Housefull 5

2.5
「Housefull 5」

 「Housefull」シリーズは、ヒンディー語映画界でもっとも成功したコメディー映画シリーズである。2025年6月6日に公開された「Housefull 5」でもって5作目となった。監督は交代しているが、サージド・ナーディヤードワーラーが一貫してプロデューサーを務めている。大人数型のドタバタコメディーに特徴があり、自然とオールスターキャストになる。

 「Housefull 5」の監督は「Dostana」(2008年)などのタルン・マンスカーニー。キャストは、アクシャイ・クマール、アビシェーク・バッチャン、リテーシュ・デーシュムク、サンジャイ・ダット、ジャッキー・シュロフ、ナーナー・パーテーカル、ジャクリーン・フェルナンデス、ソーナム・バージワー、ナルギス・ファクリー、チトラーンガダー・スィン、シュレーヤス・タールパデー、ディノ・モレア、ファルディーン・カーン、チャンキー・パーンデーイ、ジョニー・リーヴァル、ランジート、ソウンダリヤー・シャルマー、ニキティン・ディール、ボビー・デーオールなどである。また、アルチャナー・プーラン・スィンとミトゥン・チャクラボルティーが写真でのみ登場している。

 この映画は、「A」と「B」という結末の異なる2つのバージョンが公開されている。あまり過去に例のない試みである。「Rehnaa Hai Terre Dil Mein」(2001年)で、エンドロールに流れる曲が異なる複数のバージョンがあったのを覚えているが、結末が複数用意されていたわけではなかった。

 大富豪ランジート・ドーブリヤール(ランジート)の100歳の誕生日が豪華クルーズ船で行われた。船には、ランジートの息子デーヴ(ファルディーン・カーン)、養子シラーズ(シュレーヤス・タールパデー)、護衛バトゥク・パテール(ジョニー・リーヴァル)、CFOマーヤー(チトラーンガダー・スィン)、COOベーディー(ディノ・モレア)、船長サミール(ニキティン・ディール)などが乗っていた。

 パーティー開始前にランジートは息を引き取る。弁護士のルーシー(ソウンダリヤー・シャルマー)はランジートの遺書を公表する。そこでは、ランジートの690億ポンドの資産は、彼の最初の妻の息子ジョリーに相続されるとされていた。デーヴは2番目の妻の子であった。間もなくジョリーが船に到着することになっていた。

 デーヴ、シラーズ、マーヤー、ベーディーたちはジョリーの到着を待つ。だが、困ったことに3人も「ジョリー」がやって来る。まずやって来たのはジャラーブッディーン(リテーシュ・デーシュムク)であった。彼はザーラー・アクタル(ソーナム・バージワー)という妻を連れていた。次に現れたのはジャルブーシャン(アビシェーク・バッチャン)で、シャシカラー(ジャクリーン・フェルナンデス)という妻を連れていた。最後に登場したのはジュリウス(アクシャイ・クマール)で、カーンチー(ナルギス・ファクリー)という妻を連れていた。

 デーヴは医者アマン・ジョーシーに、ジャラーブッディーン、ジャルブーシャン、ジュリウスのDNAテストをさせる。その結果が出るはずだった翌朝、アマンは遺体で発見される。デーヴは3人の「ジョリー」とその妻たちを逮捕する。実は、3人の「ジョリー」は皆偽物であった。彼らは牢屋から脱出し、協力して証拠隠滅を図る。その過程で彼らはベーディーが真犯人ではないかと考える。だが、ベーディーは既に何者かに殺されており、英国から到着した暴れん坊警官ビッルー警部補(サンジャイ・ダット)とバーバー警部補(ジャッキー・シュロフ)はジャラーブッディーン、ジャルブーシャン、ジュリウスをベーディー殺しの犯人だと断定する。

 ビッルー警部補とバーバー警部補は事件の捜査に乗り出すが、その中で船長サミールの遺体が発見され、彼らのボス、ダグルー・フルグンド警視(ナーナー・パーテーカル)が現れ、彼らを逮捕する。そして、乗客の前で犯人が分かったと宣言する。ジュリウスは、誰でもいいからダグルー警視を殺すように扇動する。

 その夜、ダグルーの寝室に忍び込む影があった。待ち構えていたダグルーとジュリウスが刺客を捕らえる。また、刺客には仲間もいた。ジュリウスたちは力を合わせて殺人犯たちに立ち向かう。そこへ、本物のジョリー、ジャラール(ボビー・デーオール)がやって来る。彼は父親以上の大富豪であり、相続を放棄して、その場にいた人々にランジートの遺産690億ポンドを分け与える。

 基本的にはコメディー映画ではあるが、クルーズ船上での殺人事件が物語の軸になっており、サスペンス要素もあった。結局、殺人犯は2人いたが、その内の1人が2つのバージョンで異なるという仕掛けになっていた。だが、逆にいえばその程度の違いだ。

 「Housefull」シリーズには、アクシャイ・クマールやリテーシュ・デーシュムクなど、常に起用されている俳優たちがいるものの、ストーリー上のつながりはほとんどない。たとえばアクシャイが演じる役柄も、シリーズごとに変わっている。唯一、チャンキー・パーンデーイの演じるアーキリー・パスタだけは全作一貫して登場しており、「Housefull」シリーズの縦糸になっている。

 「Housefull」の名の通り、映画が進行するにつれてどんどんキャラクターが増殖していき、まるでスクリーンがキャラクターで埋め尽くされるような感覚に陥る。このような映画に起用される俳優はえてしてB級スターばかりであるが、「Housefull」シリーズについてはそれは当てはまらず、名のあるスター俳優が出演している。ただ、少し旬は過ぎている感じはする。もっともスターパワーがあるのはアクシャイ・クマールだが、他にもアビシェーク・バッチャン、リテーシュ・デーシュムク、サンジャイ・ダットといった豪華な名前が並んでいる。女優陣は若干格が落ちる。ジャクリーン・フェルナンデスがもっとも格上だといえるが、それでもトップ級ではない。ナルギス・ファクリーやチトラーンガダー・スィンは「一世を風靡した」という形容詞がピッタリの女優たちだ。

 バラエティーに富んだ笑いを提供していたコメディー映画であった。動作による笑いからセリフ回しによる笑いまで各種取り揃えられており、いくつか下ネタも用意されていた。ただし、CGのオウムを惨殺するようなシーンもあったが、これは動物虐待だと批判を浴びている。とはいえ、全体的に笑いのレベルは高かった。

 そういえば、「グッチ」という名前のオウムは、どうもジュリウスに恨みがあるようだった。彼の父親がジュリウスに殺されたという過去を持っており、その仇討ちを狙っていたのである。グッチがジュリウスに突撃するときにはなぜか「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)の「Dastaan-E-Om Shanti Om」が流れる。

 また、サンジャイ・ダットが演じていたのはビッルーという警察官で、ジャッキー・シュロフが演じていたのがバーバーという警察官だった。だが、実はビッルーはジャッキーのあだ名であり、バーバーはサンジャイのあだ名だ。よって、最後にダグルーによって名前を交換させられる。

 エピローグにあたる部分では明らかに画像生成AIが使われていた。過去に生成AIが使われたインド映画としては、マラヤーラム語映画「Gaganachari」(2024年)やヒンディー語映画「LSD 2」(2024年)がある。

 「Housefull 5」は、多くのキャラが登場してドタバタ劇を繰り広げるのが定番の長寿コメディー映画シリーズ最新作だ。基本的には何も考えず笑いに身を委ねるタイプの作品で、細かいことをいうのは野暮である。結末が異なる2つのバージョンを公開するという試みは新しいが、それが何か新たな面白さにつながっているのかは不明である。興行的にはまずまずだったようである。日々の雑事や悩みを忘れたいというときに観ると効果的だ。