Andaaz

3.5

 1ヶ月以上インド東部を旅行していて、見たい映画がかなり溜まっている。数週間前に封切られた、傑作っぽい雰囲気だった「Armaan」(2003年)はどうやら駄作だったようで、ロングランしていない。残念ながら見逃してしまったかもしれない。しかし2003年4月11日に封切られた「Andaaz」はまだ上映されているので、いい映画だということが予想された。また、ちょうどコルカタでは、市内で最も高級映画館と言われるパラダイス・シネマで「Andaaz」が上映されていたので、コルカタの高級映画館観光と映画鑑賞を兼ねて、「Andaaz」を観ることにした。チケットはバルコニーで60ルピー。デリーに比べたら半分以下の値段だ。平日の3時の回にも関わらず映画館は満員御礼状態。「Andaaz」がよっぽどいい映画なのか、コルカタ人は暇で映画好きなのか、はたまたただ単に涼みたいだけなのか。

 「Andaaz」のキャストはアクシャイ・クマール、プリヤンカー・チョープラー、ラーラー・ダッター、ジョニー・リーヴァルなど。プリヤンカー・チョープラーは2000年度のミス・ワールド、ラーラー・ダッターは2000年度のミス・ユニヴァースという豪華女優陣である。監督はラージ・カンワル。

 ラージ(アクシャイ・クマール)とカージャル(ラーラー・ダッター)は幼馴染みの親友だった。ラージは飛行機のパイロットになるのが夢で、パイロットになった暁には上空でカージャルにプロポーズをしようと心に決めていた。ラージは空軍に入隊し、1年半の訓練を受けて帰ってくる。

 ところが1年半の間にカージャルには恋人ができていた。カランという大金持ちで、ヘリコプターやセスナ機を所有しており、彼はカージャルに上空でプロポーズをした。カージャルはただラージに聞いてから返答すると答えていた。ラージが空軍から帰ってくると、カージャルはラージをカランに引き合わせる。カランはラージに、カージャルに対する気持ちを打ち明けて、どうか結婚する許可を与えて欲しいと頼む。自分の幸せより他人の幸せを選ぶ性格だったラージは、ついそれを承諾してしまう。

 カージャルとカランの結婚式の日。ラージは何とか気持ちをこらえて二人を祝福するが、最後には耐え切れなくなって会場を去る。それを見たカージャルは、ラージが自分を愛していたことに気が付く。しかしもう遅い。カージャルはラージに言う。「一人の大事な人が去ってしまったからと言って、人生が終わるわけではないわ。自分の幸せのために生きて、ラージ。」

 傷心のラージは、誰とも結婚する気にはなれず、ただ空軍の訓練に打ち込むだけだった。あるときラージはアメリカへ特別訓練を受けに行く。そこのディスコでジヤー(プリヤンカー・チョープラー)という遊び好きなインド人の女の子と出会う。ジヤーはラージに惚れ込むのだが、ラージは全く受け付けない。しかしジヤーは諦めない。必ずラージを自分のものにしてみせると決意する。

 アメリカでの訓練を終えてインドに帰ったラージは、自宅に新しくペイングゲストが住み始めたことを知る。なんとそれはジヤーだった。ジヤーは既に家族の心を掴んでおり、ラージはジヤーとの結婚を迫られる。家族の説得に折れたラージはジヤーとの結婚を承諾する。

 ところが、偶然にもジヤーは実はカランの妹だった。カランとカージャルの結婚式にはたまたま試験のために来ていなかったのだった。そして知らない間に大事件が起こっていたことをラージは知る。カランとカージャルは悪天候の中ヘリコプターで飛び立ってコントロールを失って墜落し、カージャルは助かったもののカランは死亡してしまった。だが、カランが死んだことを知ったカージャルは精神に異常をきたして植物人間同然になってしまっていた。

 カランはカージャルを必死に看病し、かつてカージャル自身がカランに言った言葉「一人の大事な人が去ってしまったからといって、人生が終わったわけではない」と語りかけ、彼女を正気に返らせた。カージャルはカランとジヤーが結婚することを知って喜ぶが、ラージの心は既にカージャルへと向かっていた。それを見たジヤーはショックを受け、一計を案じる。

 ジーヤーはカージャルをパーティーに招待し、赤色の派手なサーリーを着て、精一杯着飾ってくるように頼む。カージャルは「インドでは、未亡人はこんな派手なサーリーを着ることは許されない」と拒むが、ジヤーは強引に彼女を着飾らせる。パーティーで派手に着飾ったカージャルを見た年配の女性たちは眉をひそめる。だがジヤーは彼女たちに「夫が死んだからといって未亡人の人生が終わったわけではない」と言い放ち、さらに「今日のパーティーはカージャルの再婚のためのものだ」と突然宣言する。驚くカージャルの前に、花婿が現れる。カージャルが拒否するとジヤーは叫ぶ。「あなたはラージを愛しているから再婚しようとしないんだわ!」

 それを聞いたカージャルはむきになってその花婿から結婚指輪を受け取ろうとするが、それをラージが止めた。ジヤーはラージに「あなたとカージャルはどういう関係だっていうの!?」と言うと、ラージは「こういう関係だ!」と言ってカージャルの額にスィンドゥールを付ける。そして言う。「オレはカージャルを愛している!」

 実はジヤーは、ラージとカージャルを結びつけようとして全てのことを企画したのだった。ラージとカージャルが結婚するには、みんなの前で全てをさらけ出すしかなかった。他の人々も2人の結婚を祝福し、こうしてラージとカージャルは結ばれたのだった。

 インド映画にしかありえない強引なストーリーだったが、泣ける映画だった。前半がもっとも盛り上がり、後半の序盤は退屈で、終盤で「やれやれ何とかまとまった」という流れだった。

 まずは子供時代のラージとカージャルの出会いからストーリーが始まる。最初ラージは補助器を付けないと歩くことができない足の弱い子供だったが、カージャルの励ましのおかげで走れるようになり、やがてサッカーチームのエースにまでなるという設定だった。この辺りは完全に「フォレスト・ガンプ」(1994年)のパクリでちょっと白ける。そういえば「Rishtey」(2002年)でも同じようなシーンがあった。もういい加減あのガンプが走り出す感動的シーンの二番煎じはやめようよ・・・。

 ラージは子供の頃からカージャルに恋していたようで、空軍に入ったのもカージャルにプロポーズするためだった。ラージは、カージャルも自分のことを愛していることを疑っておらず、「『I Love You』の言葉がなくてもオレたちは愛し合っているんだ」と思っていたようだ。この辺りにアジアの男の心理の共通性を感じた。ところがどっこい、カージャルはどうも別にラージと結婚したいと思っていたわけではないようだ。空軍から帰って来たラージに、カランとの出会いからプロポーズまでを無邪気に語るカージャルにはムカッと来てしまった。ラージはいわゆる「いい人」だったため、ついついカランとカージャルの結婚を許してしまう。

 カランとカージャルの結婚式は前半のクライマックスであり、映画中もっとも泣けるシーンだ。インド映画の定型通り、結婚式シーンはミュージカルになるのだが、そこで歌われる歌がとてもいい。「恋をしたらすぐに気持ちを表すべきだよ、手遅れにならない内にね」というフレーズが繰り返される。涙をこらえながらラージがその歌を歌うのだ。また、カージャルがラージに言う「大事な人が去ってしまったからといって人生が終わったわけではない」というセリフもいい。この言葉は後半でラージがカージャルに返すことになり、物語の中で最もテーマ性のあるセリフだ。

 ジヤー役のプリヤンカー・チョープラーが登場する後半になって急に映画は安っぽくなってしまうのが残念だ。今回プリヤンカーはアメリカ在住のイケイケギャルを演じていたが、彼女にこういう役はあまり似合わない。インテリな役をやらせた方がいいと思う。ジヤーはラージのストーカーとなって彼を悩まし、やがてラージの実家にまで押しかける。こんなことするインド人女性が果たしているのだろか?現実味がない。

 ジヤーがカージャルの夫の妹だったことが発覚してから物語は再び悲劇性を増し面白くなる(それにしても強引過ぎる!)。カージャルはカランを失った悲しみのあまり植物人間になってしまっていたが、ラージはかつて彼女が自分を励ました言葉をそのまま返して彼女を回復させる。だが同時にジヤーの嫉妬が始まり、三角関係が発生する。

 インド人の観客が一番盛り上がったのは、このラージ、カージャル、ジヤーの三角関係を象徴的にミュージカルにした「Ishq Na Ho Jaye」だ。このミュージカルシーンはテレビでもよく流れており、ヒットしている。カージャルへ向かうラージ、どうしていいのか分からず立ち尽くすカージャル、そしてラージを我が物にしようとするジヤーが砂漠や海岸で踊りを繰り広げ、けっこうかっこいい。

 ジヤーは、ラージを手に入れるためなら手段を選ばない悪女のようなキャラクターへと変貌して行くが、最後の最後で、実はジヤーはラージの幸せのために自分の幸せを捨てる決意をしていたことが分かる。ラージとカージャルが結ばれたのはよかったのだが、ジヤーの決着は着いてない。第二のラージが生まれてしまったことになり、物語としては完結性に欠ける。

 映画の中で、インド社会における未亡人へのタブーについての批判がなされていたが、ちょっと唐突過ぎて蛇足だった。インド人の女性は、夫が死ぬと真っ白なサーリーを着ることしか許されず、装飾品も一切身に付けてはならない。未亡人の再婚も認められていないことになっている。だが、都市部を中心にこれらの習慣は次第にルーズになって来ている。

 「大事な人がいなくなったことは、人生の終わりを意味しない」という言葉は、インドの未亡人に向けられた言葉なのかもしれないが、どちらかというと失恋して落ち込む人への励ましの言葉と受け取った方が無難だろう。全体としてとてもいい映画なので、ブロークンハートな人々にオススメである。

 パラダイス・シネマはコルカタで最も高級な映画館とのことだったが、デリーの高級映画館と比べたら全然格下だった。音響がよくないのと、バルコニー席がスクリーンに遠すぎるのと、トイレや椅子が汚ないことがマイナス要因だった。コルカタはやはり斜陽の都市のようだ。


Andaaz (2003) - Full Movie HD - Akshay Kumar - Priyanka Chopra - Lara Dutaa - #18YearsOfAndaaz