Dhoom Dhaam

3.0
Dhoom Dhaam
「Dhoom Dhaam」

 2025年2月14日、バレンタインデーにNetflixで配信された「Dhoom Dhaam(大騒ぎ)」は、女性主体の巻き込まれ型のロマンス・スリラー映画である。日本語字幕付きで、邦題は「ドゥーム・ダーム」になっている。

 監督はリシャブ・セート。元々TVドラマのプロデューサーで、過去に「Anwar」(2007年)などの助監督を務めたことがある。監督は今回が初である。主演は「A Thursday」(2022年)などのヤーミー・ガウタムと「Do Aur Do Pyaar」(2024年)などのプラティーク・ガーンディー。他に、パヴィトラ・サルカール、アイジャーズ・カーン、サーヒル・ガングールデー、イスマーイール・カーン、カヴィーン・ダーヴェー、ガリマー・ヤーグニク、ムクル・チャッダーなどが出演している。また、プラティーク・バッバルが特別出演している。

 グジャラート州で獣医をするヴィール・ポッダール(プラティーク・ガーンディー)はアレンジド・マリッジでムンバイー在住の女性コーヤル・チャッダー(ヤーミー・ガウタム)と結婚する。結婚式はムンバイーで行われた。ところがホテルの一室で初夜を迎えようとする彼らを訪ねる二人組の男があった。ビーレー(パヴィトラ・サルカール)とサテー(アイジャーズ・カーン)である。悪党風の彼らはヴィールに「チャーリー」の居所を聞く。ヴィールに心当たりはなく「知らない」と答えるが、二人は銃を出して脅してきた。コーヤルの機転で二人は逃亡に成功する。だが、式場に残っていた彼らの家族が人質に取られてしまった。

 そこへ、犯罪捜査局(CID)の警察官を名乗るサンジャイ・リベリロ(ムクル・チャッダー)から電話が掛かってくる。彼も「チャーリー」を探していた。彼は「チャーリー」について説明する。

 ムンバイー警察の悪徳警官が強盗をしたが、その現場を近くにあった電気店の監視カメラが捉えていた。その電気店を経営していたのがコーヤルの叔父にあたるクシュワント・カプール(カヴィーン・ダーヴェー)であった。クシュワントは監視カメラが強盗現場を録画したことに気づき、それを保存したUSBメモリーを警察に持ち込むが、その対応をしたのが悪徳警官の部下だった。クシュワントは逃げる途中にヴィールと遭遇し、彼が持っていた引き出物の袋の中にUSBメモリーを隠す。その後、クシュワントは捕まり尋問を受けた。USBメモリーをヴィールが持っていると考えた悪徳警官たちは彼を探していたのだった。また、USBメモリーがチャーリー・チャップリンの形をしていたため、「チャーリー」と呼ばれていた。

 そのときヴィールは引き出物を5袋持っていた。コーヤルはその5袋をバチャラー・パーティーのときに配ったことを思い出す。その内の2袋は親友のカニカー(ガリマー・ヤーグニク)に渡していた。コーヤルとヴィールはディスコでDJをする彼女に会いに行く。カニカーは、袋をアーリヤ(プラティーク・バッバル)の家に置いてきたと明かす。アーリヤはコーヤルの元恋人だった。コーヤルはカニカーの裏切りに怒りながらも彼に会いに行く。だが、アーリヤの手元にあった2袋には「チャーリー」はなかった。

 次にコーヤルとヴィールは、バチャラー・パーティーでストリップダンサーをしていたサニーに会いに行く。コーヤルはサニーに1袋渡していた。だが、その袋にも「チャーリー」はなかった。今度はコーヤルの友人で医学生のスハーナーに会いに行く。コーヤルがもらった袋にもやはり「チャーリー」はなかった。スハーナーの家の前でコーヤルは誘拐される。そこへビーレーとサテーもやって来るが、実は彼らこそがCIDの警察官だった。コーヤルを誘拐したのは、強盗をした張本人である悪徳警官サンジャイであった。

 残る1袋はコーヤルの家にあった。だが、一足先にサンジャイの部下たちがコーヤルの家を捜索していた。やはりそこにも「チャーリー」はなかった。そのときヴィールは、コーヤルの飼い犬トゥッスィーが「チャーリー」を食べてしまったと思い付く。ヴィールはトゥッスィーを連れてサンジャイから指定された場所へ行く。そこでヴィールは本領を発揮し、サンジャイを倒した後、部下たちとも戦う。コーヤルも参戦し、ヴィールを助ける。ビーレーとサテーも駆けつけ、サンジャイを逮捕した。

 最初から最後までヤーミー・ガウタムの映画であった。映画はまずヴィールとコーヤルのお見合いから始まる。コーヤルはおしとやかな女性として紹介されるが、どうも違和感があった。ヴィールとコーヤルはお互いを気に入り、縁談は成立する。だが、結婚式までにヴィールはコーヤルと二人きりで話す機会を作れなかった。お互いのことをよく知らないまま、二人は結婚する。だが、コーヤルは実は毎週末にレースをしているぐらい破天荒な女性だった。

 コーヤルの本性が発覚するのは、彼らが「チャーリー」と呼ばれるUSBメモリーを巡る騒動に巻き込まれたことがきっかけだった。臆病者のヴィールを尻目にコーヤルは悪党に相対しても一歩もひるむことなく、勇敢な行動を取り続ける。ヤーミーは、コーヤルの恐れ知らずな態度や達者な口ぶりを見事に表現して見せた。「Jab We Met」(2007年)のカリーナー・カプールや「Tanu Weds Manu」(2011年)のカンガナー・ラナウトに比肩する女丈夫ぶりであった。

 閉所恐怖症、高所恐怖症、水恐怖症を併せ持つ臆病者のヴィールは、自分と同じような大人しい女性が好みであり、コーヤルの豹変ぶりに失望する。しかも、アーリヤという元恋人がいたことまで知れてしまう。ヴィールは、この一件が済んだらコーヤルと離婚する気満々だった。ところが、一緒に危機をくぐり抜ける内に、常に全力で生きるコーヤルに惹かれていく。これは単なる「吊り橋効果」ではない。また、コーヤルも、ヴィールが最後の最後で見せた勇敢な姿に惚れ込んでしまう。

 結局、「チャーリー」の一件はあまりヴィールとコーヤルに関係なく、本当に彼らはたまたま巻き込まれただけだった。5袋あった引き出物のどれかに「チャーリー」が落ち、あちこちそれを探すことになるが、結局はコーヤルの飼い犬が食べてしまっていた。また、最初にヴィールとコーヤルの前に現れたビーレーとサテーが、悪党だと思っていたら実はCIDだった。これらは過去にどこかで見たような流れで、この部分からは特に目新しさを感じなかった。二人にとってはとんだ災難だったが、悪いことばかりではなかった。初夜から翌朝までのこの8時間のおかげで、ヴィールとコーヤルはお互いをよく知り合うことができ、真の夫婦になれたのである。

 悪党からの逃亡中にヴィールとコーヤルを助けてくれた警備員老夫婦の言葉がこの映画全体を貫くテーマだったといえる。たとえ恋愛結婚であれ、お見合い結婚であれ、結婚生活とは夫婦がお互いを知り合う過程である。その途中には仲違いもあるかもしれないが、お互いの弱点を認め合うことが夫婦円満の秘訣である。ヴィールとコーヤルも夜のムンバイーを走りまわる内にそれを実行できていた。

 ちなみに、ヴィールはグジャラート人であり、コーヤルはムンバイー在住のパンジャーブ人だ。どちらも商人階級になる。グジャラート人とパンジャーブ人は気性が正反対であり、相性は良くない。なぜこの二人がお見合いをすることになったのかは不明である。

 「Dhoom Dhaam」は、新婚夫婦がトラブルを通して真の夫婦になるまでを描いた映画だ。基本はロマンス映画だが、アクションあり、スリラーありの、退屈しない2時間弱であった。ただ、ストーリーラインには目新しさがなかった。主演ヤーミー・ガウタムの女傑な演技が最大の見どころである。