The Hero: Love Story of a Spy

3.5

 2003年のヒンディー語映画の運命を占う試金石となるだろう映画が2003年4月11日から公開された。サニー・デーオール主演の「The Hero」である。サニー・デーオールは2001年のメガヒット映画「Gadar: Ek Prem Katha」や同じく2001年末公開の「Indian」に出て以来ずっと銀幕から遠ざかっていた。サニー・デーオールは「Gadar」でインド人のヒーローとしての地位を完全に確立しており、彼を現在のインド人俳優のナンバー1に挙げる映画ファンも多い。彼が1年以上の沈黙を破って登場するということで、大衆からかなり期待されており、またプロモーションもかなり大々的に行われていた。この映画がもし万一あっけなくこけてしまうと、2002年に引き続き2003年のヒンディー語映画界にも暗雲が立ち込めることになってしまう。チャーナキャー・シネマで鑑賞した。

 「The Hero」の副題は「Love Story of A Spy」。主演はサニー・デーオール、プリーティ・ズィンター、そしてもう一人のヒロインは、2002年ミス・ワールドのプリヤンカー・チョープラー。この作品がデビュー作である。他にアムリーシュ・プリー、カビール・ベーディー、ラージパール・ヤーダヴなど個性的な俳優が脇を固めていた。監督はアニル・シャルマー。

 カシュミール独立のために暗躍するテロリスト、イサーク・カーン(アムリーシュ・プリー)らは、なんとか核兵器を手に入れようと画策する。ところがそれを阻止して来たのがインドが誇る敏腕スパイ、アルン・カンナー(サニー・デーオール)だった。彼は変装の名人で、戦闘能力にも長けていた。イサーク・カーンらにとってアルンは天敵だった。今回、アルンはラヴィ・バトラー少佐になってカシュミールの国境地帯を守備していた。

 駐屯地の村でアルンは一人の羊飼いの娘と出会う。彼女の名前はレーシュマー(プリーティ・ズィンター)。レーシュマーは印パ分離独立時に現在のパーキスターン領から逃げてきたヒンドゥー教徒家族の子だった。彼女の両親は死んでしまい、イスラーム教徒の老夫婦が彼女を育てていた。アルンはレーシュマーと恋に落ちる。

 そんなとき、テロリストのアジトで女の召使いが必要になっているという情報を得る。スパイを送り込むチャンスだ。アルンはレーシュマー以外にその役を果たせないと判断する。なぜなら彼女の方言はその地方のものだからだ。アルンは彼女を訓練し、スパイとして敵地に送り込んだ。

 レーシュマーはアジトで信頼を得ながら情報を逐一インドに送っていた。ある日そのアジトにイサーク・カーンらテロリストたちが集結する。彼らは自らの手で核兵器を製造する計画を協議していた。レーシュマーはその情報をインドに流そうとするが失敗し、正体がばれてしまう。レーシュマーはアジトを逃げ出し、間一髪のところでアルンに救われる。

 カシュミールでは新年会が行われた。主役はスパイとしての任務を果たしたレーシュマーだった。そして同時にアルンとレーシュマーの婚約式であることもアナウンスされた。皆は二人を讃える。ところがその会場をイサーク・カーンは爆弾で爆破する。レーシュマーは行方不明となり、アルンは敵方を欺くだめ、死亡したという報道が流された。イサーク・カーンも姿をくらます。

 しばらくイサーク・カーンの所在が分からない状態だったが、やがてカナダにいるという情報を得る。レーシュマーを失って悲しむアルンだったが、任務は任務、彼はカナダへ飛ぶ。一方、レーシュマーはパーキスターンまで流れ着いていた。彼女はあるパーキスターン人の医者に救われるが、足を損傷しており、歩けない状態だった。また、アルン死亡の報を聞いて落ち込んでいた。医者は彼女の足を直すためにカナダへ彼女を連れて行くことにした。こうして運命の導きにより、アルンとレーシュマーはカナダへ行くことになった。

 レーシュマーはある大きな病院で治療を受けていた。彼女の治療を担当していたのが、院長ザカリヤー(カビール・ベーディー)の娘、シャイラー(プリヤンカー・チョープラー)だった。レーシュマーはカナダに来てアルンが生きていることを直感で察知し、再び歩けるようになるようリハビリに精を出す。

 一方、カナダでアルンはワヒード・カーンという科学者になりすまして、核兵器が製造されていると疑われる病院に忍び込む。その病院はまさにレーシュマーが入院している病院だった。彼はシャイラーにも近付いて恋仲となり、婚約者となり、父親にも認められ、やがて核兵器開発のメンバーに入ることになる。彼はイサーク・カーンらテロリストらとも再会を果たすが、彼らはその科学者がアルン・カンナーであることには全く気が付かなかった。

 ワヒードとシャイラーの結婚式が行われた。そこでアルン(ワヒード)はレーシュマーと劇的な再開を果たす。二人はお互いにお互いの存在に気が付くが、言葉を交わすことはしなかった。レーシュマーは悲しみを胸に故郷へ帰る。

 ワヒードは遂にカナダにあるテロリストのアジトにも連れて行ってもらえたが、そこで正体がばれてしまった。しかしカナダの特殊部隊が救援に駆けつける。イサーク・カーンらは列車を乗っ取って乗客を人質にとり、必死に抵抗するが、アルンの超人的な活躍によって全員抹殺される。その間、シャイラーはイサーク・カーンに殺されてしまった。

 カシュミールに戻ったアルンはレーシュマーに会いに行き、二人は再開を果たす。

 カシュミール分離独立派テロリストとインドの英雄的スパイとの戦いを描いたアクション映画、と思わせておいて実はロマンスの度合いが強い映画だった。途中アルンとレーシュマーが離れ離れになり、お互いにお互いの生死が分からなくなるところは、「Gadar」のプロットと似通っている。しかし、その後舞台がカナダに移って、シャイラーという第二のヒロインを登場させることで、「Gadar」の二番煎じにならずに済んでいた。

 サニー・デーオールは今回沈着冷静な男を演じており、いつものように雄叫びを上げるシーンは少なかったが、百面相のような変装が面白かった。特に科学者に化けたときの彼のスタイルはけっこうかっこいい。今回見ていて、彼の目の動きの魅力に気が付いた。彼の重たそうな目蓋が一瞬さっと目を覆い、下に視線をアンニュイに落とすしぐさが渋い。デーオール兄弟(サニー、ボビー、イーシャー)の中では、僕はサニー・デーオールが一番好きである。

 プリーティ・ズィンターはカシュミールの素朴な牧女を演じていた。彼女は「Mission Kashmir」(2000年)でもカシュミール人の女の子を演じていたが、カラフルなバンダナを頭に巻いたプリーティはかなりキュートだ。演技もこの映画の中でもっとも光っており、ますます彼女の成長に期待がかかる。彼女が出る映画は全部清涼感あふれる映画になるから好きだ。

 この映画でもっとも美しいシーンは、ワヒードとシャイラーの結婚式だ。そこでワヒードに変装したアルンとレーシュマーは念願の再開を果たすわけだが、そのときアルンはシャイラーの花婿になっていた。レーシュマーはアルンが生きていたことに喜びつつも、悲しみの涙を流す。アルンもレーシュマーが生きていたことに涙を流すが、スパイとしての任務を果たすために心を鬼にして平静を保つ。この2人の表情がこの映画の中でもっとも魅せたかった部分であり、もっとも俳優が高度なレベルの演技を要求された部分だろう。映画の副題「Love Story of A Spy」は非常に的を得ていると感じた。

 新人のプリヤンカー・チョープラーは、最近のヒンディー語映画界で流行のスレンダー系若手女優の一人にカテゴライズされるだろう。だがやはりミス・ワールドに輝いただけあって、見分けがつきにくいスレンダー系女優の中にあって一際目立つ容姿を持っている。また、アメリカに留学していただけあって流暢なアメリカ英語を話す。ただ、腰周りがスリム過ぎるような気がしてならない。なんか胸と比べて不安定ではないだろうか・・・?踊りにも少し不安が残った。どちらにしろ、2003年期待の新人女優である。

 その他、カシュミール地方の風景や風俗が割と忠実に再現されていてよかったと思う。ロケ地はおそらく大部分がヒマーチャル・プラデーシュ州(クッルー、マナーリーなど)だろうが、カシュミールっぽい雰囲気は出ていた。ムスリムの登場人物が多かったので、言語はウルドゥー語彙が意識的に多く使われていた。

 音楽は「Gadar」と同じくウッタム・スィン。耳に残る曲がいくつかあってなかなかよかったと思う。サニー・デーオールはあまり踊らなかったが、ダンス・シーンもほどほどの派手さでよかった。

 おそらく「Gadar」ほどの大ヒットは記録しないだろうが、インド人が好むポイントは押さえて作ってあるように感じたので、ロングラン・ヒットしてもおかしくないだろう。