Vash: Level 2 (Gujarati)

3.0
Vash: Level 2
「Vash: Level 2」

 2025年8月27日公開のグジャラーティー語映画「Vash: Level 2」は、高く評価されたホラー映画「Vash」(2023年)の続編である。ストーリー上のつながりがある続編で、前作から12年後の設定になっている。キャストも共通している。「Vash」は未見なのだが、そのヒンディー語リメイク「Shaitaan」(2024年)は鑑賞済みだ。「Vash: Level 2」はヒンディー語版も同時公開され、その題名は「Vash Vivash: Level 2」になっている。ヒンディー語版を鑑賞した。

 監督は前作と同じクリシュナデーヴ・ヤーグニク。キャストは、ヒトゥ・カノーディヤー、ジャーンキー・ボーディーワーラー、ヒテーン・クマール、モーナル・ガッジャルなど。

 前作ではヒテーン・クマールが催眠術師プラタープを演じたが、本作では彼がその弟ラージナートを演じている。本作にプラタープも登場するため、彼は一人二役での出演となる。

 前作から12年後。JN女子高校で10人の生徒が屋上から一斉に飛び降りるという事件が起きる。しかも、食堂ではさらに多くの生徒たちが身動きできない状態になっていた。ラシュミカー校長(モーナル・ガッジャル)や警察は何が起こっているのか全く訳が分からない。親たちが子供たちを連れて行こうとしても、彼女たちは微動だにしなかった。その内、一人の生徒が警察に、「プラタープを見つけろ」というメッセージを伝える。その直後、数十人の生徒たちが突如校外に飛び出し、道行く人々を襲い始めた。

 アタルヴァ(ヒトゥ・カノーディヤー)はそのニュースを聞き、JN女子高校に駆けつける。アタルヴァは12年前に、娘アーリヤー(ジャーンキー・ボーディーワーラー)を催眠術に掛けたプラタープ(ヒテーン・クマール)を自宅に幽閉していた。アーリヤーに掛けられた催眠術は解けておらず、彼女はずっと微笑んだままの植物人間状態にあった。アタルヴァが「プラタープがどこにいるか知っている」と言うと、親に紛れて食堂に居座っていたラージナート(ヒテーン・クマール)が現れる。ラージナートは催眠術に掛かった生徒たちを使って警察を無効化し、親たちを追い出した後、残った生徒たちを引き連れてアタルヴァに道案内をさせる。

 アタルヴァはラージナートを自宅に連れて行く。プラタープ解放の条件としてアーリヤーに掛けられた催眠術の解除をラージナートに出した。ラージナートはアタルヴァに、プラタープに借りはないか聞く。アタルヴァはかつてプラタープにチャーイをおごってもらったことがあった。そこでチャーイの代金10ルピーをプラタープに返す。アーリヤーに掛けられていた催眠術は解け、彼女は正気を取り戻す。約束通りアタルヴァはプラタープを解放する。だが、プラタープの舌が切られていることを知ったラージナートは激怒し、アーリヤーを連れて行こうとする。アタルヴァはあらかじめ用意していたスピーカーから大音量を流して催眠術を打ち消し、ラージナートに反撃する。こうしてラージナートも捕らえることに成功した。

 インドでは「Stree」(2018年)や「Bhool Bhulaiyaa 2」(2022年)といったホラー・コメディー映画が全盛期を迎えているが、グジャラート語映画界発のこの「Vash」シリーズは硬派なホラー映画を貫き我が道を行っている。「Vash(制御)」という題名の通り、このシリーズは、呪いを含んだ食べ物を相手に食べさせることでその人を思いのままに操る催眠術を主題にしており、映画の中ではその術を駆使する者は「ラークシャス(羅刹)」と呼ばれている。

 本作は「Level 2」ということで、前作を超える規模の催眠術が期待される。前作では一人の女性が催眠術に掛かったが、今回は女子高校の食堂で食事をした生徒たち全員が催眠術に掛かってしまう。そういう意味ではスケールアップしている。10人の少女たちが屋上に立って次々に飛び降りるシーンや、数十人の少女たちが鬼の形相をして学校を飛び出し人々を襲うシーンなどは、ホラー映画としてインパクトがあった。

 ただ、今回の悪役ラージナートは、前作の悪役プラタープの弟という設定であった。ラージナートはプラタープから催眠術を習得しており、今回の犯行に及んだわけだが、兄を超える術を身に付けているわけではなさそうであった。12年前から行方不明になったプラタープを探すため、ラージナートは悲劇の現場となったJN女子高校の女学生たちを催眠術に掛けて世間を騒がしたのであるが、それは純粋に兄を探したいという気持ちの他に、兄からまだ学んでいない術があったことも理由だったようだ。つまり、「Level 2」とはいいながらも、実は前作よりも力の弱い悪役が登場する映画であったのだ。その点はスケールダウンといえる。ラージナートは意外に弱腰であり、むしろ冷静沈着なアタルヴァに操られていたところもあった。

 「Vash」では、プラタープの催眠術を破るため、アタルヴァは催眠術に掛けられた娘の耳をつぶし、プラタープの舌を切断した。ヒンディー語リメイクの「Shaitaan」では、娘の耳をつぶすことはせず、プラタープの命令を録音して使うという手段で代替していた。「Vash: Level 2」でアタルヴァが催眠術の対抗策として準備していたのがいくつものスピーカーである。スピーカーから耳をつんざく音を流すことで命令を聞こえなくし、催眠術を無効化したのである。だんだん対抗手段が安っぽくなっているように感じる。また、ラージナートが明かしたところでは、彼らの催眠術には有効期限があり、術を掛けられた者が術者から離れると数時間で術は解けてしまうらしい。前作に比べて催眠術の真相が明らかになってきたことで、この術に対する恐怖が薄れてしまったようにも感じる。

 なぜプラタープやラージナートが女性ばかりをターゲットにするかの理由についても触れられていた。ラージナートによると、男性が女性を操るのは当然のことだから、とのことだった。つまり、この催眠術は家父長制批判になっているということだ。家父長制社会では、女性が男性の優位性を認めてしまっている。それは催眠術のようなもので、この映画に登場する「ラークシャス」とは男尊女卑社会そのものということになるだろう。ただ、取って付けたようなこじつけのようにも思えた。

 「Vash: Level 2」は、高い評価を受け、ヒンディー語でもリメイクされたホラー映画「Vash」の続編である。確かに前作からスケールアップしている部分もあり、優れたホラーシーンもいくつかあった。だが、同時にスケールダウンしてしまっている部分も少なくなく、全てが前作を上回ったような印象はなかった。それでも、グジャラーティー語映画が急速に力を付けてきていることは十分感じられる作品である。