Ladies vs Ricky Bahl

3.0
Ladies vs Ricky Bahl
「Ladies vs Ricky Bahl」

 ヒンディー語映画界最大のコンゴロマリットであるヤシュラージ・フィルムスは、大スターを起用した大予算型映画の制作と同時に、新人監督や新人俳優にもコンスタントにチャンスを与えており、その中からスターも生まれている。近年ヤシュラージ・フィルムスが発掘した最大の才能はアヌシュカー・シャルマーだ。デビュー作「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)を含む3本のヤシュラージ映画に出演し、一気に頭角を現わした。3本出演というのは当初からの契約にあったようで、3本目となる「Band Baaja Baaraat」(2010年)によって契約は切れることになった。しかしながら彼女の快進撃にさらなる将来性を感じたのであろう、彼女としては4本目となるヤシュラージ映画にも出演が決まった。それが本日(2011年12月9日)より公開の「Ladies vs Ricky Bahl」である。相手役は「Band Baaja Baaraat」で共演したランヴィール・スィン。彼もヤシュラージ・フィルムスがデビューさせた俳優である。監督のマニーシュ・シャルマーはその「Band Baaja Baaraat」でも監督をしており、正に「Band Baaja Baaraat」のチームが再結成して作った作品となっている。

監督:マニーシュ・シャルマー
制作:アーディティヤ・チョープラー
音楽:サリーム・スライマーン
歌詞:アミターブ・バッターチャーリヤ
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント、シュルティ・マーチャント
衣装:アキ・ナルラー、アルン・チャウハーン、アーイシャー・カンナー
出演:アヌシュカー・シャルマー、ランヴィール・スィン、パリニーティ・チョープラー、ディーパーンニター・シャルマー、アディティ・シャルマー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 デリー在住のパンジャービー娘ディンプル・チャッダー(パリニーティ・チョープラー)は、ジムで出会ったサニー・スィン(ランヴィール・スィン)と付き合っていた。ディンプルの父親は不動産業をしており、裏社会にも顔が利いた。父親はサニーが中央デリーの一等地バーラーカンバー・ロードに邸宅を持っていることを知り、目の色を変える。その邸宅はサニーの祖父が造ったものだったが、テナントに占拠され、裁判でも負けてしまった。そしてその裁判闘争の中で、サニーの祖父も父親も母親も死んでしまったと言う。サニーとディンプルの仲を認めつつあったディンプルの父親は早速手下を連れてその家からテナントを追い出す。そしてその家を売ることをサニーに提案し、自分が2千万ルピーで買い取る。前金として200万ルピーを渡す。ところが全ては嘘だった。その邸宅はサニーのものでも何でもなく、本当の持ち主から訴えられ、ディンプルの父親は警察に逮捕されてしまう。そしてその日からサニーも姿をくらましてしまう。

 ムンバイー在住のライナー・パルケーカル(ディーパーンニター・シャルマー)はやり手のキャリアウーマンだった。彼女の手に掛かれば、どんな不可能も可能となった。あるとき彼女は社長から画家MFフサインの馬の絵を調達するように命令される。なかなか適度な値段のものが手に入らなかったが、あるとき偶然出会った画廊経営者デーヴ(ランヴィール・スィン)から、財閥スーリー・ブラザーズが馬の絵を持っていることを知る。ライナーはデーヴを通してスーリー・ブラザーズの兄とコンタクトを取る。スーリー兄は最初全く関心を示さないが、スーリー弟が会社の乗っ取りを画策しているとライナーは機密情報を暴露し、交渉を有利に運ぶ。そして最終的には1千万ルピーで買い取ることに成功する。ライナーは前金としてデーヴに400万ルピーを渡す。ところがこれも全て嘘だった。スーリー・ブラザーズはMFフサインの絵を勝手に横領されたと言って激怒し、糾弾された社長もライナーを叱る。ライナーはマスコミの取材に対して無実を主張し、自分も騙されたと語る。この様子は全国に中継される。

 大失敗を犯して落ち込んでいたライナーのところに、テレビを見たディンプルから電話が掛かって来る。ディンプルは密かにサニーの写真を撮っており、それをライナーに送る。それは正にデーヴと同一人物であった。そうこうしている内に今度はラクナウーから電話が掛かって来る。電話の主はサイラー・ラシード(アディティ・シャルマー)という女性だった。サイラーもイクバール・カーンを名乗る男に100万ルピーを騙されていた。やはりそれはサニーやデーヴと同じ人物であった。

 ライナーはディンプルとサイラーをムンバイーへ呼び寄せ、その詐欺男を騙し返す計画を練る。その男が携帯電話の呼び出し音にセットしているシャールク・カーンの台詞を元に、その購入者をしらみつぶしにセットし、現在ゴアにいることを突き止める。また、詐欺男を騙すため、ライナーは友人でデパートの敏腕販売員イシカー・デーサーイー(アヌシュカー・シャルマー)を囮に仕立て上げる。まずは3人がゴア入りし、その男を捜す。その男はヴィクラムの名前でビーチハウスを経営していた。ヴィクラムを見つけた後、三人はイシカーをゴアに呼び寄せる。

 イシカーは米国のモーテル王の娘を装うことになる。三人はうまくヴィクラムがイシカーに興味を持つように仕向け、その通りとなる。ヴィクラムはイシカーがゴアにレストランを開こうとしていることを知ると、パートナーになることを申し出る。イシカーは言葉巧みにヴィクラムから金を引き出す。とりあえず450万ルピーは取り返すことに成功する。ところが徐々に計画にほころびが出て来る。まずはイシカーとヴィクラムが本当に恋仲になりつつあったこと。もうひとつはヴィクラムに計画が知れてしまったことであった。

 ヴィクラムはイシカーに本当に恋していたものの、同時にイシカーに渡してしまった450万ルピーを取り返す計画も実行に移し始める。ヴィクラムは唐突にイシカーにプロポーズをする。三人はそのプロポーズを利用してヴィクラムから残りの金を回収することを思い付く。ライナーの知人をイシカーの父親に仕立て上げ、イシカーとの結婚のためにレストランの土地をイシカー名義で購入する条件を出させる。ヴィクラムはそれを承諾する。

 ヴィクラムの手元には450万ルピーしかなかった。イシカーがレストランを開こうとしていた土地の値段は900万ルピーだった。そこでヴィクラムはイシカーから金を借りることにする。相談を受けたライナーは、今までヴィクラムからせしめた450ルピーをイシカーに渡す。一度土地を購入し、すぐにそれを売却して、そのお金で騙された金額を補填する計画であった。ヴィクラムとイシカーはその土地を購入する。ところがヴィクラムの方が一枚上手であった。その土地は雨季には河底に沈んでしまう訳ありの物件で、実際には30万ルピーの価値もなかった。ヴィクラムは不動産業者とグルになって彼女たちを騙したのだった。三人はイシカーがヴィクラムにのぼせ上がって裏切ったと考え、彼女を責める。せっかく3人を助けたのに責められることになったイシカーは怒ってムンバイーに帰ってしまう。

 落胆した三人がゴアでの下宿先に戻ると、そこにはヴィクラムが待っていた。ヴィクラムは金をせしめて高飛びする予定だったが、騙された人の気持ちを初めて理解し、金を返す気になったのだった。ヴィクラムは三人に1千万ルピーを渡す。また、彼はイシカーのことを本当に好きになっていたことも明かす。三人はヴィクラムにイシカーの居所を教える。

 ムンバイーで元通りデパートの店員をしていたイシカーの元へヴィクラムが訪れる。ヴィクラムは改めてイシカーにプロポーズをし、自分の本当の名前がリッキー・ベヘルであることも明かす。二人はクリスマスのイルミネーションの中で抱き合う。

 詐欺師や泥棒を題材にした映画はヒンディー語映画でも数多く作られている。ヤシュラージ・フィルムスの映画に限っても、新しいところから「Badmaash Company」(2010年)、「Tashan」(2008年)、「Dhoom: 2」(2006年)、「Bunty Aur Babli」(2005年)、「Dhoom」(2004年)など枚挙に暇がない。もちろん、ヤシュラージ映画からさらに範囲を広げれば、さらに大小多くの詐欺師映画・泥棒映画が見つかる。騙しや盗みを働いても、殺人や強盗などの暴力行為をしなければ、「頭のいい奴が頭を使って稼いだ」ということで、笑って許されてしまうような土壌がインドにあるのがその要因かもしれない。そのような訳でコメディーの味付けをしてある詐欺師・泥棒映画が多いが、この「Ladies vs Ricky Bahl」はロマンス映画の範疇に入る映画であった。また、詐欺師の男を中心にしながらも、騙された複数の女性側の視点でストーリーが進行して行くことは目新しかったが、最終的に詐欺師が改心するところは「インド映画の良心」に適った順当なエンディングであった。

 この映画のひとつの「味」は、出身地やバックグランドが全く異なった3人のインド人女性が力を合わせて詐欺師を騙し返そうとすることだ。デリー在住のディンプルは典型的な成金パンジャービー家系の出身で19歳、そのしゃべり方も典型的なデリーの女子大生である。ムンバイー在住のライナーはマラーターの28歳。男性部下を叱り飛ばす高飛車なキャリアウーマン。英語をふんだんに交ぜたインド知識階級の特徴的な話し方をする。ラクナウー在住のサイラーは家庭的なイスラーム教徒女性。夫の死後、義父の経営する服飾業を手伝っている。そのたたずまいはいかにもアワド地方のイスラーム教徒女性と言った感じで、台詞もウルドゥー語的だ。

 この三人が、マシンガントークで捕まえた客に必ず何かを買わしてしまう特異な才能を持った女性イシカーに詐欺男を騙し返す任務を頼む。イシカーは名前から察するにグジャラート人だが、特にグジャラートっぽいモチーフを前面に押し出してはいなかった。代わりにイシカーは、アヌシュカー・シャルマーが今まで演じて来た役柄の延長線上にあるキャラクターとなっている。

 このイシカーを含む多様な四人の「レディース」が力を合わせて詐欺男を騙すというのがこの映画の核であり、この騙し合い部分はとても面白かった。多分人間の頭脳には他人が他人を騙しているところを見たり、他人がまんまと騙されたのを知ったときに痛快さを感じるような感覚が備わっているのだと思う。「他人の不幸は蜜の味」という奴だ。その騙し合いに生死のような深刻な問題が関わらない限り、「お金」という、この世でもっとも大事でもっともどうでもいい物を巡る化かし合いを映画上で見るのは楽しいものである。ヒンディー語映画界で1ジャンルを築いている詐欺師・泥棒映画は、この人間の本能を付いており、どれも一定の面白味がある。

 しかしながら、ロマンス部分は弱かった。劇中には2つのロマンスがあった。ひとつはディンプルが「サニー・スィン」に抱いていた一方的な恋心、もうひとつはイシカーと「ヴィクラム」の恋である。ディンプルは結局詐欺の餌食にされてしまい、「サニー・スィン」は彼女のことを愛していなかったことが分かる。ディンプルは彼に復讐しようとするが、どこかでまだ彼のことを愛していた。一方、イシカーと「ヴィクラム」は相思相愛の恋仲になり、この恋が成就することで映画も終わる。しかしながら、「ヴィクラム」がイシカーの正体を知ってからは、この二人の間の恋愛感情が果たして本当のものなのか、それとも相手を騙そうとして演技をしているのか、それが面白い要素になり得た。特に「ヴィクラム」がイシカーに抱いている感情が最後の直前まで明かされなかったために、想像を膨らますことができた。とは言っても、ロマンス映画として締めくくるためには相思相愛でなければならず、当然の帰結となるのだが、映画を面白くする要素ではあった。これらのひとつひとつを用意したのは良かったのだが、それぞれ深みが足りなかった。それぞれをもっと丁寧に描き、ディンプルの嫉妬などをもう少しメインのストーリーに絡めることができたら、さらに深みのあるロマンス映画になっていたのではないかと思う。よって、ロマンス映画として見るとどうしても弱くなる。

 「改心」はインド映画の重要な部品であり、「Ladies vs Ricky Bahl」でも、主人公二人の恋愛成就と同時に、詐欺師の改心によって映画を爽やかに締めくくっている。その伏線となっていたのは、詐欺男(本名リッキー・ベヘル)が好んで携帯の呼び出し音にセットしていたシャールク・カーンの台詞であった。それは、「Baazigar」(1993年)の中の「時には勝つために負けなければならない、負けることで勝つ者を『詐欺師』と言う」という有名な台詞だ。リッキーの座右の銘だったと言っていいだろう。ところが、彼が過去に騙した30人の女性の内、三人が結託してゴアまで自分を追って来たことを知り、今までゲーム感覚で詐欺をして来た彼も、騙された側の心情を考えるようになる。31人目であるイシカーを騙した後、彼は勝ったのに負けた気分になり、詐欺から足を洗うことを決め、騙し取ったお金も三人に返却する。百戦錬磨の詐欺師がこの程度のことで改心するのは非現実的ではあったが、後味良く映画を締めるためには必要な操作だったと言えるだろう。

 本作では主に四人の女優が登場する。その中でも不動のメインヒロインはアヌシュカー・シャルマーであるが、意外に登場が遅く、出番もそこまで多くない。サブヒロインの三人にも十分に出番が用意されており、彼女たちの中からさらなるスター誕生が期待されていることが分かった。特にディンプル役を演じたパリニーティ・チョープラーはアヌシュカー・シャルマーのお株を奪うマシンガントーク振りで、ヒロイン女優とは行かないまでも、脇役女優として伸びて行きそうな予感がした。なんとプリヤンカー・チョープラーの従姉妹であるらしい。

 とは言っても何と言ってもアヌシュカー・シャルマーである。他の女優とはオーラが全く違う。演技力もますます磨きが掛かっていた。特に、「ヴィクラム」から「自分は詐欺師だ」と告白を受け、そしてプロポーズを受けると同時に、「君の秘密も話して欲しい」と言われたときに見せた、「え、私には何の秘密もないわよ」というしらばっくれた笑顔は別格であった。ビキニ姿も披露しているし、前作に続いてランヴィール・スィンとのキスもしている。タブーを作らず、真摯に演技に取り組みながらも、魅力的な笑顔を絶やさないその姿勢は高く評価できる。現在トップ女優の地位にあるカトリーナ・カイフと今後天下を二分する女優に成長して行くと予想する。

 ランヴィール・スィンにとってはこれがデビュー作「Band Baaja Baaraat」に続き2作目となる。自信に満ちた演技で、既に大物の風格が漂っている。爽やかマッチョというキャラで、シャーヒド・カプールやザイド・カーン辺りとイメージがかぶっているが、彼には男らしいキュートさがあり、ユニークな地位を築いて行けそうだ。ただ、アヌシュカー・シャルマーとの共演が続いたので、今後別の若手女優との共演でどれだけヒット作を飛ばして行けるか、どれだけ演技の幅を広げて行けるかが課題となるだろう。

 音楽はサリーム・スライマーン。都会的な曲が多く、映画の雰囲気ともマッチしているが、個性には欠ける。その中ではパンジャービー・ナンバー「Jigar Da Tukda」が勢いがあっていい。

 劇中でひとつ問題となりそうなシーンがあった。イスラーム教徒女性という設定のサイラーが、ディンプルやライナーと一緒に酒を飲むシーンがあったのである。イスラーム教は飲酒を禁じている。特に女性に対しては社会の目が厳しい。割とおしとやかなキャラとして描かれていたサイラーの突然の飲酒シーンは、インド人イスラーム教徒などの目にはかなりショッキングなものに映るだろう。ちなみにディンプルも19歳という設定で、普通に考えたら未成年飲酒となるのだが、インドでは飲酒していい年齢は州によって異なり、飲酒シーンが撮影されたゴアでは18歳となっている。そのためにセーフと言えるだろう。彼女の出身地デリーでは25歳だが。

 「Ladies vs Ricky Bahl」は、順当な展開と後味のいい終わり方が売りの、いかにもヤシュラージ映画と言った都市在住中産階級。スマッシュヒットの可能性は十分ある。アヌシュカー・シャルマーの台頭をさらに推し進める作品ともなるだろう。観て損はない作品である。