Anwar

3.5

 「Anwar」は2007年1月12日に公開されたヒンディー語映画である。この映画は音楽が素晴らしく、当時はサントラCDをよく聴いていたのだが、映画自体は長らく観たことがなかった。興行的にもフロップに終わり、映画館からすぐに消えたと記憶している。2022年1月1日にやっと鑑賞することができた。

 「Anwar」の監督は、「Matrubhoomi」(2003年)のマニーシュ・ジャーである。主演はスィッダールト・コーイラーラー。マニーシャー・コーイラーラーの弟である。ヒロインはナウヒード・サイルスィー。他に、マニーシャー・コーイラーラー、ラージパール・ヤーダヴ、ヴィジャイ・ラーズ、ヤシュパール・シャルマー、ヒテーン・テージワーニー、スディール・パーンデーイ、ラスィカー・ドゥッガル、サンジャイ・ミシュラーなどが出演している。

 ある雨の晩、アンワル(スィッダールト・コーイラーラー)はラージャスターン州ドールプルの廃寺で雨宿りをする。翌朝気付いてみると、ヒンドゥー教至上主義を掲げる政党に所属する大臣(スディール・パーンデーイ)が党員を率いて寺院を取り囲んでいた。寺院にテロリストが立て籠もっているということになっていたのである。アンワルは寺院の中に引きこもる。

 事件の取材にきたTV局のリポーター、アニーター(マニーシャー・コーイラーラー)はアンワルと接触する。アンワルは経緯を話し出す。

 ウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウーで生まれ育ち、大学のヒンディー語科に在籍しながら寺院の研究をしていたアンワルの家にある日、メヘルー(ナウヒード・サイルスィー)という女性が老いた母親と共に借家人として住み始める。アンワルはメヘルーに恋してしまう。アンワルは、師匠と見なしていたマスター・パーシャー(ヴィジャイ・ラーズ)の教えに従ってメヘルーとデートをするようになるが、メヘルーは米国に渡ることを夢見ていた。アンワルの親友で工学を学ぶウディト(ヒテーン・テージワーニー)は米国に留学しようとしており、メヘルーはいつの間にかウディトと仲良くなってしまう。そしてある日、ウディトはメヘルーを連れて逃げ出す。アンワルはメヘルーの親戚に彼らの居場所を明かす。ウディトは殺され、メヘルーは連れ戻される。その後、メヘルーは首を吊って自殺してしまった。

 アンワルは罪の意識を背負いながら旅に出て、このドールプルに辿り着いていた。アンワルは、寺院から出た途端に撃たれ、死んでしまう。

 911事件後、インドのイスラーム教徒が置かれた現状や、不寛容が広がるインド社会を背景にして、愛の様々な形が描かれた作品だった。

 メインとなるのは主人公アンワルの恋愛である。借家人として家に住み始めたメヘルーに恋をするが、彼女は米国に渡りたいという夢を持っており、金にならない学問をしているアンワルには関心がなかった。メヘルーは工学を学び、米国へのヴィザを取得したウディトに興味を持ち、接近する。ウディトはヒンドゥー教徒、メヘルーはイスラーム教徒で、二人の結婚が認められるのは困難だった。二人の仲を知ったアンワルも、宗教を理由に二人に警鐘を鳴らす。結局、ウディトはメヘルーを連れて駆け落ち結婚しようとするが、アンワルの密告によって居場所を知らされ、ウディトは殺され、メヘルーは連れ戻されてしまう。その夜、メヘルーは首吊り自殺をする。

 アンワル以外の登場人物もそれぞれ何らかの恋愛をしており、それぞれの恋愛模様に簡潔に触れられる。アンワルがいた寺院を取り囲む原因を作った大臣は、この事件が選挙に有利に働くと見てこういう動きをしていた。その大臣は、判事の妻を口説いていたが、振られてしまう。TV局のリポーター、アニーターも恋人らしき人と電話で口論をしていた。アンワルの師匠マスター・パーシャーは、ディープティという女性に恋していたが振られてしまう。このように、それぞれのキャラが恋愛に問題を抱えていたのである。

 また、インドの複雑な宗教模様も表現されていた。主人公のアンワルは、イスラーム教徒ではあったが、ヒンドゥー教寺院の研究をしていた。その興味から察するに、アンワルは宗教に関してはリベラルな考えを持っていたはずである。また、マスター・パーシャーから、クリシュナに身も心も捧げた16世紀の詩人ミーラーバーイーのことを聞き、愛の対象に全てを捧げて一体化するバクティ(信愛)型の恋愛を伝授される。映画中でスィッダールト・コーイラーラーが度々クリシュナの姿をして登場するのはそのためだ。

 だが、自分が片思いするメヘルーが、ヒンドゥー教徒のウディトと恋仲になったことで、アンワルは宗教のカードを切る。そして、ウディトがメヘルーと駆け落ち結婚すると、憤った親戚に彼らの居場所を教える。果たして、アンワルの期待通り、ウディトとメヘルーの駆け落ち結婚は阻止されるが、その結末は彼の想像を遥かに超えた残酷なものだった。その罪の意識が彼をドールプルの寺院まで連れてきたのである。おそらくウディトは同じ場所で殺されたのだと思われる。

 「Anwar」は音楽が素晴らしい。特に「Maula Mere Maula」と「Tose Naina Lage」の2曲は映画を超越して広く世間に受け入れられている。「Maula Mere Maula」は前半で使われており、映像も付けられていたが、「Tosa Naina Lage」はエンドクレジット曲であり、残念ながら映像はなかった。

 映画の中では、マニーシュ・ジャー監督の前作「Matrubhoomi」のポスターや映像が使われているシーンがあった。また、ちょっとした出来事が政治家やメディアのせいで大事件になってしまうという筋書きは、その後に公開された「Peepli Live」(2010年)と似ているとも感じた。

 「Anwar」は、愛、失恋、裏切りの物語である。様々な愛の姿を見せたいがために冗長な作りになっているのだが、アンワルの恋愛だけに絞ってもっと短くまとめても良かったかもしれない。音楽の素晴らしさによりヒンディー語映画史に名を残している作品である。興行的には失敗し、評論家の評価も高くないが、決して悪い映画ではない。