マディヤ・プラデーシュ州の映画振興政策

 2026年3月25-31日にデリーのプラガティ・マイダーンにて第1回デリー国際映画祭(IFFD)が開催された。この時期たまたまデリーに滞在しており、2日目となる3月26日だけ映画祭をのぞくことができた。映画祭なので映画の上映が主になるのだが、IFFDの特徴として、著名な映画関係者のティーチインがあり、聴講することができた。2日目には「Laapataa Ladies」(2023年/邦題:花嫁はどこへ?)に出演の俳優ラヴィ・キシャン、「RRR」(2022年/邦題:RRR)などの脚本家として知られるヴィジャエーンドラ・プラサード、キャスティング監督の第一人者ムケーシュ・チャーブラーなどの講義を聴くことができた。

 また、展示部門ではトゥリー・インド学研究センターの全面的な協力の下、インド映画関連のメモラビリア展示があった。同センターの創始者ネヴィル・トゥリーはインド映画グッズ収集家として有名であり、「Sholay」(1975年)の巨大ポスターや「Mughal-e-Azam」(1960年・2004年)の貴重なポスターなど、圧倒的な展示だった。なぜか日本映画のポスターもいくつか展示されていた。

デリー国際映画祭の展示部門

 展示部門と同じ会場では主にインド各州がブースを出しており、映画ロケ誘致アピールなどを行っていた。やる気のないブースもあったのだが、デリーとマディヤ・プラデーシュ州のブースは本気で、両州が映画メーカー向けに発行しているパンフレットを入手した。デリーのパンフレットはどちらかといえば、ロケに最適なデリー各地の旧所名跡を紹介すると同時に、過去にデリーでロケをした経験のある映画メーカーたちのインタビューが掲載された推薦文集であったが、マディヤ・プラデーシュ州のパンフレットは映画振興政策の内容がしっかりと網羅されていた。

 確かに最近のインド映画では、マディヤ・プラデーシュ州でロケが行われた作品が目立つ。「Stree」(2018年)や「Stree 2: Sarkate Ka Aatank」(2024年)が代表的だ。そのような映画の冒頭には「The Heart of Incredible India」というキャッチフレーズと共にマディヤ・プラデーシュ州観光局のロゴも入るのですぐに分かる。同州政府はかなり本気で映画ロケ誘致を行っており、しかもその成果が現れ始めていると感じる。では、どのような振興策を採っているのだろうか。

 IFFD2026で入手した「Madhya Pradesh Film Tourism Policy 2025」と題されたパンフレットをめくってみると、まずは「If you have a story to tell, we have a place for you to shoot(あなたが伝えたい物語を持っているなら、私たちは撮影に最適な場所を持っています)」と書かれている。そして、マディヤ・プラデーシュ州の強みとして、以下の点が挙げられている。

  • 中央に位置し、空路と鉄道でインドの全ての主要都市から卓越した接続性があります。
  • 労働力が簡単に手に入り、環境が安定しています。
  • 一年を通して理想的な気候です。
  • ヒンディー語が話されている州なのでコミュニケーションが簡単です。
  • ホテルがどこにでもあり、支援インフラも充実しています。
  • 現地にイベントマネージメント会社やラインプロデューサーがいます。
  • 柔軟に料理を提供できます。
  • 認可取得が簡単です。

 そして、この振興策のヴィジョンは、このようにまとめられている。

マディヤ・プラデーシュ州を主要な映画フレンドリー州にし、州内の映画産業を通して投資と雇用の機会を増やす

 州政府内には映画振興政策の実施を専門にした映画ファシリテーション部門(FFC)が設置され、ロケ地撮影許可のシングル・ウィンドウ・クリアランスなどの役割を担っている。

 注目したいのは助成金である。マディヤ・プラデーシュ州政府は同州内で撮影された映画に対して助成金を出している。助成金の額や条件は映画の種類(長編映画、ドラマ、ドキュメンタリー映画など)によって異なる。長編映画については、撮影日程の75%以上を同州で撮影することが助成金給付の条件になっており、同州で何度も撮影することで助成金が増額されていくシステムになっている。1本目の映画については1,500万ルピー、または同州で支出された総製作費の25%の内の低い方が適用され、2本目はその額が1,750万ルピー、3本目はその額が2,000万ルピーに増額される仕組みだ。なお、これはインド人映画メーカーが作る国内映画の場合である。国際的に上映される国際映画の場合、同州での10日以上の撮影を条件として、助成金額は1億ルピーが上限になる。

 興味深いのは、映画の内容や使用言語に従ってボーナス規定がいくつか提示されていることだ。これらの内の複数が同時に適用されることはなく、映画プロデューサーは当てはまるものの中からひとつを選ばなければならない。

  • 助成金を受けた映画が同州の観光振興に有益だと判断されると、500万ルピーが追加される。
  • 同州の地元言語(ブンデールカンディー語、マールヴィー語、バゲールカンディー語、ニマーリー語や、ビーリー語、ゴーンディー語、コルク語などの部族言語)で作られた映画には150万ルピーを上限として助成金が10%増しとなる。
  • ポジティブな子供関連映画には、同じように150万ルピーを上限として助成金が10%増しとなる。
  • 女性のエンパワーメントに関連する女性中心のポジティブな社会派映画には、150万ルピーを上限として助成金が10%増しとなる。また、撮影班が女性主体の場合、250万ルピーが追加される。
  • マディヤ・プラデーシュ州の有名な歴史的、文化的、宗教的な人物を描いた映画には、250万ルピーを上限として助成金が10%増しとなる。
  • タミル語、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語、ベンガル語、マラーティー語で作られた映画は、これらの言語が話されている州からマディヤ・プラデーシュ州への観光客誘致につながるため、助成金が10%増しとなる。

 映画は芸術であると同時に商業的な商品でもある。作品が完成しただけで満足していい代物ではない。作品完成後、きちんと興行を実現させ、製作費を回収することが至上命題になる。その際に一定額の助成金が得られるのは大変ありがたく、各州が提供している助成金制度が映画作りに少なくない影響を及ぼすのは想像に難くない。

 女性のエンパワーメントに代表されるが、上記の条件に挙げられている事項は、2010年以降のインド映画のトレンドと見事に一致する。我々は映画を鑑賞すると、どうしてもその作品の裏に純粋に監督の創造性を求めてしまう。作品に込められたイデオロギーや発せられるメッセージも気になるもので、そこから政権与党への忖度や当局からの圧力などを勝手に読み取ってしまうこともある。だが、実際には資金調達を容易にするために各州が出している助成金の条件に映画を合わせるという選択肢を採る映画メーカーも多くいるはずである。この辺りが映画という製作物の面白い部分だ。逆にいえば、政府は助成金を通して映画のトレンドをある程度コントロールできるということだ。

 ちなみに、マディヤ・プラデーシュ州の映画振興政策には、低価格で映画を鑑賞できるシングルスクリーン館を振興しようとしている意図も読み取れる。シングルスクリーン館を建設したり、閉館したシングルスクリーン館を復活させたりすると、一定額の助成金が出るのである。これはインドの映画文化の維持と発展の上で非常に重要な政策だ。

 映画振興政策ではマディヤ・プラデーシュ州がかなり先進的な試みをしていると感じるが、他州も負けじと追随している。やはりインド人民党(BJP)が与党の州でこのような映画振興政策が積極的に採用されている傾向が強く、たとえばウッタル・プラデーシュ州もかなり力を入れて映画ロケなどを誘致しているはずである。近年は同州ロケの映画も多い。