Shehzada

3.5

　2023年2月17日公開の「Shehzada（王子）」は、テルグ語の大ヒット映画「Ala Vaikunthapurramuloo」（2020年）のヒンディー語リメイクである。「Ala Vaikunthapurramuloo」ではアッル・アルジュンとプージャー・ヘーグデーが主演だったが、この「Shehzada」ではカールティク・アーリヤンとクリティ・サノンが主演である。

　監督はローヒト・ダワン。「コメディーの帝王」と呼ばれるデーヴィッド・ダワン監督の息子で、ヴァルン・ダワンの兄にあたる。過去には「Desi Boyz」（2011年）と「Dishoom」（2016年）を撮っている。プロデューサーはTシリーズのブーシャン・クマールなど、音楽はプリータムである。

　カールティク・アーリヤンとクリティ・サノンの他には、パレーシュ・ラーワル、マニーシャー・コーイラーラー、ローニト・ロイ、サチン・ケーデーカル、アンクル・ラーティー、サニー・ヒンドゥジャー、ラージパール・ヤーダヴなどが出演している。

　舞台はデリー。ヴァールミーキ（パレーシュ・ラーワル）は大企業ジンダル・グループに仕えるしがない会社員だった。だが、彼と同期のランディープ（ローニト・ロイ）は、アーディティヤ・ジンダル社長（サチン・ケーデーカル）の娘ヤショーダー（マニーシャー・コーイラーラー）と結婚し、一気に出世していた。ヴァールミーキはランディープを妬んでいた。たまたま彼の妻が息子を生んだその日、ヤショーダーも息子を生んだ。ヴァールミーキは自分の息子とランディープの息子を入れ替え、その秘密を知る看護婦を上階から突き落とし昏睡状態にする。

　ヴァールミーキが育てることになったランディープの息子はバントゥー（カールティク・アーリヤン）と名付けられた一方、ランディープが育てることになったヴァールミーキの息子はラージ（アンクル・ラーティー）と名付けられた。ヴァールミーキはバントゥーを冷遇して育てたが、バントゥーは有能で勇敢かつ心優しい青年に育った。ラージは無能だったが、両親に溺愛されて育った。ヴァールミーキも密かにラージを可愛がっていた。

　子供のすり替えから25年が経った。法学を修めたバントゥーは、敏腕女性弁護士サマーラー（クリティ・サノン）の事務所で働くようになる。同時にサマーラーと恋仲にもなる。だが、サマーラーはジンダル家のラージとお見合いし、二人の縁談がまとまってしまう。バントゥーとサマーラーはランディープに真実を伝えに行くが、そのときちょうど、ジンダル・グループに恨みを持つマフィア、サーラング（サニー・ヒンドゥジャー）がランディープを訪ねており、彼の心臓を傘で刺していた。バントゥーの機転によりランディープは病院に緊急搬送され、何とか一命を取り留める。また、バントゥーはこの病院で、25年前にすり替えを目撃した看護婦と出会う。看護婦は昏睡状態から目を覚まし、バントゥーに対して、25年前にヴァールミーキが何をしたのかを曝露する。

　真実を知ってもバントゥーはヴァールミーキを糾弾したり、ジンダル家に対して自分の権利を主張したりしなかった。ただ、彼は実の両親のそばにいたいと考えた。バントゥーを気に入ったアーディティヤは彼を雇い、散歩友達にする。

　ジンダル家に入り込んだバントゥーは、ランディープとヤショーダーが不仲であることを察知する。彼は瞬く間に二人を仲直りさせる。ラージにもサマーラーとの仲を打ち明ける。ラージはバントゥーとサマーラーの結婚を支持し、それをアーディティヤ、ランディープ、ヤショーダーにも認めさせる。

　サーラングはヤショーダーを誘拐し、ジンダル家を脅迫する。ラージは母親を救出しに行くが、彼が到着する前にバントゥーが敵を一掃していた。アーディティヤはヴァールミーキに、バントゥーこそがジンダル家の正当な跡継ぎであることを認めさせる。実はアーディティヤは看護婦から真実を聞いていたのだった。ランディープも彼が自分の息子であると知って喜ぶ。だが、ヤショーダーには真実は伏せておくことにした。

　南インド映画は、主演スターの圧倒的なパーソナリティーに重度の依存をした映画作りが行われる。そして、映画のヒットも大スターのカリスマ性に拠るところが大きい。よって、南インドで大ヒットした映画をそのままヒンディー語映画にしても、思うようなヒットにはならないことが少なくない。特に最近はヒンディー語圏の観客も南インド映画を観るようになっており、オリジナルよりも完成度の低いリメイクはそっぽを向かれるようになった。「Shehzada」も、オリジナル「Ala Vaikunthapurramuloo」の劣化コピーといわざるを得ない。興行的にも失敗している。

　オリジナルでテルグ語映画界の「スタイリッシュ・スター」アッル・アルジュンが演じた役をカールティク・アーリヤンが演じており、まずはカールティクがどのように表現するかが注目された。カールティクは「Bhool Bhulaiyaa 2」（2022年）を当てており、次世代のスターにとても近い位置にいる男優だ。確かに現在のヒンディー語映画界においてスタイリッシュさのある男優を選ぶとなると、彼は候補に挙がってくる。その選択自体は悪くなかった。実際、ダンスシーンやアクションシーンにおいてカールティクはアルジュンを意識したムーブをしており、それは全く失敗とはいえなかった。しかしながら、アルジュンを越えるほどのパンチ力があるとまでは評価できなかった。

　ヒロインのクリティ・サノンも若手の女優の中で注目株である。「Mimi」（2021年）で高い評価を受け、アクシャイ・クマールやヴァルン・ダワンなどとも共演し、順調にキャリアを積んできている。「Shehzada」では常に必要以上にセクシーな格好をしている女性弁護士役を演じていた。登場当初は存在感があったが、中盤に差し掛かる頃にはほとんど目立たなくなってしまう。映画自体もフロップだったが、彼女にとっては役柄もあまり良くなかった。

　沈みゆく船を必死に支えていたのは、脇を固めるベテラン俳優たちだった。パレーシュ・ラーワル、ローニト・ロイ、サチン・ケーデーカル、そしてマニーシャー・コーイラーラーと、そうそうたる顔ぶれである。特に、子供のすり替えを行い、物語の起点となったヴァールミーキ役を演じたパレーシュの演技は絶賛に値する。ちなみに原作ではムラリー・シャルマーが演じていた。

　アッル・アルジュンはダンスの巧さでも知られたスターで、「Ala Vaikunthapurramuloo」も彼のダンスをかなり前面に押し出した映画だった。特に「Butta Bomma」でのアルジュンのスローモーションのような踊りは素晴らしい。「Shehzada」においてそれに相当するダンスシーンといえば「Chedkhaniyan」になるだろう。このダンスシーンでカールティクは軽妙なステップを見せており、彼も相当ダンスが巧いことが分かる。また、サルマーン・カーン主演「Ready」（2011年）のヒット曲「Character Dheela」のリミックス「Character Dheela 2.0」がエンドロール曲として使われていた。「Ready」の音楽監督もプリータムだったので、セルフリミックスである。

　バントゥーの自宅は、ジャーマー・マスジドがよく見えるオールドデリーの一角にあった。また、ジンダル・グループのオフィスはグルグラーム（旧グルガーオン）にあり、デリー・メトロも何度か画面に登場した。メイデンズ・ホテルやローディー・ガーデンなど、他にもデリー各所で撮影されていることを確認することができた。さらに、モーリシャスでもロケが行われたようだ。

　「Shehzada」は、テルグ語映画「Ala Vaikunthapurramuloo」のヒンディー語リメイクである。原作に何か特筆すべき要素が加えられているわけでもないため、原作を鑑賞済みの人の評価は自ずと低くなるだろう。主演のカールティク・アーリヤンもアッル・アルジュンを越えられていないし、クリティ・サノンにとってもベストのパフォーマンスではない。原作の良さと、脇を固めるベテラン俳優陣のおかげで何とか形になっていた作品だった。