最近デリーはちょっとした異常気象だ。夏の到来を祝うホーリー祭の前だというのに小雨がパラパラ。気温もグッと下がってしまった。今日はバイクで出掛けるのをやめて、オートリクシャーに乗ってPVRプリヤーで、2006年3月10日公開の新作ヒンディー語映画「Malamaal Weekly」を観た。
「Malamaal Weekly」とは、「毎週お金がザックザク」みたいな意味。監督は「コメディーの帝王」プリヤダルシャン、音楽はウッタンク・ヴィナーヤク・ヴォーラー。キャストは、オーム・プリー、パレーシュ・ラーワル、リテーシュ・デーシュムク、ラージパール・ヤーダヴ、リーマー・セーン、スダー・チャウハーン、アスラーニー、シャクティ・カプール、アルバーズ・カーン、イノセントなど。
一見何の変哲もないように見えるラハウリー村。だが、数年前に村を襲った旱魃により、村人たちは冷酷な女領主カラムカーリー(スダー・チャウハーン)に多額の借金をせざるをえず、未だに利子すら返せずにいた。カラムカーリーの弟、バージバハードゥル(ラージパール・ヤーダヴ)は姉の権威を傘に村人たちに対して威張り散らしていた。リーラーラーム(パレーシュ・ラーワル)は村で唯一読み書きのできる男だったが、頭はよくなく、宝くじを販売して生計を立てていた。牛乳売りのバルワーント(オーム・プリー)の家では、象使いチョーキーラール(アスラーニー)の息子カナイヤー(リテーシュ・デーシュムク)が小間使いとして働いていた。カナイヤーはバルワーントの娘のスクマニー(リーマー・セーン)に恋していた。だが、バージバハードゥルもスクマニーに恋しており、スクマニーはバージバハードゥルと結婚することに決められてしまった。 ある日、リーラーラームの売った宝くじの中に1千万ルピーの当選くじがあることが分かる。リーラーラームは賞金を一人占めにしようと企む。当選者はキリスト教徒で大酒飲みのアンソニー(イノセント)であった。ところが、リーラーラームがアンソニーの家を訪れると、アンソニーは当選の喜びの余りショック死した後だった。リーラーラームはアンソニーの手から当選くじをもぎ取ろうとするが、その場を偶然訪れたバルワーントに見つかってしまう。リーラーラームは宝くじのことを打ち明け、賞金を山分けすることを提案する。バルワーントもそれを承諾する。リーラーラームとバルワーントはアンソニーの死体を河に捨てようとするが、その様子をカナイヤーに見られてしまう。カナイヤーは、スクマニーとの結婚を条件に他言しないことを約束する。 ところが、アンソニーは宝くじのオフィスに自分が当選したことを既に伝えてしまっていたことが発覚する。アンソニーが死んだことが分かったら、賞金もパーになってしまう。もうすぐ宝くじのオフィスから、当選者を確認しにインスペクターが来ることになっていた。そこで、バルワーントがアンソニーになりすましてインスペクターの確認をやり過ごすことになった。しかし、アンソニーは今まで借金していた村人たちに宝くじのことを教えてしまっていたため、彼ら全てで賞金を山分けすることになってしまった。 それからすぐにインスペクター(アルバーズ・カーン)が村にやって来た。バルワーントは、神父補佐のジョセフ(シャクティ・カプール)の助けを得て、何とかアンソニーになりすますことに成功する。ところが、ひょんなことから宝くじのことがバージバハードゥルにばれてしまう。バージバハードゥルも、他言しないためにスクマニーとの結婚を条件に出す。しかし、バージバハードゥルは手違いから別の女性と無理矢理結婚させられてしまう。こうしてカナイヤーとスクマニーは無事に結婚する。しかも結婚パレードのときにインスペクターがやって来て、1千万ルピーの為替手形を渡す。 ところが、全てを知ったカラムカーリーは、村人を金持ちにさせないため、事実をインスペクターに暴露しようとする。カラムカーリーはインスペクターの後を追う。その後をリーラーラームら村人たちも追う。だが、カラムカーリーの乗ったサイドカー付バイクはインスペクターの自動車にぶつかって河に落ちてしまう。そのままカラムカーリーは溺れ死んでしまった。インスペクターは狼狽するが、村人たちは村の独裁者がいなくなったことに大喜び。 ラハウリー村の交差点には、今ではアンソニーの立派な銅像が立ち、リッチになった村人たちから礼拝されていた。ただ、アンソニーの像に牛の糞を投げつける者が1人だけいた。姉を失って一気に乞食になってしまったバージバハードゥルであった・・・。
プリヤダルシャン監督が得意とする、大人数の登場キャラクターが入り乱れるハチャメチャコメディー映画。2006年最初の大爆笑映画である。昨年11月のディーワーリーに公開された同監督の2作品「Kyon Ki…」(2005年)や「Garam Masala」(2005年)とは比べ物にならないくらい面白い作品であった。プリヤダルシャン監督、本領発揮である。
まず、インドの農村が舞台になっていたところがよかった。インドの農村の様子や人間模様、例えば村人たちを一生奴隷扱いしようとする領主、村の長たちが集まって重要事項を決めるパンチャーヤト、牛乳に水を入れて売る牛乳売り、大学まで進学してもまともな仕事に就けずに仕方なく宝くじを売っている者など、非常に生き生きとしていた。村人たちが話す言語からは、舞台となっているラハウリー村は北インドのどこかの農村だと推測することができるが、村にキリスト教徒が住んでいたり、教会があったりするのは北インドっぽくない。おそらくプリヤダルシャン監督の故郷ケーララ州の村が実際の舞台となっているのだろう。ケーララ州はインドの中でもキリスト教人口の多い州である。
宝くじに大当たりしてから繰り広げられるハプニングの連続は、日本のコント劇でもよくありそうな展開である。その笑いは村の風景と同じく、おそらくどこか懐かしく、郷愁を誘うだろう。セリフによる笑いあり、アクションによる笑いありで、言葉が分からなくても十分大爆笑できる。特に最後のチェイスシーンは大笑い間違いなしであろう。バージバハードゥルがサドルのない自転車に乗ったり、リーラーラーム、バルワーント、カナイヤーらが次々にバイクに捕まって数珠繋ぎになっていくシーンなどが秀逸。飼い葉の山の中に車が突っ込んで、そのまま進んでいくお約束のシーンもあり。「Muthu」(1995年/ムトゥ 踊るマハラジャ)でも同じようなシーンがあったのは記憶に新しい。
配役は申し分ない。適材適所という言葉がピッタリであった。インド最高のコメディアンの1人、パレーシュ・ラーワルはやはり面白すぎるし、現在ブレイク中のコメディアン、ラージパール・ヤーダヴも猿のようなアクションで大笑いさせてくれる。オーム・プリー、アスラーニー、シャクティ・カプールらベテラン俳優陣もよかった。特筆すべきはリテーシュ・デーシュムク。デビュー当時は全く注目していなかったが、いつの間にかいい俳優になっている気がする。ヒロインのリーマー・セーンも、いかにも村の娘という感じでよかった。ほとんど死体役を演じていたイノセントは、マラヤーラム語映画の俳優のようだ。
コメディー中心の映画で、ミュージカルシーンはほとんどなかった。それでも、リーラーラームが宝くじ購買者たちのために開いた宴会のナンバー「Kismat Se Chalti Hai Duniya」は印象に残るだろう。セクシーボディーの「アイテムガール」女優ラーキー・サーワントがセクシーな踊りを披露する。
2006年は今のところ、1ヶ月に1、2本の割合でいい映画が公開されているが、「Malamaal Weekly」は今年最も面白いコメディー映画のひとつになりそうだ。何度も繰り返すが、僕はインド映画の真骨頂はコメディーにあると信じて疑わない。