Outhouse

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Outhouse
「Outhouse」

 2024年12月20日公開の「Outhouse」は、ワンパクな犬が人と人をつなぐ、心温まる物語である。マラーティー語映画界の著名なベテラン俳優であるモーハン・アーガーシェーがプロデュースし、また主演も演じている。アーガーシェーは過去にも「Kaasav」(2016年)や「Dithee」(2019年)といったマラーティー語映画をプロデュースしているが、ヒンディー語映画のプロデュースは初だと思われる。

 監督はスニール・スクタンカル。スクタンカル監督は、スミトラー・バーヴェーと共に数々の映画を監督してきた。前述の「Kaasav」や「Dithee」も彼らの手によるものである。ただ、スミトラーは2021年に亡くなってしまった。この「Outhouse」は、スミトラーの脚本による映画であり、アーガーシェーとスクタンカル監督がスミトラーを偲んで作った。

 主演はモーハン・アーガーシェーとシャルミラー・タゴール。他に、ソーナーリー・クルカルニー、ニーラジ・カビー、ジーハーン・ホーダール、スニール・アビヤンカル、プラディープ・ジョーシーなどが出演している。

 プネーに一人で住む老婦人アーディマー(シャルミラー・タゴール)は、娘ヴァス(ソーナーリー・クルカルニー)とその夫チャールダット(ニーラジ・カビー)の息子ニール(ジーハーン・ホーダール)と飼い犬パブロをしばらく預かることになる。アーディマーはパブロが苦手で、家の外に寝かせておいた。

 翌朝、パブロは勝手に家の外に散歩に出てしまう。ちょうどそこを通りがかった老人ナーナー(モーハン・アーガーシェー)に付いていき、彼の家に住み着いてしまう。ニールはパブロがいなくなって荒れる。アーディマーと共にパブロを探すが見つからない。だが、とあるアパートでパブロの鳴き声を聞き、そこにいると確信する。

 ニールはアーディマーと共にスパイの格好をしてアパートに潜入する。だが、ナーナーもパブロを「シュガー」と名付けてかわいがっており、誰にも渡そうとしなかった。だが、ニールとアーディマーはナーナーが留守の間にパブロを連れ戻す。

 シュガーがいなくなったことを知り、今度はナーナーが落ち込む。ナーナーはアーディマーの家まで行ってシュガーを探すが、アーディマーとニールもパブロを離れ家に隠す。ナーナーは離れ家に忍び込もうとするが、後を付けてきた息子ニキル(スニール・アビヤンカル)に見つかってしまう。

 パブロを取り戻したニールだったが、ナーナーがかわいそうになる。そこでパブロを連れてナーナーの家に遊びに行く。だが、ナーナーはもうすぐムンバイーに引っ越す予定だった。ニキルが彼をムンバイーに連れて行こうとしていたのだ。アーディマーはナーナーに、離れ家に住めばいいと提案する。

 老人、子供、そして犬の黄金コンビネーションで心温まる物語を紡ぎ出している。特に老人の視点が中心になっている。

 シャルミラー・タゴール演じるアーディマーは夫に先立たれ、プネーの邸宅で悠々自適の生活を送っていた。老齢であるが、漫画家で小遣い稼ぎをしていた。とても変わった設定である。アーディマーの娘ヴァスとその夫チャールダットはそれぞれ仕事で忙しく、すれ違いがちである。夫婦の不仲は一人息子ニールも敏感に感じ取っていた。アーディマーは、しばらく家で預かることになったニールと会話をしながら、ヴァスとチャールダットがうまく行っていないことに気づき、心配していた。だが、ヴァスは母親を老人扱いし、あまり相手にしていなかった。

 モーハン・アーガーシェー演じるナーナーも似たような境遇にあった。やはり妻に先立たれ、アパートの一室に賃貸で暮らしていた。息子のニキルからは、彼がムンバイーに所有する物件の名義人を自分に変更してほしいと頼まれていた。また、ムンバイーで一緒に住むようにも言われていた。だが、ナーナーは自由気ままに生活したいと思っており、プネーを離れるつもりはなかった。ナーナーは頑固な性格だった。

 アーディマーとナーナーは近所に住んでおり、散歩などですれ違う関係ではあったが、面識はなかった。後から、アーディマーの亡き夫とナーナーは草クリケットチームで一緒だったことが分かるものの、直接お互いを知っていたわけではなかった。この二人を結びつけたのが犬のパブロであった。

 パブロがなぜ頑固なナーナーに懐いたのかは不明である。パブロはしばらくナーナーの家に厄介になり、瞬く間に彼の孤独を癒やす大切な存在になる。ナーナーはパブロを「シュガー」と呼んでいた。その後、アーディマーとニールはナーナーの家にパブロがいることに気付き、ある日ナーナーの留守中にパブロを奪い返す。すると今度はナーナーがアーディマーの家に忍び込んでシュガーを取り返そうとする。

 法律から見たら彼らのやっていることは住居侵入やペットの窃盗などに当たるが、「Outhouse」はもっと大らかに彼らの行動を描き出す。ナーナーもニールもスパイまたは探偵に憧れており、ゲーム感覚で犬の捜索や救出をしていたことも、シリアスになりすぎない秘訣になっていた。パブロを奪い返したニールが、ナーナーが寂しがっているのではないかと気付く場面は秀逸であった。彼らは犬を巡る敵同士ではなく、同じ犬を愛する同士であることに気付くのである。

 ナーナーは、住み慣れたプネーを離れ、息子の住むムンバイーに引っ越そうとしていた。だが、パブロを通してアーディマーとつながりができたことで、彼はアーディマーの離れ家に住まわせてもらえることになる。ナーナーもアーディマーも配偶者を亡くしており、いい話し相手にはなるだろうが、彼らのこの決断に対して娘夫婦のコメントが全くなく、彼らがすんなり認めたのかと疑問に感じた。普通だったら問題になる行動である。

 モーハン・アーガーシェーは偏屈な老人を等身大で演じていたし、シャルミラー・タゴールからは老齢になったとはいえ気品があふれ出ていた。この二人に取り合わせは興味深いものだ。また、ニールを演じたジーハーン・ホーダールは「Dunki」(2023年)などに出演していた子役俳優だ。溌剌とした演技が良かった。ソーナーリー・クルカルニーとニーラジ・カビーの出番は少なかったが、ピンポイントで的確な演技をしていた。

 「Outhouse」は、現役世代から何かと命令されがちな老人と子供を共感させ、しかも犬を使って見知らぬ二人を結び合わせるところから生み出される物語だ。日常のちょっとした出来事を切り取った地味な作品であるが、漫画家をする老婦人や犬の愛らしい行動などで個性を付けることができていた。ただ、安っぽさは否めず、言葉足らずですっきりできない部分もあった。