2013年2月1日公開の「Deewana Main Deewana(恋した、僕は恋した)」は、2003年に撮影が行われたにもかかわらずお蔵入りし、10年の歳月を経て一般公開された曰く付きの作品である。タミル語映画「Priyamudan」(1998年)のリメイクとされている。
監督はKCボーカーリヤー。主演はゴーヴィンダーとプリヤンカー・チョープラー。プリヤンカーは「The Hero: Love Story of a Spy」(2003年)や「Andaaz」(2003年)デビューしたばかりであり、まだ初々しい演技を見せている。他に、ナスィール・カーン、カーダル・カーン、ヒマーニー・シヴプリー、プレーム・チョープラー、ジョニー・リーヴァル、シャクティ・カプール、シャラト・サクセーナーなどが出演している。
映画の中にはバサント・クマールとヴァサント・クマールという似た名前の登場人物がおり、紛らわしいが、それが映画の仕掛けにもなっている。
バサント・クマール(ゴーヴィンダー)はムンバイーに住む裕福な独身男性だった。友達思いで、貧しいヴァサント・クマール(ナスィール・カーン)らの友人の生活を支えていた。しかし、欲しいものは必ず手に入れる執着心も持っていた。 あるとき、バサントはプリヤー(プリヤンカー・チョープラー)という女性に一目惚れするが、その後なかなか再会できなかった。バサントはヴァサントら友人たちを連れてジョードプルへ行く。そこでバサントはプリヤーを見掛ける。一方、ヴァサントは交通事故に遭ったプリヤーを助ける。彼女の父親アジト・スィン(プレーム・チョープラー)から彼女が輸血を必要としていることを知り、ちょうど血液型もマッチしたため、ヴァサントは血液を提供する。 意識を取り戻したプリヤーはヴァサントにお礼をするために電話をするが、それに出たのはバサントだった。プリヤーがムンバイーに来ることになり、バサントはヴァサントを連れて迎えに行く。だが、ヴァサントは急用ができたために去ってしまい、バサントが一人で彼女を迎えることになった。そのとき、バサントは一目惚れの相手がプリヤーであることに初めて気付く。そして、プリヤーに対して自分がヴァサントだと名乗ってしまう。 バサントとプリヤーは恋仲になる。ヴァサントは、バサントの恋人になったプリヤーが、自分が輸血した相手だとは気付かず、二人の仲を祝福する。ところが、プリヤーが父親にバサントを会わせたがったことで、バサントも困り果てる。バサントはジョードプルまで行き、アジトを殺してしまう。悲しむプリヤーをバサントは慰める。 今度はヴァサントがジョードプルにやって来た。そして、輸血した相手に会おうとする。バサントはそれを止めようとするが、結局ヴァサントに、プリヤーこそが輸血相手だと知られてしまう。バサントはヴァサントを崖から突き落として殺してしまう。 中央捜査局(CBI)のシャラド・クマール(シャラト・サクセーナー)は捜査の中でバサントを容疑者として特定し、プリヤーに警告を発する。プリヤーは逃げ出すが、バサントが必死に追い掛ける。バサントは、プリヤーに一目惚れしていたこと、アジトとヴァサントを殺す意図はなく、二人とも誤って殺してしまったことなどを打ち明ける。そこへシャラドが駆けつけ、バサントは逮捕される。
1990年代の雰囲気を引きずった、古風なヒンディー語映画だった。もし2000年代前半に公開されたとしても、古風だという印象は否めなかっただろう。2003年に撮影されたとのことだが、台詞の中には「Dabangg」(2010年)や「Robot」(2010年)の言及があり、必ずしも2003年から10年間寝かせられていた作品ではないようにも感じた。
2013年に突然思い出したように公開されたのは、やはり俳優陣にある程度スターパワーがあったからだと思われる。プリヤンカー・チョープラーはキャリアの絶頂期にあるし、ゴーヴィンダーも、政界を引退して俳優業に集中するようになり、再び脚光を浴びるようになっていた。
しかしながら、作りそのものが古い上に、10年前に撮影された映像であるため、いくらゴーヴィンダーとプリヤンカー・チョープラーを主演に起用しているからといって、容易にヒットが望めるはずがない。まだデビューしたてのプリヤンカーの姿を懐かしむことができるのが多少楽しいくらいである。
ゴーヴィンダー演じるバサントが、ヒーローというよりアンチヒーローなのも「Deewana Main Deewana」の欠点だ。バサントは、親友と恋人の父親を殺してまで、プリヤーと結婚しようとする。その手段を選ばない残忍さには感情移入が難しい。もっとも、物語の最後で彼は、殺意をもって二人を殺したわけではないことを独白するが、それも本当かどうか検証はされていない。CBIの捜査官から二人が逃げるところで映像は止まり、後はナレーションで彼のその後が語られる。だが、尻切れトンボ感は否めなかった。もしかしたら当時、ここまでしか撮影できていなかったのかもしれない。
ひとつひとつのダンスシーンが長めだったのは時代を感じさせた。序盤、ゴーヴィンダーのイントロダクション曲といえる「Ek Rupaiya Deke」のダンスシーンなどは、しつこいくらい長かった。昔ながらのインド映画の作りである。
「Deewana Main Deewana」は、2013年公開作品ながら、撮影は10年前に行われており、デビューしたてのプリヤンカー・チョープラーや、まだ若いゴーヴィンダーなどの姿を拝むことができる。ほとんど見所はそれだけで、後は1990年代的古めかしさのある、粗悪な映画である。観なくていい映画だ。