Logout

4.0
Logout
「Logout」

 近年、インドでもスマートフォン中毒が社会問題化しており、それに伴ってこの問題を取り上げた映画が増加傾向にある。2025年4月18日からZee5で配信開始された「Logout」も、スマートフォンに支配された現代人の生活に警鐘を鳴らすスリラー映画になっている。

 監督はアミト・ゴーラーニー。ウェブドラマ「Kaala Paani」(2023年)の監督として知られる人物である。脚本は「Jaadugar」(2022年)のプロデューサーと脚本を書いたビシュワパティ・サルカール。主演はバービル・カーン。他に、ラスィカー・ドゥッガル、ガンダルヴ・デーワーン、ニミシャー・ナーイルなどが出演している。

 プラティユーシュ・ドゥアー(バービル・カーン)はデリー在住のインフルエンサーで、彼のアカウント「Pratman」はもうすぐ1,000万フォロワーを達成する直前だった。

 ある晩、プラティユーシュはスマートフォンをタクシーに置き忘れてしまう。PCを開き、メッセンジャーアプリにログインすると、「Pratmaniac 1」というアカウントから連絡があった。「Pratmaniac 1」は女性で、「Pratman」の大ファンだった。彼女がプラティユーシュに電話したところ、タクシー運転手が出て、どうするか聞かれたとのことだった。安心したプラティユーシュは彼女に、昨晩の場所までスマートフォンを持ってきてほしいとタクシー運転手に知らせるように伝えた。だが、タクシー運転手は報酬3,500ルピーを求めてきた。しかも、1,500ルピーを前払いするように要求してきた。プラティユーシュはネット銀行を使って振り込もうとしたが、OTPが彼の携帯電話に送られてしまい、それ以上の手続きはできなかった。プラティユーシュは「Pratmaniac 1」に連絡し、OTP(ワンタイムパスワード)を教えるようにタクシー運転手に伝えさせるが、スマートフォンを開けないため、OTPを見られなかった。そこでプラティユーシュは彼女にスマートフォンを開くパスワードを教える。

 だが、すぐにプラティユーシュは、「Pratmaniac 1」の手元に既に彼のスマートフォンがあることに気付く。「Pratmaniac 1」は、今日が自分の誕生日だと明かし、スマートフォンに入っている彼の個人データを人質に取って、彼と一緒に過ごす時間を求めた。プラティユーシュは面倒なことになったと思いつつも背に腹は代えられず、彼女の要求に応えることになる。ただ、裏では彼女の正体を暴こうと必死になっていた。「Pratmaniac 1」は本名を名乗らなかったが、「SK」という頭文字だけは明かした。SKは、当初はグワーリヤルにいると言っていたが、実際にはデリーのサーケートにいることが分かった。プラティユーシュは彼女と会話をしながら、徐々に彼女の情報を集めていく。

 プラティユーシュは、彼女の名前がサークシー・キショール(ニミシャー・ナーイル)であることを突き止める。彼女の兄マーナスとも連絡が取れる。サークシーは日に20時間以上スマートフォンを利用するスマートフォン中毒者であり、彼女のせいで父親が倒れ、現在瀕死の状態にあることが分かる。サークシーはプラティユーシュに、1,000万フォロワー達成と同時に自分と心中することを求める。

 プラティユーシュはマネージャーのJD(ガンダルヴ・デーワーン)に頼み、サークシーの元に向かわせる。彼は拳銃も持っていた。JDから連絡があったため、プラティユーシュも彼女の住むマンションに向かう。ところがJDは殺されており、そこではサークシーが拳銃を持って待っていた。サークシーは生身のプラティユーシュに会えたことに感動しながらも、彼にライブ動画を撮らせ、目の前で1,000万フォロワー達成をさせようとする。だが、プラティユーシュはライブ動画中に泣き崩れる。そのとき彼のスマートフォンが鳴ったため、プラティユーシュは彼女から自分のスマートフォンを奪おうとする。サークシーは拳銃の使い方に慣れておらず発砲できなかったが、凶器で彼を襲う。だが、プラティユーシュはサークシーをねじ伏せ、自分のスマートフォンを破壊する。

 明らかに低予算の映画である。大部分が主人公プラティユーシュの部屋で進行する。だが、低予算でも脚本や演出が優れていれば、いい映画を撮ることができることを示す好例だ。全体に渡ってスリリングな展開が続き、画面に釘付けになった。

 主人公プラティユーシュは、最近ヒンディー語映画でも増えてきた「インフルエンサー」という肩書きの青年である。彼のアカウントのフォロワー数はもうすぐ1,000万人に達しようとしていた。インドにおいてトップの個人YouTuberは数千万人規模のフォロワー数を誇っているため、1,000万人というのはひとつの大台だといえるだろう。また、プラティユーシュはいわゆるデジタルサビー(Digital Savvy)であり、家の中のデジタル機器をネットワークに接続し、スマートフォンやスマートスピーカーによってコントロール可能にしていた。

 そんな彼がスマートフォンを紛失してしまい、彼の熱心なフォロワーがそれを手にすることになる。

 脚本家からすれば、ここからの展開はいろいろ考えられたはずである。もっともあり得る展開は、SNSの乗っ取り、プライベートな写真や動画の流出、銀行口座への不正アクセスなどであろうか。だが、相手が熱烈なファンだったことで、当初は大事に至らないことが予想されながら、結果的にもっとも恐ろしい展開に向かっていく。そこが非常にスリリングであったし、よくできていると感じた。プラティユーシュの人生の全てが詰まったスマートフォンを手にした女性ファンは、やがてサークシーという名前であることが分かるが、彼女は最終的に彼との心中を求めたのである。米映画「ミザリー」(1990年)に似た展開だ。

 題名が示唆するように、この映画はスマートフォンに依存する現代人にその恐ろしさを啓蒙する内容になっている。他人の手にスマートフォンが渡り、パスワードが知られてしまうと、悪用されることで全てを失うばかりかいいようにコントロールされてしまう。また、プラティユーシュもサークシーも、スマートフォン中毒に陥った挙げ句に両親や家族を二の次に考えるようになってしまう。携帯電話は英語で「Cell Phone」というが、「Cell」には「独房」という意味もある。地球上70億人が携帯電話の普及によって「独房」に入れられてしまっている現代の危機的な状況が浮き彫りにされていた。

 また、インフルエンサーがどういう存在なのかにも深掘りが行われていた。彼らはコンテンツを作成し、配信して、フォロワー数を稼ぎ、フォロワーたちを消費することで影響力を獲得して、企業からの案件獲得を求める。だが、次第にプラティユーシュは、自分自身がコンテンツになり、自分自身が消費されていることに気付く。これは、安易にインフルエンサーになることを夢見る若い世代に対する警鐘であった。

 「Qala」(2022年)でデビューしたバービル・カーンは、父親イルファーン・カーンの威光から抜け出すのに苦労しているように見える。「Logout」は、ほぼ単独の俳優による密室劇ということもあって、実力を示す大きなチャンスをもらえた。この後につながるいい演技であった。

 ちなみに、映画の中では、アラブ地方に伝わる悲恋物語「ライラーとマジュヌーン」が何度も引き合いに出されていた。「ライターとマジュヌーン」はインドでも非常に人気があり、映画の中でよく参照される。リンク先でその詳細を知ることができる。

 「Logout」は、低予算ながら優れた脚本と演出によって見応えのあるスリラー映画に仕上がっている。なにかとスマートフォンに依存して生活している我々は正座して観なければならない作品だ。バービル・カーンの好演も光った。OTT作品ながら、必見の映画である。