Jugni

3.5
Jugni
「Jugni」

 2016年1月22日公開の「Jugni(蛍)」は、駆け出しの女性音楽監督を主人公にしたロマンス映画である。

 監督はシェーファーリー・ブーシャン。主演は「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)や「Tere Bin Laden」(2010年)に出演していたスガンダー・ガルグ。他に、スィッダーント・ベヘル、サーダナー・スィン、アヌリター・ジャー、サミール・シャルマーなどが出演している。ターバン姿でギターをかき鳴らす姿がユニークなミュージシャン、ラッビー・シェールギルが特別出演している。音楽はクリントン・セレジョが作曲しており、「Lakhon Salaam」では巨匠ARレヘマーンが歌を歌っている。

 ムンバイー在住のヴィバーヴァリー(スガンダー・ガルグ)は駆け出しの音楽監督だった。同棲中の俳優スィッダールト(サミール・シャルマー)と喧嘩をし、ほぼ無計画でムンバイーを飛び出してパンジャーブ州に来てしまった。ヴィバーヴァリーはとりあえず、ジャランダル近くの村でビービー・サループ(サーダナー・スィン)という歌手を探す。ヴィバーヴァリーはかつてCDで彼女の声を聞いたことがあり、是非次の曲で彼女に歌って欲しいと考えていた。

 ヴィバーヴァリーはサループの家に辿り着き、そこで息子のマスターナー(スィッダーント・ベヘル)と出会う。マスターナーもミュージシャンで、母親と共にステージで歌っていた。ヴィバーヴァリーがムンバイーからやって来た音楽監督だと知り、マスターナーは名前を売るチャンスだと考えて彼女を歓待する。ヴィバーヴァリーはマスターナーの部屋に泊まり、彼らの歌声を録音する。

 マスターナーにはプリートー(アヌリター・ジャー)という恋人がいたが、ヴィバーヴァリーと共に過ごす内に彼女と接近してしまう。ある晩、マスターナーはヴィバーヴァリーと一夜を共にしてしまう。罪悪感を感じたマスターナーは翌朝彼女を置いて姿をくらましてしまう。その後、戻ってきた彼に対し、ヴィバーヴァリーは夜起こったことを責めず、朝自分を置いていったことを責めた。

 ヴィバーヴァリーはムンバイーに戻る。スィッダールトとはやはり喧嘩してしまい、気まずい雰囲気になる。ヴィバーヴァリーはマスターナーの歌声を使って曲を作り、映画監督にも気に入られる。「Dhun」が公開され、ヴィバーヴァリーの作曲した曲が話題になる。そして賞まで受賞する。

 マスターナーはムンバイーにやって来るが、映画産業の人々は決して彼に温かく接しなかった。ヴィバーヴァリーもマスターナーとは人生が違いすぎると彼を突き放す。傷心のマスターナーは故郷に戻る。ヴィバーヴァリーもスィッダールトと別居することを決意し、出て行く。

 「Gangs of Wasseypur」シリーズ(2012/Part 1Part 2)の音楽を担当したことで一躍有名になった女性音楽監督がいた。スネーハー・カーンワルカルである。スネーハーはMTVの「Sound Trippin」という番組でも主役を務めた。ヒンディー語映画界において女性の音楽監督は珍しく、彼女の登場は新たな時代の到来を感じさせた。「Jugni」の主人公ヴィバーヴァリーは何となくスネーハーに通じるものがある。音楽を探求するためにパンジャーブ州の奥地に足を踏み入れるところなどは、スネーハーの「Sound Trippin」そのものである。

 ヴィバーヴァリーはパンジャーブ州の農村でマスターナーという男性と出会う。お調子者だったが、音楽の才能は確かだった。本当は彼女はマスターナーの母親ビービー・サループを探しに来たのだが、マスターナーの猛烈な自己アピールもあって、彼と主に仕事をするようになる。そして、肉体関係になってしまうのである。

 面白かったのは、事が起こった後、翌朝の二人の態度だ。マスターナーはヴィバーヴァリーとセックスをしてしまったことに強い罪悪感を感じ、彼女を後に残して姿をくらまし、しばらく行方不明になってしまう。一方、ヴィバーヴァリーはサバサバした性格で、彼との間に起こったことについて深く考えていなかった。

 女性監督の作品なだけあって、ヴィバーヴァリーの心情変化は非常にうまく表現されていた。男性の方は、きちんと恋人関係にもなっていないのにセックスをしてしまった女性に対してよそよそしい態度になるが、女性の方は度胸が据わっており、実は特に気にしていない。そんな心のすれ違いがリアルに描写されていた。

 ヴィバーヴァリーにはスィッダールトという同棲相手もいた。だが、最終的に彼女はスィッダールトもマスーターナーも選ばず、自立の道を選ぶ。映画の最後、マスターナーは再びムンバイーに来ることになるが、それとは入れ違いにヴィバーヴァリーはヒマーチャル・プラデーシュ州に行く用事ができた。それでも、二人の間に全く残念さはなかった。お互いの健闘を祈り合っただけだ。ヴィバーヴァリーは、キャリアでもプライベートでも自立した現代的な女性像を体現している。

 音楽主題の映画であるため、音楽の質は映画全体の質を左右する。クリント・セレジョが作曲した楽曲の数々は映画の雰囲気にとても合ったもので、それぞれにパワーがあった。ARレヘマーンの協力も得られている。タイトル曲「Jugni」も名曲だ。

 一応、ヒンディー語映画ではあるが、パンジャーブ州でのシーンでは重度にパンジャービー語が使われる。マスターナーがしゃべるのも基本的にはパンジャービー語だ。

 「Jugni」は、女性監督が作っただけあって、女性キャラの心情描写に優れたロマンス映画である。音楽が主題の映画でもあるが、音楽でも手が抜かれておらず、どれもいい曲ばかりだ。観て損はない映画である。