1998年5月8日公開の「Duplicate」は、主演シャールク・カーンがダブルロールでドゥプリケート（そっくりさん）を演じるコミカルなクライム映画である。
監督はマヘーシュ・バット。プロデューサーはヤシュ・ジョーハルで、カラン・ジョーハルも共同プロデューサーになっている。音楽はアヌ・マリク。メインヒロインはジューヒー・チャーウラーだが、セカンドヒロインとしてソーナーリー・ベーンドレーが起用されている。他に、モホニーシュ・ベヘル、ファリーダー・ジャラール、ティークー・タルサーニヤー、グルシャン・グローヴァー、シャラト・サクセーナーなどが出演している。また、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」（1995年）などでシャールク・カーンと共演したカージョルが特別出演している。
2024年4月4日に鑑賞し、このレビューを書いている。
ムンバイー在住でシェフ志望のバブルー（シャールク・カーン）は、ソニア・カプール（ジューヒー・チャーウラー）がケータリングマネージャーを務めるホテルに採用され働き出す。だが、支配人のラヴィ・ラーンバー（モホニーシュ・ベヘル）はソニアを狙っており、彼女と親しくなったバブルーを何とかクビにしようと画策していた。
一方、ギャングのマンヌー（シャールク・カーン）は刑務所から脱獄した。恋人のリリー（ソーナーリー・ベーンドレー）と合流した後、かつての仲間であるシャラークー（グルシャン・グローヴァー）、ディングラー（シャラト・サクセーナー）、ガッパーに会いに行く。この三人はマンヌーが強盗などで稼いだ金を横取りしていたのだ。だが、シャラークーたちはマンヌーに金を返そうとしなかった。マンヌーは彼らを殺し、金を奪い返すことにした。
マンヌーを追っていたRKタークル警部補（ティークー・タルサーニヤー）は、通報を受け、マンヌーのそっくりさんであるバブルーを逮捕した。バブルーの母親ベーベー（ファリーダー・ジャラール）のおかげで一旦は釈放されたが、マンヌーがガッパーを殺したことで、再びバブルーが疑われ逮捕される。バブルーの写真が新聞に載ったため、マンヌーは自分のそっくりさんがいることに気付く。バブルーが拘留されている間、マンヌーはディングラーも殺す。
牢屋にいるのは本物のマンヌーではないと知った警察はバブルーを釈放するが、彼にIDカードを持たせた。だが、バブルーはマンヌーにそれを奪われてしまう。マンヌーはバブルーを家に閉じ込め、自分がバブルーに成りすましてソニアと会う。だが、ソニアは彼に違和感を感じる。一方、バブルーはマンヌーの振りをしてマンヌーの部下たちをだまし、バブルーを探させる。バブルーはリリーと合流し、マンヌーのアジトに行く。
バブルーはシャラークーの自宅を襲撃し、彼から金を奪う。その直後にマンヌーがシャラークーの自宅を襲撃するが、既に金は奪われた後だった。マンヌーはシャラークーを殺し、自分のアジトでバブルーと対峙するが、マンヌーの部下たちはバブルーの方を本物のマンヌーだと勘違いし続けていた。マンヌーはアジトから追い出されてしまう。
そこでマンヌーはベーベーとソニアを誘拐し、バブルーに金を持ってこさせる。ラヴィが通報したため、タークル警部補が部下を連れて踏み込んでくる。バブルーとマンヌーがそっくりだったためにどちらがどちらか分からなくなるが、最後には駆けつけたリリーがマンヌーを殺し、バブルーとソニアは結ばれる。
シャールク・カーンは長いキャリアの中で何度も一人二役を演じているが、「Duplicate」はその初期の例である。彼はこの前に「Karan Arjun」（1995年）でも一人二役を演じたが、この作品はいわゆる輪廻転生モノであり、前世と後世の役を一人で演じただけだった。よって、彼が演じた二役が同時に画面に登場することはなかった。「English Babu Desi Mam」その一方で「Duplicate」は顔がそっくりなだけで生い立ちや性格は全く異なる二人、バブルーとマンヌーを一人で演じている。同時にこの二人がスクリーンを共有する場面も何度かあり、技術的な見せ場になっている。それらのシーンではCGが活用され、シャールクがさも同時に二役を演じているかのような演出がなされている。ジョン・ウー監督の米映画「フェイス／オフ」（1997年）の影響も見出すことができるだろう。
B級映画の旗手マヘーシュ・バットの監督作なだけあり、ストーリーはとことんチープだ。しかも、意外にアダルト向けである。ギャングのマンヌーがリリーに馬乗りになられるシーンや、リリーがバブルーを誘惑する「Mere Mehboob Mere Sanam」のダンスシーンなど、見方によってはきわどいシーンがあり、完全なファミリーエンターテイメントではないと感じる。
細かいところを突っ込んだら負けな映画でもある。たとえば映画には「日本人」が登場する。シェフのバブルーは「日本人」のために「日本食」を作るが、その料理はヌードルなど中華料理であり、「日本人」と呼ばれている人々は中国語を話し出す。日本人としては残念な点だが、B級映画ということで我慢するしかない。
シャールクにとっては「Duplicate」は大きな挑戦だったに違いない。バブルーとマンヌーという正反対のキャラを演じ分けなければならず、しかもマンヌーがバブルーに成りすまし、バブルーがマンヌーに成りすますシーンもあるので、演じ分けはさらに複雑になる。基本的にはコメディー映画なので、シャールクはコミカルな味付けで演じ分けをしていた。
メインヒロインのジューヒー・チャーウラーは女上司役である。細かい人物設定や心情描写がなされていたわけではないが、得意のコミカルかつチャーミングな演技でシャールクを支えていた。ジューヒーがチャーミングな女優だとしたら、セカンドヒロインのソーナーリー・ベーンドレーはスレンダーな美女だ。ギャングの恋人というピッタリの役を演じていた。さらに、一瞬だけカージョルも特別出演している。
「Duplicate」は、シャールク・カーン主演の本格的なダブルロール映画である。興行的にも成功し、この後の「Kuch Kuch Hota Hai」（1998年）につながる。ただし、当時としては最先端のCG技術を使ってシャールクを画面上に二人映し出すことに成功していたが、それ以外の部分はチープである。大きな期待をせずに鑑賞すべき映画だ。