2024年7月10日からNetflixで配信開始された「Wild Wild Punjab」は、パンジャーブ州を舞台にしたハチャメチャなコメディー映画である。「Pyaar Ka Punchnama」(2011年)や「Sonu Ke Titu Ki Sweety」(2018年)で有名なラヴ・ランジャンが脚本を書いている。題名は米映画「ワイルド・ワイルド・ウエスト」(1999年)を意識したものであろうか。
監督はスィマルプリート・スィン。TVドラマを撮ってきた監督で、映画の監督は今回が初となる。キャストは、ヴァルン・シャルマー、サニー・スィン、マンジョート・スィン、ジャッスィー・ギル、パトラレーカー・ポール、イシター・ラージ・シャルマー、ラージェーシュ・シャルマー、スバー・ラージプートなどである。
パンジャーブ州パティヤーラーに住むラージェーシュ・カンナー(ヴァルン・シャルマー)は、恋人のヴァイシャーリーに浮気され、自殺未遂までする始末だった。ヴァイシャーリーは上司ナヴィーンと結婚することになり、パターンコートで結婚式が行われようとしていた。ラージェーシュの友人、ガウラヴ・ジャイン(ジャッスィー・ギル)とマーン・アローラー(サニー・スィン)は、ラージェーシュをパターンコートまで連れていき、ヴァイシャーリーの前で「I am over you!(お前のことは忘れた)」と言わせようとした。そこへちょうどやって来たのが、父親から受け継いだ運送会社を経営するハニー・スィン(マンジョート・スィン)であった。ハニーの愛車「パーロー」に乗って彼らはパターンコートを目指す。
途中で四人は酒が切れたため、たまたま見つけた結婚式に忍び込んで酒を飲む。ところが酔っ払ってしまい、翌朝目を覚ますと、ガウラヴが新婦ラーダー(パトラレーカー・ポール)と結婚してしまっていたことが分かる。彼らはラーダーを連れてパターンコートへ行くことになる。
ラーダーの助言により、ラージェーシュは誰か別の女性と共にヴァイシャーリーの前に出て幸せそうなところを見せつけることにする。立ち寄ったパンジャーブ大学で出会ったのがミーラー(イシター・ラージ・シャルマー)であった。ミーラーは麻薬の密売人だったが、マーンが彼女に一目惚れしてしまったことで、彼女を連れて行くことにする。途中、ループナガルでアヴタール・スィン警部補(ラージェーシュ・シャルマー)に逮捕されてしまうものの、何とか釈放してもらえる。
ミーラーはグルダースプルに立ち寄るように言う。そこで彼女はマフィアのツインブラザーズと喧嘩になり、彼らは追われることになる。ラージェーシュは尻に銃弾を受けてしまう。一度は逃げ切ったものの、彼らは後でツインブラザーズに追いつかれて捕まってしまった。気付くとミーラーはパーローを奪って逃げていた。ツインブラザーズはラーダーを人質に取り、ミーラーを探し出して連れてくるように言う。
ハニーのネットワークによりすぐにミーラーは見つかり、彼女はパターンコートにある養鶏場で待ち構えていたツインブラザーズの前に突き出される。ラーダーは返してもらえるが、ミーラーに惚れていたマーンが救出に動いたため、混乱が起きる。彼らは逃げ出すが、逃げ込んだ先がちょうどヴァイシャーリーとナヴィーンの結婚式場だった。
ツインブラザーズも結婚式場に乱入してきたため、大混乱が起きるが、そこへアヴタール警部補がやって来たため、ツインブラザーズは逮捕される。ヴァイシャーリーはナヴィーンが浮気していることを知り、ラージェーシュの元に駆け寄るが、ラージェーシュは彼女に「I am over you!」と叫ぶ。
ストーリーの主軸は、失恋したラージェーシュが、元恋人の結婚式に乱入し、彼女にもう未練はないことを伝えるというミッションである。これを彼の親友であるガウラヴ、マーン、ハニーが支援する。
しかしながら、各キャラはそれぞれ背負っているものがある。ガウラヴは大人になった今でも父親に逆らえない従順な青年で、父親の決めた結婚相手との結婚も渋々受け入れていた。ガウラヴをいいように利用していたのがマーンであった。大の女好きであるマーンはガウラヴの父親の車を使って多くの女性たちと情事を繰り広げていた。ハニーは既婚であったが、妻よりも「パーロー」と名付けた愛車を愛しすぎていた。
この四人の宗教はばらけていた。ラージェーシュとマーンはヒンドゥー教徒、ガウラヴはジャイナ教徒、ハニーはスィク教徒であった。この宗教構成が特にストーリーに大きな影響を与えることはなかったが、イスラーム教徒のキャラが皆無だったのは気になるところである。また、肉食のハニーが菜食のガウラヴを「これだから肉を食べない奴は信用できない」と揶揄するシーンがあったが、深く考える必要はないだろう。
この四人が、パンジャーブ州南東部にあるパティヤーラーから、北部にあるパターンコートを目指すことになる。直行すれば3時間ほどの道のりだ。だが、すんなりと直行するはずがない。途中で見知らぬ家族の結婚式に紛れ込み、チャンディーガル、ループナガル、グルダースプルを経由して、パターンコートに辿り着く。また、この過程でグループにはラーダーとミーラーという2人の女性も加わることになる。
コメディー映画としての責務、つまり視聴者を笑わせるという至上命題はきちんと果たしていた。単にパターンコートへ行って結婚式でラージェーシュの元恋人に三行半を突き付けるという小旅行が、道中相次いで起こるトラブルによって、彼らの人生を変える旅になる。ガウラヴは許嫁がいるにもかかわらず酔っ払った勢いでラーダーと結婚してしまい、マーンは麻薬の密売人ミーラーと恋に落ちる。マーンが大事にしていた愛車パーローはボロボロになっていき、彼らは警察に逮捕され、マフィアに追い回される羽目に陥る。そのひとつひとつの過程が秀逸なコメディーとして演出されていた。
浮気をした上に別の男性と結婚しようとする元恋人に、吹っ切れたということを伝えるというプロットも面白かった。最後、ヴァイシャーリーはラージェーシュとよりを戻そうとする。元鞘系を基本とする従来のインド映画ならば、ここでラージェーシュとヴァイシャーリーをくっ付けたはずだ。だが、警察に逮捕され、マフィアに追われるというトラブルをくぐり抜けてきたラージェーシュは一皮向けており、心を強く持って、彼女に予定通り「I am over you!」と伝える。カップルの仲直りではなく、別れを結末に持って来る手法は、既に「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年/邦題:人生は二度とない)などでも見られたものの、未だにインド映画の世界では斬新さを感じさせるエンディングである。
しかしながら、詰めの甘い部分も散見された。ガウラヴは父親の知らぬところでラーダーと結婚してしまうが、その結末が描かれていなかった。マーンとミーラーのその後についても映画は無言であった。全ての伏線が回収された映画ではなかった。
ラージェーシュを演じたヴァルン・シャルマーは、「Fukrey」(2013年)や「Chhichhore」(2019年/邦題:きっと、またあえる)などの暴走気味なコミックロールで知名度を獲得したコメディアン俳優であり、今回も基本的にはその路線を踏襲していた。マーンを演じたサニー・スィンは、「Sonu Ke Titu Ki Sweety」などの俳優だが、今回はガラリとイメチェンし、ワイルドなキャラを演じた。本作の最大のサプライズといってもいいかもしれない。ガウラヴを演じたジャッスィー・ギルは「Panga」(2020年)などに出演していた。ハニーを演じたマンジョート・スィンは、脇役が多かったが、今回は主役に限りなく近い位置にいる。
ラーダーを演じたパトラレーカー・ポールは「Citylights」(2014年)や「Badnaam Gali」(2019年)に出演していた女優だ。現在売り出し中だが、ヒロイン女優として定着するには線が細すぎる印象だ。今回、見せ場はあったが、十分に魅せられたわけではなかった。ミーラーを演じたイシター・ラージ・シャルマーは「Pyaar Ka Punchnama」に出演していた女優だ。麻薬の密売に手を染め、欲望に忠実でチャンスと見たら裏切ることも厭わない女性を自由に演じていた。
「Wild Wild Punjab」は、ロマンス映画に定評のあるラヴ・ランジャンが脚本を書いた作品であるが、その内容はかなり際どいコメディー映画になっている。キャストにスターパワーはなく、過激な描写も散見されるものの、コメディー映画としては秀逸で、爆笑は保証する。筋の分かりやすさも高く評価したい。観て損はない作品だ。