2003年7月11日公開の「Qayamat(破滅)」は、マルチスターキャストのアクション映画である。米映画「ザ・ロック」(1996年)のリメイクだ。公開当時は鑑賞しなかったが、意外なヒットになった。2023年4月29日に鑑賞し、このレビューを書いている。
監督はハリー・バーウェージャー。わざとなのか、それともこれが限界なのか、常にB級映画を作っている映画監督だ。音楽監督はナディーム・シュラヴァンで、バックグランドスコアをサリーム・スライマーンが担当している。キャストは、アジャイ・デーヴガン、スニール・シェッティー、ネーハー・ドゥーピヤー、サンジャイ・カプール、アルバーズ・カーン、イーシャー・コッピカル、アーシーシュ・チャウダリー、リヤー・セーン、チャンキー・パーンデーイ、アンジャン・シュリーヴァースタヴ、クルブーシャン・カルバンダー、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、ラヴィーナー・タンダンなどである。
3人のテロリスト、アリー(サンジャイ・カプール)、アッバース(アルバーズ・カーン)、そしてライラー(イーシャー・コッピカル)が、絶海の孤島にあるエルフィントン島を占拠し、観光客213名を拉致した。三人はパーキスターンの対外諜報機関ISIのラシード准将の後援を受けており、猛毒のウイルスをミサイルに搭載して、ムンバイーに照準を定めた。そして州首相(アンジャン・シュリーヴァースタヴ)に15億ルピーの身代金と逃亡の手段を用意するように求めた。 事件の担当になったのがCBI(中央捜査局)のアクラム・シェーク(スニール・シェッティー)であった。アクラムは、かつて刑務所として使われていたエルフィントン島から唯一脱走に成功したラチト(アジャイ・デーヴガン)の助けを借りて島に潜入しようとする。ラチトはかつてアリーやアッバースの仲間で、共に泥棒を繰り返していた。だが、恋人サプナー(ネーハー・ドゥーピヤー)との結婚を考え、泥棒を止めようとした。アリーとアッバースはサプナーを殺し、ラチトを罠にはめて警察に逮捕させた。それ以来、ラチトは幽閉され続けていた。 また、科学者のラーフル(アーシーシュ・チャウダリー)も作戦に加わることになった。ラーフルの恋人シータル(リヤー・セーン)はテロリストによってエルフィントン島に監禁されていたが、仕事一筋だったラーフルはそれに気付いていなかった。また、ラーフルの同僚ゴーパール(チャンキー・パーンデーイ)は寝返ってテロリストの仲間になっていた。 アクラム、ラチト、ラーフルたちは水中から島の地下洞窟に入る。だが、内相(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)はテロリストと密通しており、作戦の内容をテロリストに流していた。待ち伏せに遭ったチームはほぼ全滅し、アクラムも殺される。残ったのはラチトとラーフルのみだった。絶体絶命だったが、州首相やCBIのクラーナー局長(クルブーシャン・カルバンダー)が詰める作戦室に突然サプナーが現れる。実はサプナーは生きており、アクラムにも協力を要請されていたが、彼女は拒否していた。しかし、考えが変わり、協力を申し出たのだった。 サプナーの声を聞いたラチトは覚醒し、ラーフルと共に作戦を遂行し始める。途中、ラーフルは監禁されていたシータルを助ける。ラチトはアリー、アッバース、ライラーを殺し、ミサイルからウイルスを取り除いて、ムンバイーの危機を救う。
B級映画にありがちだが、方向性に一貫性がないため、これはシリアスなストーリーなのか、それともふざけているのか、時々分からなくなる。特に悪役の三人組、アリー、アッバース、ライラーのやり取りが無駄に笑いを狙っており、扱いに困った。元々インド映画は、あらゆる娯楽要素をごちゃ混ぜにしているとされるが、優れた映画ならばそこに不協和音は生まれない。それに対して「Qayamat」全体から漂うごった煮感は、監督の仕上げ方の悪さから来ているものだといわざるをえない。もっとも、最初からB級映画だろうと予想して観ていたため、それをもって途中で投げ出したくなることはなかった。
逆に、B級映画であることを前提にするならば、意外にスケールの大きな映画だったことは前向きに評価できないこともない。パーキスターンの支援を受けたテロリストが生物兵器を使ってムンバイーを破滅に追い込もうとするストーリーであり、登場人物それぞれのサイドストーリーがヒロイン付きで丁寧に語られていて、しかも「ミッション・インポッシブル」(1996年)などを参考にしたバラエティーに富んだアクションシーンが用意されていた。また、必要以上にセクシーなシーンもいくつかあり、特にリヤー・セーンがバスタブで泡に身を包んでアーシーシュ・チャウダリーを誘惑する「Yaar Pyar Ho Gaya」には力が入っていた。これらの合わせ技がマス層に受けたのだと思われる。
公開当時、印パ関係は極度の緊張状態にあった。1999年のカールギル紛争を受けて悪化していた印パ関係は、2001年にアーグラーで行われた印パ首脳会談でも解決せず、そればかりか同年の国会議事堂襲撃事件などによってますますエスカレートし、核戦争の危機まで叫ばれるようになった。そんな時代背景を反映し、「Qayamat」ではパーキスターンが完全な悪役として登場する。
ただ、インド国内のイスラーム教徒に対する配慮はなされていた。テロリスト三人組はイスラーム教徒であったが、彼らの脅威に立ち向かったアクラムもイスラーム教徒であり、しかもインドへの愛国心は人一倍強かった。彼の口から、インドのイスラーム教徒は、イスラーム教徒である前にインド人であるという台詞を言わせることで、当時世界中に定着しつつあった「イスラーム教徒=テロリスト」という固定観念に一石を投じようという努力が感じられた。
起用されていたのは、当時のトップスターというわけではないが、少なくとも男優の方は、名の知れた俳優たちばかりだ。この中ではアジャイ・デーヴガンが後にもっとも出世することになるが、スニール・シェッティーも人気スターだったし、サンジャイ・カプールやアルバーズ・カーンもそれぞれ個性的な俳優たちである。女優では、特別出演していたラヴィーナー・タンダンがもっとも格上であろうか。「Company」(2002年)のアイテムガール出演で一躍注目を集めたイーシャー・コッピカルは、今回は悪役ながら女優の中ではもっとも出番が多く、見せ場もあった。リヤー・セーンは若手女優の一人だったが、かなり大胆な演技をしていた。ネーハー・ドゥーピヤーにとってはこれがヒンディー語映画デビュー作であった。
「Qayamat」の音楽は古風なものが多く感じるのだが、サントラCDは割と売れたようだ。特に後世まで歌い継がれることになったのは「Woh Ladki Bahut Yaad Aati Hai」だ。
エルフィントン島として映画の中に登場した絶海の要塞は、マハーラーシュトラ州ラーイガル県ムルドにあるジャンジーラーだ。1489年にスィッディー・アンバルによって建造された海上の城塞であり、ジャンジーラー藩の拠点であった。その立地から難攻不落で、ポルトガル人、マラーター、英国人の攻撃を凌ぎ、1947年まで独立を保った。現在は観光地になっている。
「Qayamat」は、まるで子供が考えたような幼稚なストーリーのアクション映画であったが、B級映画としての良さも併せ持った不思議な作品だ。リヤー・セーンのセクシーなダンス、サビが耳に残るバラード「Woh Ladki Bahut Yaad Aati Hai」、スニール・シェッティーやアジャイ・デーヴガンらの熱演、イーシャー・コッピカルの頑張りなど、ピンポイントで見所が散見される。無理に観るような映画ではないが、インドのB級映画を味わえるようになった玄人には響くものがあるかもしれない。