Do Knot Disturb

2.5
Do Knot Disturb
「Do Knot Disturb」

 インドは年末のお祭りシーズンに突入しており、ヒンディー語映画界も今後話題作が目白押しとなっている。今日(2009年10月2日)は主に2本の映画が封切られた。その内の一本、デーヴィッド・ダワン監督の「Do Knot Disturb」をまず観ることにした。デーヴィッド・ダワン監督は「Partner」(2007年)などの監督で、コメディー映画を得意とする人である。最近良質なコメディー映画に飢えていたため、「Do Knot Disturb」をまず観ることにしたのだった。

監督:デーヴィッド・ダワン
制作:ヴァーシュ・バグナーニー
音楽:ナデヴィーム・シュラヴァン
歌詞:サミール
出演:ゴーヴィンダー、スシュミター・セーン、リテーシュ・デーシュムク、ラーラー・ダッター、ソハイル・カーン、ランヴィール・シャウリー、ラージパール・ヤーダヴ、マノージ・パーワーなど
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 舞台はデリー。ラージ(ゴーヴィンダー)は大企業のCEOであったが、会社も豪邸も何もかも、実際は妻キラン(スシュミター・セーン)のもので、彼女には逆らえなかった。しかしラージはちゃっかり売れっ子女優のドリー(ラーラー・ダッター)と不倫していた。ドリーはラージのためにボーイフレンドのディーゼル(ソハイル・カーン)と別れていたが、ラージはなかなかキランとの関係を清算できなかった。

 あるとき、かつてラージの家で使用人として働いていたマングー(ラージパール・ヤーダヴ)が、ラージとドリーが一緒にいるところを目撃してしまう。ラージに恨みのあったマングーはその場面を携帯の写真で撮影し、キランに送る。早速キランはラージに詰め寄るが、口が達者なラージはあれこれ言い訳して何とか切り抜ける。幸運だったのは、その写真にラージとドリー以外にもう一人の若者が写っていたことである。ラージは、その若者がドリーのボーイフレンドで、自分は偶然そこにいただけだと主張する。

 ラージはキランの疑いを完全に晴らすため、その写真に写っていた若者を部下に探させる。その若者の名前はゴーヴァルダン(リテーシュ・デーシュムク)と言った。ゴーヴァルダンは入院中の母親のためにお金を必要としていた。ラージは、数日間ドリーの恋人の振りをすることで多額の報酬を約束する。実はゴーヴァルダンはドリーの大ファンであり、願ってもない申し出であった。ただし、ラージは、ドリーと必要以上に仲良くなることを禁じた。

 一方、キランは旧知の探偵(ランヴィール・シャウリー)を訪ねていた。キランはラージの言うことを信じておらず、探偵に浮気調査を依頼した。探偵はゴーヴァルダンとドリーが本当に恋人なのかどうかを調査し出す。ドリーは一生懸命ゴーヴァルダンといかにも恋仲であるように振る舞うが、それがまたラージを嫉妬させるのであった。

 遂にキランが行動に出た。プネーの母親のところへ行くと言って一旦出発する振りをし、そのままデリーに滞在してラージを見張ることにしたのだった。ドリーと一緒にいるところを現行犯で捕まえようとしていた。まんまと作戦に引っかかったラージは、早速高級ホテルのスイートルームを予約し、ドリーを呼び寄せた。

 ラージとドリーはスイートルームで密会していたが、そこには探偵もやって来ていた。しかし、運悪く窓に挟まれて気絶してしまう。気絶した探偵を見つけたラージとドリーは、厄介なことになったと考え、ゴーヴァルダンを緊急呼び出しする。三人は探偵を部屋から運び出そうとするが、偶然マングーがそのホテルで働いていたこともあり、話はこんがらがる。さらに、ドリーへの未練たらたらで、すぐに人を殴る荒っぽい男ディーゼルもドリーを追ってホテルに来ていた。それに加えて、車椅子で運ばれていた探偵は落下して頭を打ち、意識を取り戻すものの、今度は記憶喪失になっていた。実はキランも同じホテルに泊まっており、探偵からの報告を待っている状態だった。それらの混乱の中で、ラージはプネーに行ったはずのキランがまだデリーにいるのを見つけ、自分の無実を主張し、何とか浮気の疑いを晴らす。

 仲直りしたラージとキランは2回目にハネムーンに行こうとしていた。だがそこへ、記憶を取り戻した探偵がやって来ていた。探偵はデジカメで、ラージとドリーが一緒に写る写真をたくさん撮影していた。探偵は、仲睦まじいラージとキランの姿を見て、もはやその写真を見せる必要はないと判断し、デジカメを捨てるが、キランは偶然そのデジカメを拾ってしまい、ラージの浮気が今度こそ暴露されてしまったのだった。

 ヒンディー語映画界ではコンスタントに浮気を巡るお色気たっぷりのドタバタ劇をテーマにしたコメディー映画が作られており、「Masti」(2004年)、「No Entry」(2005年)など、傑作も多い。「Do Knot Disturb」も不倫コメディーであった。デーヴィッド・ダワン監督自身の過去の作品の中では、「Shaadi No.1」(2005年)がもっとも近い。しかし、聞くところでは「La doublure」または「The Valet」のタイトルで知られる2006年制作のフランス語映画のリメイクであるらしい。

 プリヤダルシャン監督と並んで「コメディーの帝王」と称されるデーヴィッド・ダワン監督の最新作であったため、期待をして「Do Knot Disturb」を観に行ったのだが、残念ながらその期待に応えられるような出来ではなかった。笑えるシーンがいくつもあるが、全体として作りが雑で、ストーリーにのめり込めなかった。ゴーヴィンダー、リテーシュ・デーシュムク、スシュミター・セーン、ラーラー・ダッターなどのキャストの魅力も十分に活かされていなかった。この映画では登場人物がやたら顔をしわくちゃにして泣くのだが、それもしつこすぎた。総じて、デーヴィッド・ダワン監督のコメディー映画の中では手抜きの部類に入ると評していいだろう。

 「Partner」のゴーヴィンダーは本当に素晴らしかったのだが、今回はコメディー、ダンス共に、「Partner」ほどの見せ場がなかった。それでもゴーヴィンダーのアドリブ的な演技は面白く、彼一人でこの映画を持たせていた。スシュミター・セーンはいつの間にか太って老けたように感じた。今回はラーラー・ダッターとのダブルヒロインであったが、二人ともゴージャスレディーとしてのキャラがかぶっているし、二人とも多少情けない役であったので、格を落とす結果となったように感じられてならない。リテーシュ・デーシュムクも吹っ切れたところがなくて、あまり真剣にこの映画に取り組んでいなかったのではないかと思った。

 音楽はナディーム・シュラヴァン。一昔前に全盛期を迎えていた作曲家デュオだが、多少時代に取り残されつつあるように思える。「Do Knot Disturb」の中で耳に残った曲はなかった。終盤の見所のひとつである、ゴーヴィンダー、リテーシュ・デーシュムク、ラーラー・ダッターの3人が踊るパンジャービー・ナンバー「Mere Naal」の見た目が豪華だったぐらいか。

 ストーリー上の舞台はデリーということになっていたが、撮影はアラブ首長国連邦のアブダビのようである。

 題名はちょっと変則的だ。ホテルの客室のドアの取っ手にかける「邪魔しないで下さい」のタグ「Do Not Disturb」のもじりとなっている。おそらく「Knot」は「結婚」を意味しており、不倫コメディーを暗示する題名にしようとした結果であろう。

 「Do Knot Disturb」は、「コメディーの帝王」デーヴィッド・ダワン監督の最新コメディー映画になるが、彼の作品の中ではつまらない部類に入る映画であり、無理して観る価値はないだろう。しばらく政界にいて銀幕から遠ざかっていたゴーヴィンダーの勇姿を拝みたいのであったら、今でも「Partner」がベストの映画である。