Paani (Marathi)

3.0
Paani
「Paani」

 2024年10月18日公開のマラーティー語映画「Paani(水)」は、マハーラーシュトラ州の水不足に悩む村に水をもたらした青年を主人公にした、実話にもとづく映画である。

 監督はアーディナート・M・コーターレー。マラーティー語映画界の重鎮マヘーシュ・コーターレーの息子で、元々俳優として活躍していたが、この「Paani」で長編映画監督デビューを果たした。彼は主演も務めている。プリヤンカー・チョープラーがプロデューサーをしている点が注目される。

 他に、ルチャー・ヴァイディヤー、スボード・バーヴェー、ラジト・カプール、キショール・カダムなどが出演している。

 オリジナルはマラーティー語だが、鑑賞したのはヒンディー語吹替版である。

 1999年、マハーラーシュトラ州ナーンデード県ナーグダルコーディー村。ハヌマント・ケーンドレー、通称バーブー(アーディナート・M・コーターレー)はお見合いをし、スヴァルナー(ルチャー・ヴァイディヤー)という女性と結婚することになる。だが、スヴァルナーの両親は、水不足に悩むナーグダルコーディー村に娘を嫁がせることに難色を示し、縁談は破談となる。スヴァルナーに一目惚れしていたバーブーは何とかナーグダルコーディー村の水不足を解消しようとする。スヴァルナーもバーブーのことを気に入っており、彼を待ち続ける。

 バーブーの兄バーラージー(スボード・バーヴェー)は村々に人工涵養によって水をもたらす社会活動家だった。だが、彼がいながら故郷ナーグダルコーディー村が水不足に悩んでいたのは、村人たちが結束していなかったからだった。地元政治家ターティヤー(キショール・カダム)が政治的権力を得るために手下を使って村人たちに不仲をもたらしていたのである。だが、スヴァルナーと何としてでも結婚したかったバーブーはターティヤーを恐れず水のために戦い始める。

 まずバーブーは村の女性たちを組織化し、彼女たちに涵養の重要性を説く。村人たちはなかなか協力的になれなかったが、バーブーの熱意は彼らをその気にさせる。助成金により、涵養作業をしている間は賃金が出ることも助けになった。こうしてバーブーは村人たちの協力を得て、地面に多くの穴を掘る。ターティヤーの手下による妨害も受けるがめげず、彼らをも仲間にしてしまう。雨期が来ると、地面に掘った無数の穴から水が地下水にたまり、例年よりも長く井戸の水が利用可能になった。だが、それでも11月には井戸水は枯渇してしまった。

 バーブーは、もっと低地に井戸を掘れば1年中水が得られるはずだと考える。だが、井戸を掘る資金は政府から手に入らなかった。そこでバーブーは村人たちと共に井戸を掘り出す。だが、スヴァルナーの縁談が別の男性と決まり、婚約式の日が近づいていた。バーブーはスヴァルナーの両親に直談判に行くが、婚約式の日までしか猶予はもらえなかった。その日までに村に水が得られなければスヴァルナーは別の男性のところへ嫁いでしまう。バーブーは必死になって井戸を掘った。

 タイムリミット直前までバーブーは村人たちと共に井戸を掘り続けたが、次第に諦める村人たちも出て来て、一人また一人と村を捨てて町へ出て行った。バーブーはいったん諦めるが、スヴァルナーから励ましを受け、もう一度井戸掘りに向かう。そしてとうとう井戸の底から水が湧き出てきた。

 映画の舞台となるのはマハーラーシュトラ州内の、俗に「マラートワーダー」と呼ばれる地域である。これはマハーラーシュトラ州中部となり、アジャンターやエローラがある辺りである。この地域はステップ気候にあたり、年間を通して雨が少なく、干魃が頻発する地域だ。映画の舞台になっていたナーグダルコーディー村も長年水不足に悩まされて続けており、村の女性たちは毎日遠くから水を運ばなければならなかった。

 どうやらこの地域では、村に十分な水があるかどうかが縁談に影響するようである。主人公バーブーはお見合いをし、スヴァルナーという女性を気に入るが、彼女の両親は、バーブーの家がナーグダルコーディー村にあることを知ると態度を変える。なぜならそんな村に住む男性と結婚して嫁いだら、娘は毎日水を運ぶために重労働をしなければならなくなるからである。村には、水不足という理由で結婚できずに中年になってしまった男性も見掛けられた。水は生きていくために不可欠な物質だが、人生の伴侶を得るためにも重要なのである。

 さらに、水不足のために村は深刻な人材流出にも直面していた。水が手に入らず、嫁ももらえない村にいつまでも住み続けようとする者は少なく、チャンスがあればどんどん町へ出て行ってしまっていた。このままでは村から人がいなくなってしまう恐れがあった。

 では、なぜナーグダルコーディー村は水不足を放置してきたのか。それには他の理由があった。どうも政治が入り込んで村人たちが分裂しており、一丸となって何かに取り組む土壌がなかったようだ。バーブーの兄バーラージーは、マラートワーダー地域の村々に水をもたらす活動をしていたが、故郷ではそれが実現できていなかった。

 水不足を解消するために、そしてスヴァルナーと結婚するために、バーブーがイニシアチブを取って始めたのが人工涵養であった。地面に無数の穴を掘り、雨水が貯まるようにして、それを地下に染みこませ、地下水位を上げて、井戸水が枯渇しないようにする工事である。マハーラーシュトラ州では村人たちが人工涵養の工事に従事した場合、賃金が支払われる制度があるようである。バーブーは、地元政治家の妨害に遭いながらも村人たちをまとめ、人工涵養を始める。

 また、人工涵養だけでは既存の井戸から年中水が得られないと気付いたバーブーは、もっと低地に新たな井戸を掘り始める。この井戸から水が湧いたところで物語はハッピーエンドとなる構成だ。

 上映時間の大半は穴を掘っているという作品である。そこにバーブーとスヴァルナーの恋愛や悪役との衝突などが差し挟まれるが、全体として単調なのは否めない。井戸の底で水源を掘り当てる結末も半ば予想できたことであり、スリルらしいスリルはなかった。

 水や井戸を巡る物語は実は今までいくつか作られてきた。シャーム・ベーネーガル監督の「Well Done Abba」(2010年)、「Jal」(2014年)、「Kaun Kitney Paani Mein」(2015年)、「Kadvi Hawa」(2017年)、「Turtle」(2021年)などである。この中には水不足を気候変動と関連づけて問題化しているものもあったのだが、「Paani」で起こっていた水不足は土地柄的なものであり、また結束できない村人に起因する人災でもあった。どちらかといえば、一人で山を削って道を作り出した実在の人物の伝記映画「Manjhi: The Mountain Man」(2015年)に近い映画である。

 「Paani」は、アーディナート・M・コーターレーが監督・主演を務め、マハーラーシュトラ州中部の水不足問題を取り上げた、実話にもとづく映画である。実在する人物による実際の出来事という制約があるせいか脚色に苦労したように見受けられ、とにかく穴を掘り続けるという単調な映画になってしまっていたきらいはあった。