Aladin

2.5
Aladin
「Aladin」

 インドではハロウィンはほとんど祝われないが、ハロウィンのムードから遠くないイメージの映画が公開されることはある。ハロウィン週の2009年10月30日に公開となった「Aladin」は、千夜一夜物語の中でもっとも有名な、いわゆる「アラジンと魔法のランプ」のストーリーをベースにして作られたオリジナルのアドベンチャー映画である。基本的に子供向け映画ではあるが、アミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットという、ヒンディー語映画界の人気ベテラン男優の共演があり、豪華さでは一般の娯楽映画に負けていない。監督は「Home Delivery: Aapko... Ghar Tak」(2005年)などのスジョイ・ゴーシュである。

 ちなみに、日本では「魔法のランプ」の主人公の名前は一般に「アラジン」と表記されているが、アラビア語の原音ではアラーウッディーンである。アラーウッディーンが英語で「Aladin」と訛り、それが日本語に入って「アラジン」になった。ヒンディー語映画「Aladin」は、英語訛りの名称が題名に採用されているが、劇中では「アラーディン」の他に「アラーウッディーン」と発音されていることもあった。ここでは便宜的にアラーディンで統一しておく。

監督:スジョイ・ゴーシュ
制作:スニール・A・ルッラー、スジョイ・ゴーシュ
音楽:ヴィシャール=シェーカル
歌詞:ヴィシャール・ダードラーニー、アンヴィター・ダット・グプタン
振付:ボスコ=シーザー、ピーユーシュ・パンチャール、ギーター・カプール、シヤーマク・ダーヴァル
衣装:ナレーンドラ・クマール・アハマド
出演:アミターブ・バッチャン、サンジャイ・ダット、リテーシュ・デーシュムク、ジャクリーン・フェルナンデス(新人)、ヴィクター・バナルジー、ラトナー・パータク・シャー、サーヒル・カーン、ミーター・ヴァシシュト、ジョイ・セーングプター、ソーヒニー・ゴーシュ、アーリフ・ザカーリヤーなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 デリーとチャンディーガルの間にあるカーヒシュという町に、チャタルジー一家は住んでいた。アルン・チャタルジー(ジョイ・セーングプター)と妻リヤー(ソーヒニー・ゴーシュ)の間には、アラーディンという息子がおり、祖父(ヴィクター・バナルジー)と共に暮らしていた。アルンは魔法のランプを追い求めており、ある日、リヤーやアラーディンと共にシアチン氷河まで調査に出掛けた。だが、そこでトラブルに巻き込まれ、アルンとリヤーは命を落としてしまう。幼いアラーディンはそこで何が起こったのか覚えていなかったが、そのまま祖父に育てられた。だが、その祖父も後に寿命で死んでしまう。

 アラーディンは、名前が名前だっただけに、近所の悪ガキ、カースィム(サーヒル・カーン)たちにいじめられて来た。カースィムはアラーディンにランプを渡し、ジンを出してみろとからかっていた。その状況はアラーディン(リテーシュ・デーシュムク)が大学生になっても変わらなかった。

 ある日、アラーディンのクラスに米国から交換留学生としてジャスミン(ジャクリーン・フェルナンデス)というかわいい女の子がやって来る。アラーディンはジャスミンに一目惚れしてしまうが、カースィムもそれは同じであった。ちょうどその日はアラーディンの誕生日であり、カースィムはジャスミンと近付くためにアラーディンの誕生日パーティーを開くことにし、ジャスミンと共に誕生日プレゼントを買いに行く。

 嫌々ながらカースィム主催の誕生日パーティーにやって来たアラーディンは、ジャスミンからランプを渡される。それは町の中国雑貨屋で手に入れたもので、もちろんカースィムの悪ふざけの一環であった。アラーディンはランプをこすらされる。ところがそれは本当の魔法のランプであった。中からファンキーな魔神ジーニアス(アミターブ・バッチャン)が出て来る。

 アラーディンの目の前に現れたジーニアスは3つの願いを叶えると言う。ジーニアスにとって、これが最後の仕事であり、これさえ終われば魔法のランプの束縛から解放されるはずであった。ジーニアスは早く願いを言うようにせかす。アラーディンはなかなか願いを言わなかったが、彼の頭の中に入り込んだジーニアスは、アラーディンがジャスミンに恋していることを知る。アラーディンは最初の願いとしてジャスミンを望む。

 ジーニアスは即座にジャスミンに魔法をかけてアラーディンの虜にする。しかし、このような方法を使ってジャスミンを自分のものにするのはアラーディンの良心に反した。アラーディンは元の状態に戻すように要求し、それが第2の願いとなってしまう。

 ところで、もうすぐ大学ではダンスパーティーが開催されることになっていた。アラーディンはジャスミンと踊りたかったが、カースィムに横取りされそうな雰囲気となった。居ても立ってもいられなくなったアラーディンは、第3の願いとして再びジャスミンを求める。ただし、魔法を使ってではなく、ちゃんとした手順を踏んでジャスミンと付き合えるように手助けすることが条件であった。

 ジーニアスはアラーディンの求愛を助けようとするが、かえって話をこんがらがらせてしまうことが多かった。しかしジャスミンにディナーに誘われたアラーディンは、その席で彼女と踊る約束を取り付ける。

 その頃、カーヒシュに不気味な一団がやって来ていた。その首領の名はリングマスター(サンジャイ・ダット)。彼は昔から魔法のランプを追い求めており、それがカーヒシュに住む若者の手に渡っていることを突き止めたのだった。リングマスターは、魔法のランプを使って魔神の力を手にし、世界を征服しようと企んでいた。リングマスターとジーニアスは宿敵同士であり、実はリングマスターはアラーディンの両親の死にも絡んでいた。

 アラーディンから魔法のランプを奪い取ったリングマスターは、まずそれをこすってジーニアスの主人となる。そしてジーニアスに、アラーディンを殺すように命令する。だが、既にアラーディンと心を通い合わせるようになっていたジーニアスは、それを拒否する。魔法のランプに封印された魔神は主人の命令に背くと人間にされてしまうと言う掟があった。ジーニアスはその拒否のせいで普通の人間になってしまう。

 リングマスターは、大学の天文学者ナズィール(アーリフ・ザカーリヤー)の協力を受け、10万年振りに地球に接近する彗星を魔法のランプを使って捕まえる儀式の準備をする。その儀式を執り行うことで魔神の力が手に入るのであった。だが、ジーニアスはアラーディンやジャスミンにそのことを話し、何としてでもそれを阻止しようとする。儀式の場は、ダンスパーティー開催中の大学記念堂であった。ジーニアス、アラーディン、ジャスミンはパーティーに潜入する。

 リングマスターはまずは学生たちを追い払い、ジーニアスたちを返り討ちにする。ジーニアスは剣で串刺しにされ、ジャスミンも気を失い、アラーディンは捕まってしまう。リングマスターはホールの天井を爆破し、その真下に魔法のランプを置いて、彗星が投影されるのを待った。投影された彗星を掴むことで、魔神の力が手に入るのであった。だが、アラーディンは一瞬の隙を突いて彗星をかすめ取り、それをジーニアスに渡す。魔神の力を取り戻したジーニアスはリングマスターを魔法の鏡に封印して破壊する。また、彗星に触れたアラーディンにも魔神の力が身に付いていた。

 CGを多用し、マジックとファンタジーの世界でのアドベンチャーを魅せると言う、ハリウッドが得意とするスタイルの映画であったが、このインド製映画もなかなか無難にまとまっており、子供向け娯楽映画として一定の水準をクリアしていた。映画館には子供が多かったが、要所要所で子供たちの無邪気な笑い声が挙がっており、きっと子供たちにはとても楽しい映画であったことだろう。

 敢えて大人の視点でこの映画を評価するならば、まず見所と言えるのがアミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットの対決である。アミターブ演じるジーニアスは善玉で、サンジャイ演じるリングマスターは悪玉であり、「Aladin」ではこの二人が真っ向から激突する。アミターブとサンジャイの共演は、「Kaante」(2002年)や「Viruddh」(2005年)など過去に例があるものの、このような対決シーンは初めてであるような気がする。

 興味深いことに、ヒロインのジャクリーン・フェルナンデスはスリランカ人である。2006年のミス・スリランカ・ユニバースで、本作が映画デビュー作となる。スリランカ人と言われてもピンと来ないような国際的な美人だ。さすがにヒンディー語が話せないので、台詞は吹き替えであったが、現在ヒンディー語の猛特訓中らしく、機会があればこのままヒンディー語映画界で活躍して行きたいようだ。

 主演は今や中堅の男優と言ってもいいリテーシュ・デーシュムク。元々表情力のある男優だが、間の抜けた表情もうまく、「Aladin」のようなコミック的映画も難なくこなせる。「Aladin」での演技は確実に彼のキャリアにプラスとなるだろう。

 他に、ヴィクター・バナルジーやラトナー・パータク・シャーなど、意外にいい俳優が多い。いじめっ子役を演じたサーヒル・カーンは、気味悪いぐらいにムキムキであったが、もう少し普通の体格の俳優でも別に良かったのではないかと感じた。

 音楽はヴィシャール=シェーカル。映画の雰囲気に合った派手な音楽が多かったが、特に印象に残ったものはなかった。

 映画の舞台となっていたのはカーヒシュという架空の山間の町であり、大部分のロケもセットで行われたと思われるが、一部ジャイサルメールでロケが行われたとと思われるシーンがあった。確かにジャイサルメールは「アラジンと魔法のランプ」のイメージとピッタリの場所だ。

 劇中では、魔法のランプは中国人が経営する雑貨屋で偶然手に入る。多少おかしく思えるかもしれないが、実は「アラジンと魔法のランプ」の原作の舞台は中国であり、アラジンも中国人という設定である。おそらくその理由から、魔法のランプの入手場所が中国雑貨屋になったのであろう。また、映画の中では空手も登場し、ちょっとした伏線にもなっている。

 「Aladin」は基本的に子供向け映画であるが、キャストが豪華なだけあり、ヒンディー語映画をこまめに観ている人には、見所のある作品に映るだろう。リテーシュ・デーシュムクのファンの人にもオススメだ。最近ヒンディー語映画界では子供向け映画がひとつのジャンルとして確立しており、その潮流を捉える上では一応重要な作品になりえるだろう。しかし、それ以上の価値のある作品ではない。