Tu Yaa Main

3.0
Tu Yaa Main
「Tu Yaa Main」

 2026年2月13日公開の「Tu Yaa Main(君か僕か)」は、水が抜かれた潜水用プールの底にワニと共に取り残さてしまった男女2人が脱出するまでを描いたハラハラドキドキのスリラー映画である。タイ映画「The Pool」(2018年)の公式リメイクである。

 プロデューサーは「Raanjhanaa」(2013年)などのアーナンド・L・ラーイ。監督は「Dange」(2024年)などのビジョイ・ナンビヤール。主演は、「The White Tiger」(2021年/邦題:ザ・ホワイトタイガー)などのアーダルシュ・ゴウラヴと、「Aankhon Ki Gustaakhiyan」(2025年)のシャナーヤー・カプール。他に、パールル・グラーティー、アムルター・カーンヴィルカル、パールヴァティー・ティルヴォートゥ、シュリーカーント・ヤーダヴなどが出演している。

 ムンバイーのスラム街で生まれ育ったマールティ・カダム(アーダルシュ・ゴウラヴ)は、ラッパー「アーラー・フロウパーラー」としてYouTubeでフォロワーを伸ばしていた。マールティは、「ミス・ヴァニティー」というハンドルネームで有名なインフルエンサーのアヴァニー・シャー(シャナーヤー・カプール)にコラボを申し込み、それがきっかけでデートを重ねるようになる。アヴァニーは裕福な生活をしていたが、父母を水難事故で亡くしていて、その孤独を埋めるようにインフルエンサーをしていたが、いつしかマールティを心の拠り所と考えるようになっていく。

 アヴァニーの妊娠が発覚し、シャー家では彼女をゴアに送って中絶させることにする。マールティも、子供ができたらラッパーとして成功できなくなると脅され、中絶に賛成する。そして、アヴァニーと彼女の飼い犬ポポをバイクに乗せてゴアへ向かう。だが、途中でバイクが故障し、親切な警察官ターウデー(シュリーカーント・ヤーダヴ)の支援もあって、近くにあるダイビングクラブに宿泊させてもらうことになった。アヴァニーはまだ中絶について心が定まっておらず、それが原因でマールティとケンカをする。翌朝、アヴァニーはリラックスするため、施設内にある潜水用プールにフローティングベッドを浮かべ、その上に寝転がってヘッドフォンで音楽を聴くことにした。その間、マールティはバイクを直しに近くのガレージに行く。

 ところで、この近隣地域ではワニが頻繁に出没していた。ダイビングクラブにもワニが現れ、管理人のヴァサンターを食い殺してしまった。いつの間にかプールの水が抜かれ、アヴァニーが気付くと数mの高さのあるプールの底に横たわっていた。アヴァニーは何とか脱出しようとするが、落ちてきたリクライニングチェアに頭をぶつけて気を失ってしまう。バイクを修理して戻ってきたマールティはアヴァニーを助けようとするが、誤ってプールの底に転落してしまう。携帯電話は壊れ、外部に連絡することもできなかった。

 マールティは排水口の蓋を開けて脱出できるか確かめようとするが、排水口の先は水がたまっていて、泳げない彼にとっては考えたくない脱出手段だった。排水口の蓋を開けたままにしていたら、そこから1匹のワニが入ってきてしまう。とりあえずワニはまだ大人しかったが、アヴァニーとマールティは怯えながら救出を待たなければならなくなる。

 しばらく大人しかったワニは、腹を空かせたのか、急に襲い掛かってきた。だが、ワニは排水口の中に落ち、二人は蓋を閉めて何とかしのいだ。だが、今度はワニがプールサイドに現れ、ポポを食べてしまった。嵐が激しくなり、プールの屋根に空いた穴から雨が降り注いできて、徐々にプールの水位が上がっていった。アヴァニーは排水口の先を調べにいき、そこでヴァサンターの携帯電話を入手して、ターウデーにSOSを送ることに成功する。駆けつけたターウデーはマールティがプールの底にいるのを見つけ、パトカーにロープをつないで助け出そうとするが、ワニに襲われて死んでしまう。ワニは2匹いた。だが、パトカーがプールの底に落ち、それを伝っていけばプールの上に上がれそうだった。

 アヴァニーとマールティはパトカーに入り込んで上を目指すが、ワニが襲い掛かってきた。アヴァニーはパトカーの中で拳銃を見つけており、それを使ってワニを撃退しようとするが、漏れたガソリンに引火して爆発してしまう。パトカーは燃え、1匹のワニは死んだ。もう1匹のワニがいるはずだった。アヴァニーはマールティを連れて排水口に入り、脱出を試みる。二人は何とか外に出ることができ、湖の岸辺に倒れ込む。

 題名が「君か僕か」、プロデューサーがロマンス映画で知られるアーナンド・L・ラーイ、そしてポスターの雰囲気も一般的なロマンス映画のそれとそう違わなかったため、若手俳優たちをカップリングしたロマンス映画かと思って映画を見始めた。ホラー映画調で始まるので驚くが、幽霊などが登場する正真正銘のホラー映画というわけでもなかった。どちらかといえば「サバイバル映画」のジャンルに含まれるべきスリラー映画であった。

 「Tu Yaa Main」の肝になっているのは、水のないプールの底からの脱出である。普通のプールなら水が抜かれても大人なら何とかはい上がれそうだが、この映画に登場するのは深さ5m以上ある潜水用プールである。5mの高さの壁をどうやってはい上がるかという挑戦に等しい。日常生活からそう遠くないところに存在する致死のトラップという着想は、「Trapped」(2016年)に近いものがある。

 とはいっても、ただプールの底に取り残されただけではスリラー映画としてのスリルを維持するためには力不足である。すぐにもうひとつの危機が追加される。それはワニである。インドの水郷地帯にはワニが生息しており、人が襲われることもある。物語はムンバイーを舞台にして始まるが、途中からムンバイーとゴアの間のコーンカン地方に移るが、ここはまさにワニの生息する水郷地帯である。排水口を通じてワニがプールに入り込んできてしまい、取り残された主人公たちを恐怖のどん底に突き落とす。

 サバイバル映画としてのこの基本軸に、主人公の男女の恋愛が重ねられる。いかにも現代的だが、主人公のカップルはどちらもYouTubeやInstagramなどで多くのフォロワーを持つインフルエンサーである。また、階層差も設けられている。マールティがスラム街育ちの貧困者であるのに対して、アヴァニーは裕福な家庭に生まれ育った都市上位中産階級だ。普通ならば出会うこともないこの二人が、SNSを通じて心を通い合わせる。家族構成でも差が付けてある。マールティとアヴァニーのどちらにも父親はいないが、マールティには母親がいる。アヴァニーの両親は水難事故で死んでしまい、親戚に育てられていた。何不自由ない生活をしていたはずだが、アヴァニーにとっては本当の家族ほどうらやましいものはなかった。アヴァニーはマールティの家族にそれを見出す。

 出会いから一気に二人は恋人関係になり、そして肉体関係になる。かなり陳腐ではあるが、二人の関係の転機になるのはアヴァニーの予定外の妊娠だ。ラッパーとしてビッグになってスラム街から抜け出すという野望を抱いていたマールティにとって、まだ子供は早かった。だが、幼い頃に両親を亡くしていたアヴァニーは、この子供こそ自分の孤独を癒やしてくれる存在なのではないかと思い始める。この迷いが二人の関係に亀裂を生じさせる。それでも、プールの底にワニと共に閉じこめられるという極限体験を経て二人は絆を取り戻す。おそらくアヴァニーはこのまま子供を生むのだろう。

 ベースとなっているタイ映画は未見なので、どこからどこまでがオリジナルにあった要素なのかを特定することはできないが、インド映画らしくない部分も少し感じた。たとえば結末は、マールティとアヴァニーが生還したところで終わっているが、その後のことには全く触れられていなかったし、お互いの家族の存在も全く忘れ去られてしまっていた。家族を大事にしない映画からはインド映画らしさを感じない。

 サンジャイ・カプールの娘シャナーヤー・カプールは2025年のデビュー以降、盛大に売り出し中だ。「Tu Yaa Main」も、アーダルシュ・ゴウラヴの映画というよりはシャナーヤーのローンチ映画シリーズの一本という印象を受けた。悪くはない。悪くはないが、飛び抜けたものも感じない。何度かチャンスを与えられ続ければ出世作にも巡り会えるだろう。

 マールティはラッパーという設定であり、音楽には「Gully Boy」(2019年/邦題:ガリーボーイ)的な、ムンバイーのスラム街で使われるタポーリー・バーシャーによるラップが使われていた。マールティと仲間たちが話すヒンディー語も、かなり訛ったタポーリー・バーシャーだったので、標準ヒンディー語の知識のみでは聴き取りが困難である。

 「Tu Yaa Main」は、硬派な作風に定評のあるビジョイ・ナンビヤール監督がタイ映画を翻案して作ったサバイバル映画だ。潜水用プールの底に閉じこめられたらどう脱出するかという難題を突き付けられる。幽霊などの非現実的な事象を持ち込むよりも、日常の延長線上に潜む危険を脚色してスリラー映画化してくれた方がスリルが出る。その点でこの映画は成功していた。ただ、元のタイ映画の影響なのか、インド映画としては薄味かつ違和感があった。あまり難しいことは考えず、単純なスリラー映画として楽しむのが吉である。