Despatch

3.0
Despatch
「Despatch」

 2024年11月21日にインド国際映画祭(IFFI)でプレミア上映され、同年12月13日からZee5で配信開始された「Despatch」は、リアルなタッチで犯罪ジャーナリズムの世界に迫ったサスペンス映画である。ムンバイーのアンダーワールドを取材し、刺客によって2011年に暗殺されたジャーナリスト、ジョーティルモイ・デーをモデルにしているとされる。

 監督は「Titli」(2015年)のカヌ・ベヘル。「Mukti Bhawan」(2017年/邦題:ガンジスに還る)に出演していた俳優ラリト・ベヘルの息子で、音楽監督スネーハー・カンワルカルの夫である。BGMはスネーハーが担当している。

 主演はマノージ・バージペーイー。他に、シャハーナー・ゴースワーミー、アルチター・アガルワール、リトゥパルナー・セーン、パールヴァティー・セヘガル、マーミク・スィン、カビール・サダーナンドなどが出演している。

 2012年、ムンバイー。インド第3位の英字新聞「Despatch」のベテラン記者ジョイ・バーグ(マノージ・バージペーイー)は、デジタル時代の到来を前に、従来型のジャーナリズムを信じ、スクープを狙っていた。ちょうど日中に通貨マフィアのシェッティーが暗殺されるという事件があり、ジョイはこの事件を追い始める。取材を進める中で、ダーウード・イブラーヒームのDカンパニーとチョーター・ラージャンのギャングの間の抗争が関わっていること、さらに、2G汚職事件で監視官の家宅捜索を受けた建築会社GDRなども絡んでくる。

 一方、ジョイは妻シュエーター(シャハーナー・ゴースワーミー)にうんざりしており、後輩記者プレールナー・プラカーシュ(アルチター・アガルワール)と不倫関係にあった。プレールナーにジョイはシュエーターと早期に離婚することを約束していた。とりあえずジョイはプレールナーと同棲するための部屋を探しており、取材で知り得た情報と引き換えに建築マフィアの一味から部屋を借り受け、プレールナーを住まわせる。

 ジョイは取材を進める内に、海外のシェルカンパニーによって所有されるGDRの真の所有者を覆い隠すため、GDRが必死にとある書類を見つけ出そうとしていることを知る。ジョイはわずかな手掛かりからたどっていき、遂にGDRの親会社がストーンドーム社であること、また、そのオーナーがワードワー(カビール・サダーナンド)であることを突き止める。ジョイはロンドンでワードワー本人とも会う。だが、インドに戻ったジョイは命を狙われるようになっていた。ジョイは、殺される前に記事を新聞に載せて公表しようとするが、「Despatch」もストーンドーム社に買収されており、どうあがいても記事はもみ消されると分かった。

 ジョイはムンバイー脱出を決意し、まずはプレールナーに会いに行く。その後、母親に会いに行くが、バイクに乗った男たちに尾行されていることに気付く。ジョイは何とか逃げようとするが、道中で銃弾を受けて殺される。

 実在のマフィアや実際にあった汚職事件などが言及されており、とてもリアルである。さらにリアルなのは、主人公ジョイが決して純粋な正義ではないことだ。ベテラン記者ではあったが、使命感や正義感をもって仕事をしているわけではない。今回、彼がスクープを求めたのも、報道の世界にデジタル化の波が押し寄せる中、最後のあがきをしたかったからである。また、プライベートも乱れており、妻シュエーターとの仲は冷え切っている上に職場の後輩プレールナーと不倫関係にあり、しかも昔の恋人ヌーリーとも思い出したようにセックスをする。プレールナーとけんかをすると、取材で知り得た情報と引き換えに建築マフィアを交渉し、部屋を貸してもらうというちゃっかりさも持ち合わせている。犯罪ジャーナリズムの世界は綺麗事だけではないことが赤裸々に映し出されている。

 映像は腰が据わっていて力があり、間の取り方もうまかった。性描写は激しめで、年齢制限を担保しにくいOTT配信映画としては限界に近い描き方だった。マノージ・バージペーイーのほぼ全裸姿も見ることができる。

 非常に硬派な映画で、主演マノージ・バージペーイーの演技も素晴らしかったのだが、次から次へと新キャラが登場し、途中から付いていくのが困難になった。初見で全てを理解するのは難しいかもしれない。最低でも2回観なければいけないだろう。

 ジョイのモデルになったジョーティルモイ・デーについても少し触れておこう。彼はボンベイ生まれのジャーナリストで、Mid-Day紙、Hindustan Times紙、Indian Express紙などに勤めたことがある。特にムンバイーのアンダーワールドに詳しく、ダーウード・イブラーヒームやチョーター・ラージャンといった有名なギャングの記事をよく書いていた。その死に際も「Despatch」の最後とそっくりで、道中で刺客によって暗殺された。その黒幕はよく分かっておらず、迷宮入りしてしまっているが、彼が書いた記事に関連するギャングの仕業だと考えられている。

 「Despatch」は、OTT時代に人気急上昇したマノージ・バージペーイーの最新作である。犯罪ジャーナリズムの世界を赤裸々に描き出そうとした作品で、綺麗事では務まらないその仕事の特性がリアルなタッチで映し出されている。だが、事件に絡んでくる登場人物が多すぎて付いていくのが大変である。もう少し分かりやすく作ってくれると親切だった。