Bobby Aur Rishi Ki Love Story

1.0
Bobby Aur Rishi Ki Love Story
「Bobby Aur Rishi Ki Love Story」

 クナール・コーリー監督は、ヤシュラージ・フィルムスの下で「Hum Tum」(2004年)や「Fanaa」(2006年)などの優れたロマンス映画を撮ってきた映画監督である。ただ、ヤシュラージから独立した後はいまいちパッとせず、ロマンス映画専門でもなくなり、最近はすっかり寡作になっている。その彼が久しぶりに撮ったロマンス映画が、2025年2月11日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Bobby Aur Rishi Ki Love Story(ボビーとリシの恋物語)」である。

 まずインド映画ファンなら題名を見てピンと来るものがあるだろう。「Bobby」とは、ラージ・カプール監督のロマンス映画「Bobby」(1973年)でディンプル・カパーリヤーが演じたヒロインの名前である。この映画で本格デビューしたのがラージの息子リシ・カプールであった。それが題名の「Rishi」に対応している。

 主演は「Yeh Saali Aashiqui」(2019年)でデビューしたヴァルダーン・プリーと新人のカーヴェーリー・カプール。ヴァルダーンは「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)で厳格な父親役を演じたアムリーシュ・プリーの孫である一方、カーヴェーリーは「Bandit Queen」(1994年/邦題:女盗賊プーラン)や「エリザベス」(1998年)などで知られる名監督シェーカル・カプールの娘である。

 他に、リレット・ドゥベー、ラージ・ズトシー、スィーマー・ボーウリー、サミール・スーリー、ニシャー・アーリヤー、ソーナム・ナーンワーニーなどが出演している。

 ロンドン在住のリシ(ヴァルダーン・プリー)とカウシャリヤー・プラジャーパティ、通称ボビー(カーヴェーリー・カプール)の夫婦は、カウンセラーのシャナーヤー・カローディー(リレット・ドゥベー)にカウンセリングを受けていた。二人はシャナーヤーからなれ初めについて聞かれ、話し始める。

 二人は近くに住んでいたものの出会うことはなかった。だが、たまたま飛行機のトラブルによって空港で出会い、ケンブリッジで一日を共に過ごすことになる。そのときはそのまま別れてしまったが、二人ともお互いのことを考えて過ごしていた。それから2年以上が経ち、二人は共通の知人の葬儀で再会する。ボビーはリシを運命の人だと感じており、思い切って彼にプロポーズをする。だが、リシはアンジャリ(ソーナム・ナーンワーニー)と婚約をしたばかりだった。リシはアンジャリとの婚約を破棄してボビーと結婚すると言い出すが、そんなに簡単に関係を切れるリシをボビーは信用できなくなる。

 ボビーの姉リヤー(ニシャー・アーリヤー)の結婚式が行われていた。そこへリシが裸で駆け込んでくる。リシはアンジャリとセックスをしているときにボビーの名前をつぶやいてしまい追い出されてしまったのだ。リシとボビーは結婚することになる。

 では、なぜ二人がシャナーヤーにカウンセリングを受けていたかというと、ボビーが夫婦別々の部屋で生活したいと言い出したからだった。シャナーヤーはそれを夫婦仲を良くするいい方法だと同意する。そのときボビーは妊娠しているかもしれないとリシに初めて明かす。

 「Hum Tum」や「Fanaa」のような大ヒット作を撮った映画監督が、このような低品質の映画を作ったことに驚きと失望を感じずにはいられない。駆け出しの新人監督でももはやこのような陳腐なロマンス映画を撮ることはない。クナール・コーリー監督は一体どうしてしまったのかと心配になる作品だ。これが彼の実力だとすれば、彼の初期のヒット作は、プロデューサーであるアーディティヤ・チョープラーなどの手がかなり入っていたのかもしれない。

 もっとも興ざめだったのは、ボビーがリシにプロポーズをするシーンの直後のやり取りだ。突然リシは、自分には許嫁がいると言い出すが、そんな伏線は全くなかった。リシ特有の冗談かと思ったら本当だった。こんないい加減な脚本があるだろうか。

 この映画の失敗の責任は究極的には、脚本も担当したコーリー監督にあるが、失敗を確実に失敗だと明確化してしまっていたのはカーヴェーリー・カプールの大根役者ぶりであった。正直いって、女優をやるレベルの容姿ではないし、かといって特別な演技力があるわけでもない。セリフも甘ったるい声で棒読みするだけだ。ヒロインに魅力がないために、ロマンス映画の魔法が成立しなくなっている。

 また、カーヴェーリーが演じたボビーはパンジャービーの家系という設定だった。カプール姓が示す通り、カーヴェーリーの父親シェーカル・カプールはパンジャーブ人である。だが、南インド人女優スチトラー・クリシュナムールティと結婚し、カーヴェーリーが生まれている。いわば北インド人と南インド人のハイブリッドであるが、どうしても南インド人の血が濃く見えてしまう。よって、プラジャーパティ家で彼女だけ浮いてしまっていた。こういうところも気になり始めると止まらなくなる。

 大根役者のカーヴェーリーに比べると、相手役リシを演じたヴァルダーン・プリーは健闘していたといえる。全身を使って躍動的に演技をしていた。だが、カーヴェーリーの失点を補填するまでの力は発揮できていなかった。

 カーヴェーリーのローンチ映画ということもあってか、音楽関係の裏方は豪華だ。ARレヘマーン、スネーハー・カーンワルカル、シャーンなどの名前が見える。確かに音楽にはちょっとした新しさがあった。

 「Bobby Aur Rishi Ki Love Story」は、「Hum Tum」や「Fanaa」などのロマンス映画で一世を風靡したクナール・コーリー監督が久々に撮ったロマンス映画である。だが、残念ながらしばらく表舞台から遠ざかっていたこともあって腕は錆び付いてしまったようだ。下手な新人監督でもこんな酷い映画は撮らないというレベルの駄作になっている。その責任の一端は、これがデビュー作となるカーヴェーリー・カプールにもある。観るだけ時間の無駄なので要注意だ。