2008年7月25日から2本の新作ヒンディー語映画が公開された。アクション映画「Mission Istanbul」とコメディー映画「Money Hai Toh Honey Hai」である。今日はコメディーを観たい気分であったので、まず後者を観ることにした。
監督:ガネーシュ・アーチャーリヤ
制作:クマール・マンガト
音楽:ヴィシャール・バールドワージ
歌詞:サミール
振付:ヴィシュヌ・デーヴァ
衣装:ローヒト・チャトゥルヴェーディー、ジミー
出演:ゴーヴィンダー、アーフターブ・シヴダーサーニー、ウペーン・パテール、マノージ・バージペーイー、セリナ・ジェートリー、ハンスィカー・モートワーニー、ラヴィ・キシャン、プレーム・チョープラー、ジャーヴェード・シェーク、キム・シャルマー、オーム・プリー(ナレーション)、イーシャー・デーオール(特別出演)
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。
ジャイスワール・テキスタイル社の経営者で大富豪のKKジャイスワール(プレーム・チョープラー)は独身で後継者がいなかった。ジャイスワールの甥で会社の重役を務めるパナーグ(ラヴィ・キシャン)はてっきり自分が後継者に指名されるかと思っていたが、ジャイスワールは適当に選んだ6つの電話番号の持ち主6人を後継ぎにするというアイデアを思い付く。以下の6人がそのラッキーパーソンである。 ボビー(ゴーヴィンダー)は大富豪の御曹司として生まれ、何不自由ないエンターテイメントの毎日を送っていた。だがある日父親(ジャーヴェード・シェーク)に小言を言われたために家出をし、いい加減なコンサルタント業を始める。 ラーラーバーイー(マノージ・バージペーイー)は、ある日宝くじに当選して大金を手にし、脱サラするものの、運用に失敗し、結局一文無しになってしまう。しかし、常に前向きのラーラーバーイーは全くめげなかった。 ガウラヴ(アーフターブ・シヴダーサーニー)はコピーライターだったが、あまりに奇抜なコピーばかり考えていたため、会社をクビになってしまう。とうとう長年付き合って来た恋人(キム・シャルマー)にも愛想を尽かされる。 マーニク(ウペーン・パテール)は弱気なプレイボーイで、モデルとして成功することを夢見ながら、小さな広告のモデルをして食い扶持を稼いでいた。コネを期待して、デザイナーのドリー(アルチャナー・プーラン・スィン)の愛人になるものの、全く人生は開けなかった。 シュルティー(セリナ・ジェートリー)は、庶民のためのブランド衣料のデザインを夢見るデザイナーの卵であった。ドリーの経営するブティックに勤務していたが、ドリーに見放されて追い出される。 アシーマー(ハンスィカー・モートワーニー)は人気TV女優であったが、映画女優への転身を夢見ていた。TVドラマのプロデューサーと喧嘩をし、TVドラマからは足を洗うが、映画界からはなかなかいい役のオファーが来なかった。 ジャイスワールは以上の六人の携帯電話に、会社の後継者に選ばれたとSMS(携帯メール)を送るが、迷惑メールだと勘違いされ、誰もそれを信じようとしない。今度は電話をするが、やはり皆まともにジャイスワールの話を聞かなかった。その内ジャイスワールは死んでしまう。それぞれの人生につまずいていた6人は、会社の後継者に選ばれたという話を信じてみる気になる。 招集された六人は、会社の共同経営者となるための条件を聞かされる。一方、パナーグは何とか六人を会社から追い出そうと画策し始める。 状況をもっともよく観察していたのはボビーであった。ボビーは何とか会社の資産を独り占めしようとする。ガウラヴ、マーニク、シュルティー、アシーマ―の四人にそれぞれ夢があるのを見て取ったボビーは、彼らが会社経営ではなく自分の夢を追いかけられるように後押しする。それらが功を奏し、四人は共同経営者就任を辞退する決意を固める。ボビーの陰謀を感じ取ったラーラーバーイーはそれを邪魔しようとするが、パナーグに殺されそうになったのをボビーに助けられ、以後ボビーの言うことを聞くようになる。 パナーグは六人に1億ルピーずつ現金を渡し、共同経営者就任を辞退するように要求する。だが、ボビーは会社に6億ルピー以上の価値があると予想し、それを拒否する。結局六人はパナーグの申し出を断る。その後、会社の時価が発表される。それはなんと100億ルピーであった。だが、同時に120億ルピーの借金があることが発覚する。その借金は六人の肩にのしかかってしまう。 何とかして借金を返さなくてはならなくなり、六人は知恵を絞って、会社の倉庫に大量に残っていた布を使って新ブランドを立ち上げることにする。その宣伝のため、一般人をモデルに採用したファッションショーを企画する。この企画は大ヒットし、ジャイスワール・テキスタイルは売り上げを伸ばす。おかげで6人は悠々自適の生活を送ることができるようになったのだった。
いかにもバブリーな題名や広告だったので、さぞやバブリーなコメディーが楽しめるのではと期待していた。だが、ストーリーに強引な部分が多く、映画として破綻しており、単なる駄作になってしまっていた。確かにコメディー映画は、ひとつひとつのギャグが面白ければ少しぐらいストーリーが破綻していても許容できるものなのだが、「Money Hai Toh Honey Hai」はいい加減な部分が許せないぐらい多くて全くの興ざめであった。特に後半の展開は筋がメチャクチャで何が何だか分からなかった。
だが、映画の唯一の取り柄は、ゴーヴィンダーとマノージ・バージペーイーの掛け合いが異常に面白かったことである。二人ともクセのある演技に定評のある俳優であり、この二人が揃ったときのケミストリーはなかなかのパンチ力があった。ゴーヴィンダーのダンスも素晴らしい。現代のヒンディー語映画界ではとかくリティク・ローシャンのようなダンスがもてはやされるが、ヒンディー語映画界で最高のダンスを踊る男優はゴーヴィンダー以外にいない。
上記の二人を含め、いろいろ訳ありの俳優が多く出演していた。ゴーヴィンダーは国民会議派の公認を得て2004年の下院選挙で立候補し当選した。それをきっかけにしばらく銀幕から遠ざかっていたが、次第に政治に飽きて来たようで、「Partner」(2007年)などに出演して俳優業を再開した。今では「本業」の政治の方はかなり疎かになってしまっている。インド映画のスターの中には政治家になる者も少なくないのだが、ゴーヴィンダーに関しては、政治家に転身して得たものよりも失ったものの方が多そうだ。
マノージ・バージペーイーをスクリーンで見たのは何年振りか。実際には「Dus Kahaniyaan」(2007年)に出演していたのでそんなに久し振りでもないのだが、めっきりレアな俳優になってしまった印象は否めない。だが、彼のボージプリー方言風の訛ったしゃべり方はコメディー映画には絶好のスパイスである。依然として存在感のある俳優である。
アーフターブ・シヴダーサーニーは、いつまで経ってもなかなか一流になれない。そればかりか、二流俳優組からも脱落気味である。「Money Hai Toh Honey Hai」に登場した多くの二流俳優の間ですら埋もれてしまっていた。ここで一発何か代表作と呼べる作品が欲しいものである。
ウペーン・パテールは割と面白い道を歩んでいる。モデルから俳優に転身したウペーンは、てっきり王道のヒーロー路線を行くのかと思いきや、「二枚目だがおっちょこちょい」的な役を演じることが多くなっている。出演作を慎重に選ばなかったのが祟ったのか、それとも彼自身が見かけによらずそういう趣向なのか分からないが、ハンサムでマッチョなコメディアンとして割り切れば、独自の道を切り開けそうである。
セリナ・ジェートリーは、ミス・ユニバースまで登り詰めながら、映画界では成功できなかった不幸な女優の1人である。もうヒロイン女優としての適齢期も過ぎてしまい、頂点を見ぬままに老けてしまった。ヒンディー語映画界を生き抜くにはオーラが足りなかったとしか言いようがない。
ハンスィカー・モートワーニーは子役として「Koi… Mil Gaya」(2003年)など何本かの映画に出演し、「Aap Ka Suroor」(2007年)で本格的に映画デビューを果たした女優である。彼女の生年は脅威の1991年。遂にヒンディー語映画界でも90年代生まれの女優が活躍し出した。今のところは特徴のないインド美人という印象であったが、自信に満ちた演技をしており、これから化ける可能性もあるだろう。
上記の六人が主演であったが、キム・シャルマーやイーシャー・デーオールなどもちょっとだけ出演していた。また、敏腕TVドラマ・プロデシューサーのエークター・カプールのパロディー、ムクティ・カプールや、UBグループのヴィジャイ・マーリヤー会長のパロディー、ヴィジャイ・ワーリヤーなる人物が出演していて面白かった。
監督はガネーシュ・アーチャーリヤ。彼はデブのコレオグラファーとして有名だが、ファラー・カーン同様に監督業にも進出している。今回が監督2作目。振付が本業なだけあって、「Money Hai Toh Honey Hai」にはダンスシーンが多く、ガネーシュ・アーチャーリヤ自身が踊っているものもあった。ヴィシャール・バールドワージの音楽も悪くなかった。だが、ガネーシュ・アーチャーリヤは、ファラー・カーンほど巧みに映画作りができていない。監督方面に才能があるとは思えない。彼は本業に専念した方がいいだろう。
ただ、ファラー・カーンとガネーシュ・アーチャーリヤの映画にはひとつの共通点が見出された。それは、裏方への温かい眼差しである。ファラー・カーン映画の最後では、俳優から始まって監督、プロデューサー、デザイナー、カメラマン、スポットボーイなど、裏方までも顔を出すのがお約束になっているが、「Money Hai Toh Honey Hai」でも、庶民をモデルにしたファッションショーというクライマックスで、普段は表に出ない人々(演じるは無名の脇役俳優たち)にスポットライトを当てようとする心遣いが感じられた。
「Money Hai Toh Honey Hai」は、見た目はゴージャスなコメディー映画だが、監督に才能がないためか、行き当たりばったりのお粗末な映画になってしまっていた。ゴーヴィンダーのダンス、いくつかの爆笑シーン、エークター・カプールやヴィジャイ・マーリヤーの偽物など、見所はあるものの、コメディー映画としては中の下程度の出来である。