コメディー映画こそがインド映画の真髄である。映画が娯楽の王様である限り、映画は気の置けない友人や家族と共に鑑賞するためのものであり、その際にもっとも好まれるジャンルは自ずと気楽に楽しめるコメディーとなる。この不文律を意識しているのか、普段シリアスな映画を作っている監督が突然コメディー映画を作ることがある。今年に入り、リアリズム娯楽映画の旗手マドゥル・バンダールカル監督が「Dil Toh Baccha Hai Ji」(2011年)というコメディー映画を作り、周囲を驚かせたのが記憶に新しい。そうかと思っていたら、今度は「Rang De Basanti」(2006年)や「Delhi-6」(2009年)などの傑作で知られるラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー監督が「Teen Thay Bhai」と題したコメディー映画をプロデュースし、2011年4月15日に公開された。監督はムリグディープ・ラーンバー。今まで「Don」(2006年)や「Yuvvraaj」(2008年)などで助監督として下積みして来た人物で、本作が監督デビュー作となる。ベテラン俳優オーム・プリー、中堅俳優シュレーヤス・タルパデー、個性派俳優ディーパク・ドーブリヤールの三人が主演。予告編を見る限り、十分に期待が持てた。さて、蓋を開けてみたらどうだっただろうか?
監督:ムリグディープ・ラーンバー
制作:ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー
音楽:スクヴィンダル・スィン、ランジート・バーロート
歌詞:グルザール
出演:オーム・プリー、シュレーヤス・タルパデー、ディーパク・ドーブリヤール、ヨーグラージ・スィン、ラーギニー・カンナー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。
チクシー・ギル(オーム・プリー)、ハッピー・ギル(ディーパク・ドーブリヤール)、ファンシー・ギル(シュレーヤス・タルパデー)はパンジャービー3兄弟であった。チクシーはバティンダーで商店を経営していたが商売は上がったりで、食欲旺盛でプクプク太ってしまった娘たちの嫁の行き先に悩んでいた。ハッピーはすぐに歯を引っこ抜く歯科医として悪名を持ち、借金に悩んでいた。ファンシーはパンジャービー語映画で俳優をしていたが、英語の台詞をむやみに入れたがるために毛嫌いされていた。夢はハリウッドであった。3人の仲は決して良くなく、顔を合わせると喧嘩ばかりしていた。
あるとき、父親カプティー・ギル(ヨーグラージ・スィン)の訃報が届く。葬式に参列した3人は早速喧嘩を始めるが、弁護士のチャッダーから父親の遺言を聞いて目の色を変える。父親はヒマーチャル・プラデーシュ州に土地とコテージを所有していたが、その価値は現在数千万ルピーになる見込みであった。だが、三人がその不動産を相続するためにはひとつの条件があった。それは、3年間、1年に一度、父親の命日に、三人がそのコテージに集まり、父親の遺灰の番をすることであった。三人は仕方なくその条件を守ることにする。
2年間は何事もなく過ぎ去った。だが、最後の3年目、次々と問題が発生した。まずはチクシーがコテージに到着し、その後ハッピーも来たが、ファンシーの到着が遅れた。もしその日が終わるまでに三人が揃わなかったら条件を見たさなくなってしまう。何とかファンシーは到着するが、途中で愛犬を亡くしており、意気消沈していた。三人は早速喧嘩を始め、酒の力もあって、最終的に三人とも床に寝転んで眠ってしまう。
翌朝、三人はコテージの煙突に誰かがいるのを発見する。三人はその男を捕まえて素性を問いただすが、男は隙を見て逃げ出してしまう。探し回る内に三人は近くで外国人女性たちが行っていたドラッグ・パーティーに迷い込む。だが、そこへ警察が踏み込み、三人は麻薬密売人と勘違いされて逮捕されてしまう。
警察署に連行された三人は熱血警官に取り調べを受けるが、まんまと逃亡に成功する。そのまま山を下りてもよかったのだが、父親の遺灰がコテージに置きっぱなしであることを思い出し、三人はコテージに戻る。そこには既に警察が来ており、ショベルカーでコテージを取り壊そうとしていた。三人はコテージに忍び込んで遺灰を取り戻そうとする。ところがそこへ熱血警官と弁護士のチャッダーが駆けつける。チャッダーが明かしたところによると、父親が遺した別の遺言では、3年後にこのコテージは別の人物に売却されることになっており、取り壊しを行っていたのがその人物であった。三人はすっかり元気をなくしてしまった。何も手に入らなかった三人であったが、この一件により彼らの絆は何となく深まったのだった。
1ヶ月後。三人のもとに女性弁護士マンプリート・カウル(ラーギニー・カンナー)と、煙突に隠れていた男がやって来る。この男は実は探偵で、三人が遺言の条件を実行しているか監視する役目を負っていた。また、マンプリートはハッピーの初恋の相手であった。マンプリートの話によると、父親の遺言に従い、コテージを売却してできた金1億7千万ルピーあまりが三人に相続されるとのことであった。これを聞いて三人は大喜びする。父親は、三人の仲を修正するため、生前にこのような大芝居を考えついたのだった。
「ビッグ・ブラザー」というオランダ発祥の国際的人気リアリティー番組がある。外界から隔離され、マイクやカメラが至るところに仕掛けられた家で、多額の賞金目当ての数人の参加者が、毎回互いを脱落させ合って生き残りを目指す方式のゲームで、そこで繰り広げる人間模様が赤裸々に放映される。インドでは「ビッグ・ボス」というタイトルで放映され、物議を醸しながらも人気を博した。「Teen Thay Bhai」は、この「ビッグ・ブラザー/ビッグ・ボス」から着想を得たストーリーであるようで、映画中でもこの番組の言及があった。3人の兄弟が、父親が遺した遺産を巡って、大雪によって外界から遮断された屋敷で共に一夜を過ごすというのが導入部である。
もしこの部分の脚本や台詞を緻密に作って行ったら、低予算ながらもパンチ力のあるスリラー風コメディー映画となったことだろう。だが、映画はこれだけでは終わらず、三人はコテージの外にも出て、ドラッグ・パーティーに乱入したり、警察に逮捕されたり脱走したりと、騒動を巻き起こす。この後半部分の出来が最悪、全くの蛇足で、映画の完成度を著しく低めていた。さらに、この後半に時間を割いたために、前半の「リアル版ビッグ・ブラザー」の部分も中途半端になってしまっていた。よって、全くの失敗作で終わってしまっていた。インドの映画界では一目置かれるラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラーの名前を冠しながらこの体たらくとは、ため息しか出ない。ムリグディープ・ラーンバー監督の才能とメヘラー監督の鑑識眼を疑う。
それでも、主演三人はそれぞれ個性派俳優であり、誠実な演技であった。実年齢差を考慮しなければ合格点であろう。面白かったのは父カプティー・ギルを演じたヨーグラージ・スィンである。元クリケット選手、現在パンジャービー語映画の人気悪役俳優で、なんと現役クリケット選手ユヴラージ・スィンの父親。プリトヴィーラージ・カプールを思わせる豪快な演技であった。紅一点ラーギニー・カンナーはテレビ女優出身であり、おそらく本作が映画デビュー作となるが、映画向きではない。
音楽はスクヴィンダル・スィンとランジート・バーロート。ダレール・メヘンディーの歌う「Pigeon Kabootar (Teen Thay Bhai)」がタイトルソング扱いである。この曲の歌詞は一見に値する。「Listen Suno Bhai…」から始まるが、他にも「Choose Chuno」、「Pigeon Kabootar」、「Parrot Tota」など、英語とヒンディー語で同じ意味の言葉を並べており、全くナンセンスな響きを楽しんでいる。エキセントリック少年ボウイの「少年ボウイ」「犬ドッグ」「鳥バード」と似た言葉遊びである。ただ、これが映画にプラスに働いたかと言うと決してそうでもない。
「3 Thay Bhai」は、ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー監督プロデュースのコメディー映画ということで期待されていたが、全くその期待に応えられない駄作である。ほとんど褒められる場所がない。避けるが吉の映画である。