいってもロマンスが主体のドラマでもない。レズビアンのカップルがくっ付き、離れるし、パールスィーの男性メヘルシャードとノースイーストの女性ナンシーとの恋愛も描かれるが、これらはサイドストーリーに近い。

 シーズン1の最終話となる第6話の最後では、まだまだ問題が山積なのになぜか楽しげに幕を閉じる。もちろん、原作のTVドラマがまだ続くためにこういう終わり方をしてるのだろうが、シーズン2の製作は発表されておらず、このまま終わってしまう可能性もある。そうすると、非常に中途半端な終わり方である。

 「Call My Agent: Bollywood」は、タレント・エージェントを取り上げた仏TVドラマをヒンディー語映画界に置き換えて翻案した作品である。ヒンディー語映画界の内情が分かる、といいたいところだが、原作からの移植が多いようにも見え、果たしてこれを業界の実態としてそのまま捉えていいのか疑問が残る。ゲスト出演する俳優や監督が豪華であり、ヒンディー語映画ファンはワクワクするだろうが、完全に女性向けのドラマであり、男性目線で見ると白ける場面が多い。このままシーズン1限りで終わってしまいそうな点は、このドラマの失敗を意味しているのだろう。